136話
舜達がローグ残党と戦っていた同時刻。
「・・・ジャメール?」
「どったのシャロン。」
医療室でシャロンはしきりに外を確認している。
その様子を不思議そうにリーンは眺めていた。
「なんか・・・胸騒ぎ。行かなきゃ!」
「ちょっ、シャロン!まだ無理をしないで!」
起き上がり駆け出したシャロンに驚きながらもリーンは後を追う。
「リーン!今いる中で一番強いのは誰!?」
「え!?えっと・・・サナスさんか怜奈かな?」
「・・・怜奈はまだ本調子じゃなさそうだったし・・・サナスさんか・・・!」
全速力で駆け抜けていく。
「わっ!」
「痛っ!?」
角で誰かとぶつかった。
「ごめんなさい!急いでて・・・後で謝るから!」
「待って!もしかしてだけど・・・あなたも外の不穏さが気になって?」
顔も見ず慌てて駆け出そうとしていたシャロンはその足を止めた。
「あなたは確か・・・舜さんの仲間の・・・。」
「漣。漣だよ、シャロンさん。・・・行かなきゃ、不味い気がする。」
背後から走ってきていたリーンが追い付いた。
「よく分からないけど・・・サナスさんには私から話通しておくから不安な所に行くだけ行ってみたら?」
シャロンと漣は顔を見合せて頷き、2人で外へと駆け出した。
「・・・え?いやなんで私なんです?私もうアウナリト軍ですらないんですよ?」
「そこをなんとか!今頼りになる強い人はサナスさんしか居ないんです!」
リーンはすぐ様サナスの元に来ていた。
「いやいや、舜さん・・・は今外か。ムスルスさん愛花さんも一緒に向かったし・・・ムイムイさん!・・・はまだ帰ってきてないか。イームさんもまだで・・・。・・・あ!怜奈さんは?」
「あの子は今精神的にちょっと・・・あの、ほんのちょっとの不安が取り除かれればそれでいいだけなんです!」
サナスは天を仰いだ。
「うーん・・・。」
読んでいた家庭菜園の本を置く。
「・・・あ!今その外に向かってる子、植物に詳しいですよ!さっさと終わらせて話しませんか?」
「いえ・・・まあ・・・分かりましたよ。怪我人が無茶をしてまで外に何かあるって事と私がとりあえず向かうべきって事は。」
サナスは嫌々立ち上がった。
その時だった。
「「!?」」
異常な魔力がアウナリト首都圏を囲んだ。
それは恐ろしい光景だった。
アウナリトに現れた巨大な異形。
三角錐の、まるで塔を思わせる真っ黒な胴体。
その胴の円形の最下層から、グルりと恐らく皮膚のようなものが地面の近くまで伸びている。
その胴体から乱雑に生えている何十本もの腕。
その周りにはあまりの魔力の高さに辺りのもの全てが浮き上がっていく。
白い羽は自身が天使だと言わんばかりに綺麗な羽を落としながら動き、浮き上がったものはこの羽ばたきで崩壊していく。
足は細長いのだが、殆どが黒く広い円形の胴に隠れ、時折隙間から覗かせるだけである。
そして顔は、真っ白でまるで仮面のように目のような穴と口のような穴が空いているのみで、その穴からは神聖な光が漏れ出ている。
魔力の高い者達はそのあまりの光景と魔力に息を飲んだ。
魔力の無いものたちはまるで気が付かないように過ごし、そして―。
歩くだけで破壊されていく街並み。
たまたま近くを通られた人は光を浴びて、溶けるように消えた。
それを止めるべく、近くまで走る2人の少女。
いや、気が付いた今は誰もがそこへ向かい出していた。
「・・・天使!」
シャロンは叫んだ。
「足を・・・止めて!お願い!罪のない命が・・・!」
"人は生まれ落ちた時点で罪人である"
近くにいる人間の脳内にそんな文字がはっきりと記された。
「お願い!天使、あなたはジャメールの・・・!?」
"神の御使いである私の邪魔をするもの、裁かれるべし"
シャロンの身体が浮かぶ。
シャロンは苦悶の表情を浮かべながら首元の何か必死に触る。
「我が思いはかの如く!」
漣の声とともに炎の鳥が現れ、苦しむシャロンを包んだ。
シャロンは地面に落ち、やっとの思いで息を吸う。
"天使の裁きを書き換えた。万死に値する"
天使は無機物のような顔をガクリと動かした。
鐘の音が白い衝撃波と共にアウナリトへ。
地面からボコボコと手が生え、人を模したようで様々な形のある異形が這い出してくる。
しかし異形達が這い出たところに穴は残っていない。
地面からすり抜けてくるかのように、現れる。
「くっ!?」
漣は足から手が生えている白い異形に足を捕まれ、背中から手が生えている異形がその手で漣の心臓を貫いた。
「いったいな!もう!」
漣は炎となり拘束から抜け出し、万全の身体で地面に降り立つ。
一体の、人と同じ形をしている人形がその様子を見て押し潰すようなジェスチャーをする。
「うわっ!?」
次の瞬間には漣の周りに沢山の異形が押し寄せていた。
天使は2人を地から這い出た異形に任せ、侵攻を進めた。




