13話
あれから1週間が経ち―戦場慣れもした頃。
「まさかオーフェが言い始めるとはって部分はあったけれど―いつかやれたらいいなとは思ってたよ。」
舜とイパノヴァとオーフェの3人だけで外に出ていた。
「まあな。あの2人がいるといつまで経ってもお前の底が知れない。」
(それに・・・初陣の時に少し気になっていたしな・・・。)
オーフェが気にかけていたのは初陣の時の舜の様子だった。
【・・・下衆が。】
あの時の光景が離れない。
(あの時任せて様子を見たかったんだが・・・ただその後はイパノヴァ庇おうとしてたり・・・気の所為だといいんだが。)
「・・・!行くぞ!」
そんな事を考えてる間に舜がなにかに気が付いたのか駆け出していき、イパノヴァも後を追っていく。
オーフェも見失わないよう後を追った。
ある民家
その入口から血が滴り落ちているのが見える。
入ってすぐにその理由は分かった。
死体がぶら下がっている。
そして、今まさに1人の10にも届いてなさそうな少女を凶刃が襲おうとしていた。
「・・・あ゛?」
振り上げられた刃を何者かに''素手''で掴まれた。
「・・・ここは俺達の縄張りだろうが。てめぇなりたてか?」
刀を手放し、新たに刀を取り出した男は言う。
「俺達・・・。そう、複数いるんだ。」
「ああ、分かったらどっか行け。この肉は俺の肉・・・」
そう言った時にはその両手は斬り落とされていた。
「ひっ!なんだ・・・なんだそれは・・・!」
真っ黒な刃身だけで出来た武器。それが宙に浮いていた。
両手を斬り落としたのもその刃だった。
「ま・・・待て・・・お前は俺を殺そうとしているが・・・俺が人を殺すのとなんの差があるんだ・・・!」
「興味無い。」
コツコツと―
「英雄のつもりか!悪人なら死んでもいいというのか!」
「さあ・・・英雄なんて名乗ってないし・・・ただお前に死んで欲しいと思ったから殺すだけだよ。」
冷酷に―
「待って・・・俺だって生きるのに必死なんだ!人の肉でも食わねぇと食うもんが・・・」
「興味無いってば。」
「貴様!人の血が通ってないのか―!」
確実な死の音が聞こえた。
「 やっと・・・追いついた・・・。・・・っ。イパノヴァ、見ない方が。」
(・・・大丈夫。)
イパノヴァとオーフェは息も絶え絶えに民家に入る。
民家には血だらけの人間が3人と怯えて震えている少女と、民家の至る所を確認しながら首を傾げる舜がいた。
「ごめんね2人とも置いていって・・・。ここは既に誰かが来たあとみたいだ。他の特殊部隊・・・かな。あ、2人ともあの子頼んでいい?この光景見せるのも、と思ったんだけど俺が近付くと怯えちゃって・・・。同性の2人の方がいいかなって。」
「分かった。外へ連れていく。お前はどうするんだ?」
舜は周りを見渡す。
「・・・とりあえず犠牲者を降ろして整えられるところは整えてから・・・埋めてあげられるなら埋めたいな。」
「・・・埋めるのは時間かかるだろ。保護しないと行けない子もいるのにこんなところで時間取るのは反対だ。」
「・・・そうだね。せめて整えさせて。」
オーフェは頷き、イパノヴァと少女を引き連れ出ていった。
舜は2つの遺体を降ろし、服を整えて口から出た血を拭いてあげ、手を合わせた。
「娘さんを守るためにもこの程度しか出来なかったのを許してください。」
そして外へ出る。
「・・・じゃあ今回はこの子を孤児院に連れて行っておしまい・・・かな。」
ビクッと警戒するその子に舜はあははと作り笑いしながら軽く離れてあげる。
「ああ、結局お前の事が何も分からなかったな・・・。」
オーフェは残念そうに呟いた。
その時だった。
「おいおいお前らよォ!どこ行く気だァ!」
屋根の上から声がかけられる。
「・・・オーフェ、その子は頼んだ。」
「・・・抱いて走るしか僕には脳がない。この状況どうにかしろと頼むのは僕の方だ。」
舜は剣を構え、イパノヴァも身構える。
「・・・5人、だな。1人だけ別のところにいるあれがリーダー格だろうから。イパノヴァはあの子に向かう敵の足止めを。近付かれたら俺に思いっきり叫びかけて。」
そう声をかけながら舜は頭をフルに使う。
今この場で少女を守り切るにはどうするべきか。
人を殺せるのは自分しかいない。つまり自分が仕掛けなければ防戦一方だが―仕掛けてしまうとその間少女への守りが緩くなる。
(リーダー格をさっさと潰せれば・・・!)
舜は塀を蹴り三角飛びのように屋根へ着地し、着地と同時に剣を即座に斬りかかれるよう肩越しに剣を出す。
そして踏み込むと共に振り降ろし、剣を打ち合う。
(・・・あぐっ!・・・っ!)
「イパノヴァ!」
下からイパノヴァの苦しむ声とオーフェの叫び声が聞こえる。
(時間がない・・・!なら!)
「貰った・・・なっ!?」
相手の突き出した剣をわざと左肩に刺させ、魔力を込める。
相手が剣を抜こうとして抜けなかった出来たほんの一瞬の間。
それを使って舜は首を突き刺した。
「・・・っ!」
ズキリと肩が痛む。だがそれでも舜は止まる訳にはいかない。
下へ飛び降りる。
イパノヴァは敵からの魔弾を体を張って2人を守っていた。
舜はその前に滑り込む。
「イパノヴァ、無事!?」
(・・・うん・・・何とか・・・。)
舜は周りの4人の男の様子を見る。
悪趣味な笑みを浮かべ、魔弾を放ってくるが手負いの舜でもその程度はダメージにはならない。
だが―
(まずったな・・・後ろに回られたら3人を狙われるか・・・。少女さえどこか安全な場所へ連れて行ければなんとでも出来るけれど・・・。)
正面から左の家の屋根に2人。右の家の屋根に2人。
こちらは後ろにボロボロのイパノヴァと戦いに参戦した事がないオーフェと少女。
(・・・なんだ?頭が・・・。血を流しすぎた・・・?)
舜は頭がズキズキと痛むのを感じた。
「・・・舜?」
オーフェの声が遠くから聞こえる。どんどん遠くへ・・・行く感じがする。
だが次のオーフェの声で戻ってきた。
「・・・イパノヴァ!?」
イパノヴァは何か覚悟を決めたような表情で舜の横に立つ。
「下がって―」
舜の制止の前にイパノヴァは動いていた。
(我が膝元で永眠せよ―対象は・・・心臓。)
そして、4人の動きは止まり―10秒もするとバタバタと倒れていく。
それを確認するとイパノヴァも倒れ―舜に受け止められる。
舜は傷口は痛むものの決して離すまいと彼女を抱きかかえた。
(逃げて・・・意識を失わせただけに過ぎないから・・・。)
「分かった!オーフェ!」
「ああ!逃げるぞ!」
こうして3人での出陣は何とか無事に帰還することが出来た。
当然のように言ってくれたらいざという時まで手は出しませんよ、3人だけで危ないことをしないでくださいと愛花には叱られ、少女は無事孤児院に送れ―
「成功とは言えなくても終わりよければ全てよし!」
「しゅ・ん・に・い?」
「ごめんなさい反省しております愛花さん。」
「しかしまあ刺されたのに大した傷になってないってどんな体してるんですか舜兄は。」
愛花は"包帯で"イパノヴァの止血をしながら、軽く"回復魔法"で治療しただけでピンピンしてる舜を見てつぶやく。
「うん、イパノヴァちゃんもそんなに怪我自体は重くなさそう。魔力を消費しすぎてるけど・・・この程度なら大丈夫。」
「そう、良かった。」
(ありがとね、愛花!)
イパノヴァはまだ少し息が整ってないが顔色は一時期と比べて戻っていた。
「しかしあれ、1部分だけ動き止めたの?」
(うん、4人一気には初めてだったし10秒も止めようとしたら思ったより魔力使っちゃったけれど。)
普段、イパノヴァが止めるのは1人にかつ2秒あるかどうかだ。
「・・・心臓を直接ねぇ。普段の1人に全体のやつじゃ心臓は止められないんだよね?」
(うん、止められないよ。)
舜はふむと考える。
「・・・ダメだ、詳しくないから心臓数秒止まったらどうなるか分からん!」
そして考えるのをやめた。
そもそも10秒止めただけでこんなに息も絶え絶えになる技を使わせようとも思わない。
「おい、舜。そろそろ説教終わったか?話したい事があるんだが。」
「・・・愛花さん、そろそろよろしいでしょうか。」
「うむ、よろしい。二度とこんなことが無いように。」
「ははー。愛花様ー愛花様ー。」
「・・・で、どうしたの?」
別部屋に移動し、オーフェと2人きりになる。
「いや、まあまず庇ってくれてどーもって事と。」
愛花に全て自分の発案だとして1人で舜は怒られていた。
「・・・お前、あの時何をしようとしてた?」
「あの時って?」
「・・・イパノヴァが能力を使う前だ。」
舜は記憶を辿る。
「特に―思い付いてなかったかな。」
あの子さえ安全な所へいれば考えはあったが、あの子がいた時点でその行動に映ることなど考えすらしていなかった。
「そうか・・・勘違いならいいんだ。」
そういえばあの時、頭が痛くて。
でも傷は大したこと無かった。
(あれ・・・なんだったんだろうな?そういえば。)
いまいち納得出来る理由が思い付かないまま、その思考は頭の片隅にへと追いやられていくのであった。