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愛の歌  作者: Dust
5章
135/228

132話

永遠の命。

何故それを欲していたのかすら分からない。

ただそれを求めて邪神に近付こうとした者たちがいた。

唱えるだけで不死になれる呪文を見つけ出した彼らは、憐れな12歳の少女でその呪文を試そうとした。

「えくすくろぴおすくあちるうたうす。」

そのやせ細った少女は彼らに生かして貰うために、何も知らないままその呪文を読まされた。

青白い光の中で、笑ってるような泣いてるような声を聞いた。

目が焼けるかのように熱く、赤紫色に染まり。

そして邪神は周りの人間の全てと彼女の幸せと引き換えに、彼女に不老を与えた。

1年目の12歳の事だった。


たった12歳の子供で1人で生きていくのは難しかった。

フラフラとひもじい思いをしながら歩いていく。

たまたま出会った旅人がいた。

やせ細っている彼女を見て憐れに思ったその旅人は彼女の手を取り、食料を分けて与えようと思った。

彼女はその光景を決して忘れないだろう。

自分の手を取ったその手が、いや全身がどんどんシワだらけになっていく。

悲鳴。悲鳴。悲鳴。

もはやどちらの悲鳴が分からなかった。

骨と化し、尚まだ老化が止まらず塵と消えていく。

彼女は虚ろな目で、ただ呆然とする他無かった。


3年目の12歳の頃。

日陰で出来るだけ動かないようにする事で、僅かな木の根等で必死に飢えを凌いでた彼女に人影が近付いてきた。

「・・・君、どうしたの?」

その声でようやく彼女も反応した。

表情で、全身で警戒を表しながらゆっくりその黒い鎧に包まれた相手を見つめたまま下がる。

「来る、な。触る、な。死ぬぞ。」

絞り出すような声を聞いてその鎧は堂々と近付いた。

「待て、駄目!」

その声も無視して腕を掴まれた。

彼女は目を瞑った。

腕を掴まれていなければ耳も塞ぎたかった。

「大丈夫、私は強いから。・・・もう一度聞こう。君、どうしたの?」

その日、彼女は救われた。


それから数年、その少女は鎧の人間以外の目の前には現れず過ごした。

鎧の人間は食べ物や飲み物、寝る場所を提供した上で話し相手として彼女と共に過ごした。

唯一、触りあえる人間だった。

「その力をコントロール出来れば、きっと君はもっと幸せになれると思う。制御しようと思いながら私に触れる、それを繰り返してご覧。」

彼女にとってはその鎧の人間がいるだけで幸せだったので、より多くの幸せは求めてはいなかった。

それでも鎧の人間からの提案だからとやってみることにした。


6年目の12歳の頃。

鎧の人間に引っ付いて別の少女がやってきた。

彼女は警戒し、威嚇し、触られぬように、そして鎧の人間が奪われぬようにと鎧の人間が居ないところで強く当たり散らした。

でも肝心の相手は壊れたようにニコニコ笑うだけだった。

ある日、彼女の着替え中に身体に痣が残っているのに気がついた。

「・・・彼女かい?ああ、あるローグの気まぐれによって生かされていた子なんだ。そのローグは気まぐれのように拾った子供を殺し、気まぐれのように愛した。・・・結果として、彼女は自分の感情を殺して他人の表情を見て過ごし、媚びへつらって食べ物を分けてもらい、機嫌を損ねないように生きるのがこびりついてしまった。私はね、彼女の人間性を取り戻したいと思っているんだ。」

それ以降、彼女に強く当たるのはやめるようになった。


7年目の12歳の頃。

鎧の人間の元に新しく来た少女は懐いていた。

鎧の人間相手のみとはいえ、本当の自分をさらけ出せるようなっていた。

前からいた彼女は複雑だった。

鎧の人間の思い通りになったという喜びと、自身への愛情が減ってしまったという寂しさと。

もちろん、自分とも話してくれる。

それでも愛情に飢えていた少女に唯一愛情を与えられる人間だったが故に、他の人へ愛情が向いてしまう事にモヤモヤとしていた。


「だいじょうぶ?」

話しかけてきたのは向こうからだった。

1人、泣いていた時におそるおそる近付いて。

「こないで。」

一言、そう言い放ち立ち上がって後ろに後ずさりして。

クラりと天が回った気がした。

愛が減ってしまったという悩みから来るストレスからか、彼女の平衡感覚は失われ。

そして、その手を生身の手で掴まれた。

「―ぁ・・・。」

絶望が一気に襲いかかってきた。

鎧の人間が愛した人間が今、自分の手で失われるのだと。

結局、私は人と生きるのは無理なのだと。


「・・・へいき?」

しかし彼女―ムルシーはなんともないようだった。

鎧の人間とやっていた事が実を結んでいたと知れた日であり、そしてその日から彼女はようやく人間へと戻れた日でもある。

彼女を救ったのは、人間に戻したのは、鎧の人間の―クロムの圧倒的な強さによるものだと心からそう感謝した。

彼女―シィラにとってクロムの強さは絶対的であり、決して歪ませられてはいけないもの。

だから―


「クロム様の強さを下に見たお前だけは、許せない。」

真っ直ぐ近付いてきた筈だった。

しかし誰もそのシィラに対応が取れない。

シィラの周りの時間だけが歪んで遅くなったかのように。

そして彼女は爛とその瞳を赤紫に変え、クロムを倒せると発言した阿呆の手を取る。

悲鳴。悲鳴。悲鳴。

しわくちゃになっていき、斑点が現れ、青くなった皮膚は黒みを帯びていき朽ちていく。

「クロム様直属の配下にして、七邪神が1柱・クァチル・ウタウスの使徒、シィラ!クロム様に代わりお前達の驕りが蟷螂の斧に過ぎないことを教えてやる!」

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