140話
「復讐鬼!」
群がる異形に真っ黒な爆発が襲う。
「・・・っ。」
中から現れた舜は膝をついて息を整える。
その間にも新たな異形が同じ数だけ現れようと地面から這い出てくる。
(落ち着け・・・あの腕の長いやつは武器を伸ばせる能力持ちだと考えればいい。足に手がついてるやつは・・・鉤爪で足を取れる能力だ。)
全てを頭で人と無理やり置き換えていこうとする。
一番最初に地上へ上がった奴を見て―舜は唖然とした。
胸と背中に1本ずつ。踊っているようにうねうねと動かしている。
「なんの意味があるんだよ!?」
「ちょっとごめんね!」
ムスルスが思わず冷静さを失いそうになった舜を抱き寄せて、屋根の上へ上がる。
舜はその姿を確認出来ないまま、頬にたまたま押し付けられる形となっていた柔らかい感覚を感じていた。
「ふぅ、止血・・・は出来てるか。・・・焼き焦げてる?さっきの爆発?」
舜を優しく話したムスルスはじっと舜の顔を見る。
「赤くなってる。何かウイルス性のものを傷口から与えた可能性があるね。」
「や・・・これは・・・違う・・・。ちょっと冷静さを失って・・・。」
「叫んでたもんね。しかし何だろうねこの相手。」
今別の意味で冷静さを失っているのだが、とりあえず安全な場所へと必死だった彼女は気が付いていない。
「・・・しかしどうするべきかなあれ。私の剣で斬っても復活する辺り純粋な魔力じゃないか、または本体を何とかしないといけないか。」
サマエルの方をチラリと見たあと異形達を見る。
放っておけば近くの人達に無差別で襲いかかる存在。
「・・・向こうで一応本体と戦ってる人達はいる。信じてここで無限に湧くこいつらを何とかする?」
「・・・・・・。」
舜はサマエル戦の戦況を遠くから確認してみようとする。
「・・・向こうに合流出来るならしたいな。」
「片方が残る?」
「いや、ムスルスの力も欲しい。・・・。」
多少の犠牲はやむなしなのか。
一瞬であったのに痛く、長く感じられる沈黙が流れた。
「・・・愛花が追いついたら―。」
「おうおう!ここは俺らに任せておけ!」
その声に地上を見る。
「やれやれ、折角デートをしていたと言うのに。僕を怒らせた事、後悔するといい。」
「デイム!ターガレス!」
戦闘向きの服装をしては居ないが、2人は異形達と正面に対峙していた。
「・・・任せて大丈夫そう!?」
「旦那!俺との付き合いの方が長い筈なのに先にデイムの名を呼んでたり、確認する辺り俺を戦力として見てないよな!?」
「・・・・・・いや、えっと。」
口篭る。
「うん!正直見てない!心配!!」
「答えに詰まった上に嘘すらつかれなかった!?」
舜の言葉に反応しながらターガレスは玄武を呼び出す。
「旦那、これでもかい?」
「・・・・・・!・・・そこの亀さん!ターガレスを頼んだよ!行こう!ムスルス!」
「うん!」
2人は足早へサマエルの元へ向かっていく。
「さて・・・まずは僕から行こうか。離区光星!」
2人に向かってこようとしていた異形はピタリと足を止めた。
否、他の異形達もガクンと項垂れ動きを止める。
「・・・あれ?これで終わりか?」
「いや・・・連携を切っただけだ。あの指揮してる奴の指示が届かなくなっただけ。」
異形達は急に顔を持ち上げたと思うと何かに反応して2人に向かっていく。
「指示が受け取れなくなった分、近くの人に向かってくるようなったみたいだ!住民たちは守れるが代わりにこの辺りのは全部僕たちに来る!やるぞターガレス!」
「おうよ!」
ムイムイの放った巨大な魔力の鯨がサマエルの元へ向かっていく。
サマエルの胴体の大量の手から放たれる魔力がその鯨に傷をつけていくが、それでも尚止まらない。
サマエルの顔に魔力が集っていく。
巨大な魔力に対して巨大な魔力で退けんと。
「させない。」
雪乃が氷柱を飛ばし、サマエルの顔をぶち当てた。
抉られた脇腹は何か処置をしたのか、血は流れていない。
服も破れた以外では綺麗そのままである。
サマエルの魔力は軌道がほんの少しだけ逸れた。
鯨の頭の右上かすり抉って、はるか彼方まで飛んでいく。
鯨は悲痛を示すように鳴き声をあげ、こちらも左へ逸れていく。
それでも尚前を向き、サマエルと衝突した。
ムイムイが鯨を出してから僅か数秒のあいだの出来事である。
メキメキメキメキと軋む音。
真っ黒な巨大な胴体は鯨との衝突を受けて文字通り半壊した。
「・・・復活しない敵が出てきた!」
異形の足止めをしていたリーンが倒れ砕け散ったまま動かない異形の残骸に気が付いて叫ぶ。
歪な割れ方をしながら右半分だけ残った胴体。
首も危うく取れかかっている。
"この身体に傷をつけた罪、その身に受けるがよい"
残った手から上空へ魔力が放たれていく。
更に取れそうな首がぐわんと上を向いて、そこからの魔力も上空で1つに固めていく。
(あー・・・あれ食らっちゃいけないやつだな・・・。)
言霊で魔力を足場にし、宙に立っていたムイムイはその光景を見て、目を瞑る。
「いや、いいよ。気持ちは嬉しいけど盾にはならないし君たちまで傷付く必要はない。」
ムイムイは目を瞑ったまま剣に話しかけた。




