143話
「助かりました、サナスさん!」
「いえ、しかし・・・。」
地上が炎に包まれてから、サナスは速やかに地上で戦っていた者たちを救助していた。
サナスはこの炎の切れ端を見る。
「・・・妙ですね。これだけの炎でありながら範囲が狭い。これより先に燃え広がる様子が無い。誰かが食い止めてるのは分かりますがそれにしても・・・。」
サナスは戦いの方に目を向ける。
その目に映るのは、確かに全力を出して連携する舜とムスルスなのだが・・・。
何か拭えない疑問に首を傾げる。
「・・・サナスさん、誰かって誰?」
シャロンはサナスの独り言が気になり問いかける。
「そうですね、おそらく・・・。」
「よかった、愛花と合流出来て。」
「咲希ちゃん、何か分かってることある?」
魔力の2枚の天使の羽を纏った愛花が、魔力で闇と炎の侵攻を食い止める。
「さっぱりだ。急にあれが現れて、トワに頼まれてあちらこちら走り回っていたから何も。」
「・・・やっぱり私もこの中に入って・・・。」
真っ黒な闇に包まれ、中はどうなっているか分からない。
「待て愛花。」
イームが近くの屋根に降り立ち、愛花を止める。
「いくら纏魔を使っているお前とはいえ、何があるか分からない。必死に避難誘導を続けて近くからはだいぶ人は減ったとはいえ、やっぱり外からいざと言う時に備えていた方がいいと思う。こうやって炎を止められるのも、何か次に飛んできた時に真っ先に対処出来るのも愛花の魔力で無いと苦しいだろうし。」
愛花は頭の中に舜を思い浮かべてみる。
舜なら何をして何と言うだろうか。
「・・・対処とか言うなら本体を直接さっさと処理した方が早くない?・・・これだ!!!」
若干モノマネも入れながら呟いた言葉にイームは凄い目で愛花を見ていた。
「うん、愛花落ち着いて。あまりにも脳筋すぎるけど愛花の中のあの人の像それでいいの?」
「いや・・・私も愛花と同じく舜なら、他人を助ける為なら自分の身体ボロボロになっても突っ込む奴だから、多分脳筋で突っ込んでその後から戦い中にあれこれ対応策考えると思う。」
「それは・・・苦労させられてきただろうね。」
愛花はじっと闇の中を見る。
この間もターガレスとデイムは避難誘導を続けている。
「うん・・・まずは避難誘導を優先して、突っ込むのはそれからかな。」
愛花は空からまた逃げ遅れた人がいないか探す事にした。
舜とムスルスの2人が連携してバリアの破壊を目指す。
防げない魔力の攻撃は雪乃が抑え、それ以外の攻撃は2人でお互いにお互いを支えながら捌いていく。
少ない実戦でありながら、2人は相方の戦い方は知っていると言わんばかりに見事な連携。
しかし、舜の全てを破壊するもの以外はヤルダバオートもかき消し、奪い、対抗する。
(それでも見てたっす。わざわざバリアに当たらないように大技をかき消した、すなわちそれはあのバリアは高火力なら破れるという事に他ならない。)
様子を見ていたムルシーの身体が熱を帯びていく。
「纏魔!!炎帝凱歌!!」
ムルシーの身体に魔力の炎が纏っていく。
それは鎧と呼ぶにはあまりに頼りないものであった。
炎は真っ黒な硬質なものとなって身体を覆うのだが、あまりにも覆えていない部分が多い。
辛うじて胸部は身体のラインに沿って覆えているが、その他の部分は線のようにか細いもので格子のようである。
顔は特に何も覆えておらず、ただ唯一立派なマントがばさりと翻った。
「・・・クロム様のようなかっこいい感じになってから披露したかったんすけどね。・・・さて。」
ムルシーは膝をグッと曲げて、跳ぶ。
ヤルダバオートの眼前まで来ると、炎を吹き出させることでそこで静止した。
ヤルダバオートもただ見ているだけではなく、魔力を放つ―が、その魔力はムルシーに当たる前にその熱で掻き消された。
「何人、犠牲にした。何人、家を失くさせた。神を名乗るなら、その位の答えは分かるか。」
ヤルダバオートは答えず、ただその存在を凝視している。
「何人もの相手から笑顔を奪った。答えろ!」
"・・・奪われて当然である。それ故に数など些細なものは知らぬ"
ムルシーの熱が跳ね上がる。
自分の技は他の技と同じく奪えるのかもしれない。
そんな事は分かりきっていた。
それでも尚、ムルシーは炎を使いヤルダバオートに向かって加速する。
何故なら。
この決意は、この信念は。
灼け付くような心から放たれているこの熱は。
(お 前 如 き に 奪 え る も の な ら 奪 っ て み ろ !!)
自身の身体すら灼かんとするその炎を。
この程度の神が奪える訳がないと、拳を握る。
「祝融ノ舞!」
一人の少女の熱き心が、神へ叛逆する。




