147話
「みーつけた。ご苦労さま、マイルカちゃん。」
地下にて未だ燃え続けている物体にムイムイは近付いていく。
"何の用だ、人間"
「あんたのせいでさ、うちの抹香鯨ちゃんが苦しんでるのよね。だから、お別れと同時にあんたに仕返しに来たの。」
"愚かな・・・私が力を完全に失ったと勘違いしたな?"
大量の腕の生えた胴体。
最初に出会った時の姿にそれは戻る。
"数分であればこの姿に戻れるのだよ。そして、お前の魔力を貰いまた復活してみせる。"
「抹香鯨・武器変形。」
抹香鯨だった巨大な魔力が形を変えていく。
「白鯨大砲・モービィディック。」
大砲が1つ、現れた。
"思い出した。貴様は確かに我が身体の半分を奪ったもの。だが、たかが1人で驕るな人間"
「豊穣な言の葉よ。」
湾曲した片刃刀をムイムイは出す。
"無駄だ、消えよ!"
サマエルの大量の手から魔力が一斉に放たれた。
だが辺りを泳がせていたイシイルカ達にあっさり防がれる。
"何!?"
「舜さんに言われて思い出したんだけどさ。ジャメールとあんたって2つで副隊長やってた訳じゃん?」
サマエルは1歩思わず後ろに下がった。
あまりの魔力の高さと威圧感の為に。
「ジャメールって確かに真面目で努力家だったけど、単体での実力は能力無しのリーンに手が届かなかった。あんたが能力代わりだったけどあんた単体だけだと副隊長にはなれなかった。必死に努力した凡才とあんたの2つでようやく副隊長の座に座れたんだ。」
"なんなのだ貴様は!?"
「そう・・・本来ならあんた程度、私たちなら1人でも簡単に倒せる。そう、簡単に。」
ムイムイは大砲の穴に剣の柄を入れ、飾りで引っ掛けて固定した。
「武具合体。」
2つの武器が形を変えて1つの武器へと変わっていく。
大砲が柄へ変わっていく。
大砲から強大な魔力が放たれ、それが剣と合わさり強大な刀身へと。
「あんたに使うには過ぎた代物。これは私の怒りと知れ。」
"来るな!この私が・・・この我が、圧倒されるなど有り得ぬ!"
「残鯨刀・レヴィアタンメルヴィレイ。」
魔力の光が全体に広がったあと、刀へと収縮していく。
ムイムイの身体から振り抜かれる、身体よりも大きな剣。
鋭利な歯を想像させるギザギザの刃がサマエルを捉え―
その全てが跡形もなく砕け散った。
「・・・姿が変わっても、一緒だからね。・・・行こう。」
ムイムイは刀に話しかけたあと、泳いでたイルカ達と共にその場を去る。
その直後に、サマエルがいた場所の地形が崩壊した。
「ムスルス、聞いた?舜さん達、そろそろメヒャーニに行くって。」
「うん・・・うん・・・聞いた。」
シャロンはたまたま見かけたムスルスに話しかける。
「当てようか?一緒に行きたいんでしょ。」
「・・・・・・。」
ムスルスは答えない。
「・・・行きたければ行っていいと思うよ。ムイムイいるし。最悪サナスさんに無理やり出てもらえばいいし。」
「・・・悩んでる。まだ、ずっと。」
「そっか。どっちの道を選んでもきっと大丈夫だよ。」
ムスルスはまた無言で考え始める。
シャロンは邪魔しないようそっとその場を後にした。
「しかしメヒャーニですか・・・。」
「私よく知らないんだけどどんな国なの?」
漣が不思議そうに愛花を見ながら聞く。
「昔ある能力者達がメヒャーニで好き勝手しようと、まず1人忍び込みました。しばらく経っても仲間と音信が繋がらなかった為、仲間は自分達も行くべきかと悩んでいると忍び込んだ1人がボロボロの姿で逃げ帰ってきました。そして、あそこに人権はない。メヒャーニに近づいては駄目だ。モルモットにされる・・・と。」
端的に舜は説明する。
「あそこ、実験の国って言われるぐらい盛んなのはいいんですけど、他にも変人の国って言われてるんですよね。実験のためなら倫理観も捨て去ってるとか何とか・・・。」
「わぁ、なんでそんなところに?」
舜は義兄の手紙を読み直す。
「・・・義兄上がやろうとしてたことがそこにあるみたいなんだ。俺がそれを引き継がないと。」
「うん・・・まあこのメンバーいれば多分大丈夫だよ!ね、舜くん!」
漣の微笑みに舜も笑って頷く。
「さて、出発の準備とみんなに一旦のお別れを言いに行こう。ナチャの糸を各地に置いてるからいつでも戻ってこれるとはいえ、一応ね。」
それぞれは頷いて、各々準備を始める。
「・・・山を降れば、後は私の車で行ける。・・・そこまではナチャで車をお願い。」
「うん、運転頼むよ怜奈。」
舜は色んな人の元を訪れて出発の日を伝えていく。
「・・・舜さん。」
そんな舜の元へムスルスは自分から探し見つけた。
「ムスルス、えっと。」
「私、決めたよ。私はここに残る。ここにはまだ治安を安定させるべきところも、信頼出来る人間も少ない。」
舜は微笑んで頷いた。
「俺がいない間は、アウナリトを頼むよ。」
「うん!任せて!」
吹っ切れたかのような笑みに舜は手を振って別れを告げた。
その後、アウナリトでは。
新特殊部隊隊長となったムスルスが積極的に首都圏外部を回った事で治安は改善傾向。ムルシーやシィラにより、元ローグ達も受け入れる体制が整っていく。
一方実力があるからと同じく新隊長にされたムイムイはテキトーにしたいのにー!と悲鳴をあげながら仕事をこなしていた。
深刻だった首都圏と他の貧困の差の改善にも尽力していく。
その為の事業としてシャロンがサナスに協力。努力の末魔力で早く大量に育つ野菜が生産され、サナスは戦いに巻き込まれることがほぼなく平穏に、忙しく過ごして行く。
トワはリエーに帰り、水産業を発展。サナスの野菜をリエーに、リエーの水産物をアウナリトにと貿易を強化。ダゴンや国民たちと共に再びリエーの活性化を目指した。
新国王レアスは縁ありリーンと交際。中性的な見た目がリーンに刺さったとか何とか。2人で協力しながらアウナリトをより良い国へと発展させていく。
ビャフーストに帰ったターガレスとデイムは結婚を発表。かつて争っていた能力者の代表者と無能力者の頭の結婚はビャフーストを震撼させ、能力者と無能力者による差異の改善へと意識が向かっていく。
舜は気が付いていないが。
ようやく舜達の行動が掴み取った、1つの未来がそこにはあった。
5章 fin
漣「漣ちゃんだよ!」
雪「雪乃です。」
漣「5章終了!そして多分ここら辺が物語折り返し時点!」
雪「3章のリエー、4章のビャフーストも巻き込んで平和に向かうという、ちょうどいい前半戦の終了ポイントですね。」
漣「残された謎はまだまだあるよ!結局回復魔法って何?とかサマエル/ヤルダバオートはなんであんなに強くなってたの?とか。7邪神も全部明かされてないし!」
雪「後編に入る前にもしかしたらおまけとして先にアウナリトのメンバーの設定とか入るかもしれません。」
漣「それではまた次回!」
雪「読んでくださいね。」




