152話
「戻ったか。」
「危うく死にかけたー。一応録画あるけど・・・お目当てのものは撮れてないよ。ただそれでも価値はある情報だけどね。」
ロジクはアーメグの放り投げたSDカードをその手に取る。
「まだ自分も命かけているのか。いずれ本当に取り返しのつかない事になるぞ。」
「だってズルじゃん?向こうにはこっちのゲームキャラとして実験に付き合ってもらう可能性あるのにさ。」
言っても無駄だと分かると、ロジクはため息を1つついた。
「で、ロジクはなんでこいつらの戦ってるところを見たかったの?」
「・・・計算外のものを持っているからだ。僕はそれを・・・知りたい。」
答えはしたもののその歯切れは悪かった。
「知識欲かー。そりゃ私らには大事なものだけど・・・何を持って知り尽くしたとするの?あいつらに勝てたら?」
ロジクは黙り込む。
「あれ?おーい・・・?」
「・・・何故。・・・か。」
心がザワつく。
(・・・何故僕はここまで奴らに拘っている?プライドか?そんなくだらないもののためにこの僕が?)
「ロジク様。」
そんなロジクの思考を遮るように彼のディスプレイからAI・リリスの声がした。
「どうした?」
「先程のSDカードの読み込みが完了致しました。全てをご覧になる事も、私が必要そうな所を編集したものをご覧になる事も可能です。」
ふむ・・・と唸るように返事をする。
どうも何かが引っかかる。
(しかし・・・奴らの持つ経験や想いとやらが気になるのも事実。・・・ふっ、まずは自分の想いを把握するところからだとはな。この僕とて知識欲―言い換えるなら好奇心に負ける事もあるという事か。とはいえ好奇心は猫をも殺すとも言う。今のうちに自分の想いに気が付けてよかった、注意して行動せねば。)
自身の問いに一応の答えを出せて満足したロジクは宙に浮いたディスプレイを操作し始めていた。
「うーん・・・まあ・・・簡単に分かったら苦労はしないよね。」
パーツについても、前の襲撃についてもはっきりとした答えは出てこない。
舜はあれこれ部屋の中を歩き回りながら考えては止まり、また歩き回る。
「・・・ちょっと気分転換してこようかな。」
「ああ、行ってらっしゃい。この国を散策するつもりならこれを渡しておこうか?」
ツォーは首輪を手渡した。
「・・・何これ?」
「首輪だけど?」
見りゃわかるだろと言わんばかりにツォーは答える。
「・・・何の目的でこれを渡したの?」
「ん?私が唾をつけた魔力者ですという目印さ。」
ああと納得しつつも舜はつけない。
「で、他に機能は?」
「いつでも爆発させられるよ!」
舜は首輪を床に叩きつけて外へ出ていった。
(とはいえ・・・どこ行こうかな。いっそアウナリトに戻る・・・?夜じゃないとみんな忙しそうだけど・・・。)
「やっほー、待った?」
「ああ、そりゃもうめちゃくちゃ。」
「えー?こういう時は嘘でも待ってないって言うんだよ?」
舜はその声の方を向いた。
「嘘でもなんでもなく待ってないけど・・・何の用?」
そこにはY9が笑っていた。
「奇遇だね、舜たん。たまたま見かけたから話しかけてみたの。」
「たまたま・・・なの?俺がこの国にいることは知らなかったと?」
「どうかなー?どう思う?Y9ちゃんのこと信じてみる?疑ってみる?」
敵意は無さそうではあるが胡散臭くはある。
「それでさ、どうせお互い暇ならデートしてみない?デ・エ・ト♪」
「そのデートの予定に戦いって入ってる?」
「入れていいなら入れるよ?」
舜はその目をしっかり見る。
Y9も舜の目をしっかりと見ていた。
「いや、普通のデートにしようか。折角だしショッピングでもいかが?」
「へーいいじゃん。でもここにいいお店なんかあるかな?それとも蜘蛛ちゃんでアウナリトまで行く?」
サラリとY9は言ってのける。
(相も変わらずこっちの情報はダダ漏れか。そしてその事をわざわざ教えてくれている、と。)
舜はポケットから石を取り出す。
「それじゃあY9がどんな人間なのか、少しでも見せてもらうよ。ナチャ!」
舜もお返しに自身の目的をサラリと言ってからアウナリトへワープした。
「服屋?Y9ちゃんに服買ってくれるの?」
「欲しいなら買うけど・・・注文してたのそろそろ受け取れるかなって。」
へー買ってくれるんだーとY9は笑う。
「じゃあ、Y9ちゃんに似合いそうなの選んでよ。」
「・・・・・・いいの?・・・どんなの選ぶか保証しないけど。」
Y9は面白そうにうなづいたので舜はどんな服を選ぶか考える。
「・・・これでどう?」
「へー、かっこいい系だね。私じゃ選ばない系統だ。どうしてこれに?」
舜の持ってきた黒のコート等のシックな服をY9は手に取って身体に当てている。
「似合うでしょ、かっこいい服。」
「かっこいい服なのに胸のラインが出やすいとことか?」
「う・・・。」
舜の身体が硬直する。
「あ、図星?もしかしてムッツリ?」
「うるさいな・・・。ただ単にかっこいい服が似合いそうだなって選ぼうと思って、見てたらスタイルの良さが目立ちそうな服あってこれめっちゃいいな見たいなって思っただけだよ。」
「あ、本当に図星なんだ・・・。」
「お買い上げありがとうございます。」
舜は大量の紙袋の中からY9の為に選んだ服が入ったものを手渡す。
「いやー本当に買ってもらえるとは。舜たんの為だけに取っておきの場面で着ちゃおうかな?ね、ね、見たい?」
「どちらかと言うとめちゃくちゃ見たいけど?」
Y9はニコニコ笑っている。
「舜たんさっきから私に一杯食わせようとしてるでしょ。可愛いんだー。」
でもこれくらいじゃ動揺しないけどねとY9は付け加える。
「そっか、残念。戸惑ってる可愛い姿は見せてくれないと。」
ふふんっと鼻を鳴らしたあと、舜が事前に注文してたという6つの紙袋を不思議そうに眺める。
「大量にあるね?なんの服?」
「黒のドレス、6着。」
「いや多くない?」
Y9の顔から笑みが消え、おかしなものを見るような目で舜を見つめる。
「1人1着でも連れてる女の子5人でしょ?え?舜たん本人の?」
「これ全部漣用だよ。」
「いや多くない?」
おかしなものを以下略。
「王族時代から結構この街並み歩いててさ。そしたら顔馴染みになって特別に全着20%引きにしてくれるって言ってくれて。」
「それでも多くない?」
舜はドンと胸を張った。
「1着20%引きなら買えば買うだけお得!」
「全くそんなことないよ?」
「5着買うと合計1着分安くなるから6着目は実質無料!」
「全くそんなことはないよ?」
Y9を動揺させるという目的は意図していない形で成功していた。
Y9の服を選ぶ時の選択肢
かっこいい系
可愛い系
露出の高いもの
どれを選んでも動揺はさせられない




