138話
「・・・シィラ。俺を、恨んでる?」
ローグ残党を倒した舜達は帰路についていた。
「まさか!舜お兄様を恨んだらクロム様が向こうで悲しい顔をしてしまいます。」
「・・・そうか。・・・うん、立派な人だったんだね。」
ふふんとシィラは胸を張った。そんな人に仕えられた事を、出逢えたことを自慢するように。
「・・・望まずにしてその姿になったのなら、俺の能力で何とかなるかもしれない。・・・どうする?」
「あー・・・。」
シィラは少し顔を伏せ、悩んだ。
そして顔を上げた時にはスッキリしたような表情で舜を見た。
「まだ結構です。長年12歳をやってて思った事があります。大人とある程度の年齢になった子供に精神的な境界線なんてないんだと。子供に向かってこぞって大人になれって言うけれど、何処にもその大人の理想形は存在してません。ただ子供よりちょっと我慢を強いられて、不満を持って、そして変わらずダメな所も沢山ある・・・そんな人間の事を大人と呼ぶんです。なら・・・まだ子供扱いでいた方が、楽しいので。いつか飽きたら頼みます。その時まで、無事でいてくださいよ?」
「達観してる・・・大人だ・・・。」
「シィラは子供です!」
ぷくーっと頬を膨らませる。
「・・・お話中ごめんなさい舜兄。なんか・・・リーンちゃんから早めに戻れる!?ってメッセージが来てて、こっちからメッセージを送っても反応が無くて・・・。」
「反応って普段そんなすぐされるものなの?」
「リーンちゃんは女の子からの連絡なら1秒も待たせません。」
「そんなリーンから返って来ないの世紀の大事件じゃん。・・・分かった、早く帰れる方法を使おう。」
舜はポケットの中から石を取り出した。
「戻ったよー。」
Y9が先頭でカオスの元へ戻り、その後ろからフーロがさっと飛び出し頭を垂れた。
「申し訳ありません!カオス様の令じゃないと気が付かず勝手な行動を!」
「構わぬ。よく無事で戻った。」
「ありがたきお言葉!・・・おい、シュネールも・・・。」
堂々と立ったままのシュネールは何かをブツブツと言っている。
「おい、シュネール。」
そんなシュネールに声をかけたのはロジクだった。
「貴様、まさかとは思うが・・・僕が教えたまだ訓練ですら上手くいってない舜対策をぶっつけ本番でやったとか言わんよな?」
「あー・・・ちょっと今その言い訳を考えてるんでたんまたんま。」
ロジクのこめかみに青筋が出る。
「今の貴様ならまともにかち合った方が勝機は高いであろう。それを貴様、もしかしたら舜本人に弱点のことをバレて対策されるかも―」
「ロジク様・・・とても言い難いのですが・・・この阿呆は自分からバラして知能戦を仕掛けた結果、哀れにも負けました。」
「いや、負けてない負けてない!Y9さんの邪魔が入っただけで―!」
更に怒りに身体を震わせるロジクの視界に葉巻が映りこんだ。
「元より舜本人も気が付いているであろう事だ。そもそも簡単に対策が出来るのであればそれは弱点では無い。」
「お、いい事言うっすね!」
「何様だ阿呆!お前も私と共にさっさと頭を下げろ!」
ロジクは諦めたかのようにため息をついて下がった。
「それで―アピアルは?」
落ち着いたところでY9は他のものが黙ってしまうようなトーンで聞いた。
「さて・・・あやつの行動は俺にも読み切れぬ。」
「カオスたんなら分かってると思うけどさ。・・・何か考えがあるよ、アピアルには。」
カオスは葉巻を吸い、そしてゆっくりと煙を吐いた。
「敵になるか味方になるか・・・。だが、その前に・・・。・・・下がってよい。」
「はっ!・・・シュネール、鍛錬しに行くぞ。」
「え!?俺今肋折れて・・・あっ!耳引っ張らないで!行くから!行くから!」
騒がしい2人に目もくれずカオスはロジクを見た。
既に背を向けているロジクは1人、考え事をしていた。
「半道鯆。」
ムイムイの魂が込められてる魔力達がイルカの形をしてスイスイと宙を泳ぐ。
鋭利な歯で噛み付くもの、その泳ぐ速さで体当たりを仕掛けるもの、尾びれで叩くものなど様々な方法で異形を退け、イルカ達は道を開けていく。
「やあっ!」
そのイルカ達を追い越して漣は槍で一閃、異形を穿いていく。
「やるねー。じゃあ先頭は任せてその左右後ろから襲われないように動こうか。」
その指示に従い、イルカは漣の少し後ろを泳ぎ協力して僅かな道をひた走る。
「柚!」
背後の敵にシャロンが柚子の枝をバリケードのように作り出す。
異形達はそれに向かって攻撃を怯まず続け、倒しては追ってくる。
「ダメ!痛覚が無いのか棘が効かない!」
「じゃあ置いていくほど速く行かないとね!」
そんな3人を見て、人型の異形は指揮棒を振るように指示をした。




