127話
「・・・・・・。」
舜は机の上に散らばっている紙を取っては眺め、眺めては新しい紙を手に取る。
平穏が少しずつ手に入り、それと同時に旧アウナリト体制の所業が世間に暴かれていく。
『前々王のラースが非人道的な実験を始めた。
何人もの子供を攫い、騙し協力させた魔力者を殺して実験は進んでいく。
しかし、それは四凶の手により止められることになる。
その後、前王ネビロスが実父のラースと当時力を持っていた権力者達を殺し、実験を再開。』
簡潔に纏められたその情報が広まっていく。
「・・・義父上・・・義兄上・・・。」
世間の評価が2人の悪評に染まる事は安易に予想が出来た。
2人を深く知らないものにとっては与えられた1つの見方でしか評価が出来ないのだ。
だが、舜は違う。
義理とはいえ家族として彼らの心を知っている舜は悪としても勿論見るが、全てが悪では無かったのだとも思いたい。
それは情がもたらす過ちなのか、はたまた1つの正しい見方なのかは誰にも判断が付かない。
「・・・舜兄。」
難しい顔して悩んでいる舜に愛花は話しかける。
「どうしたの?」
「ふっふっふ!デート!行きませんか?」
「・・・・・・。」
突然の誘いに頭が追いついていないのかイマイチ舜の反応が薄い。
「・・・あれー?何か言ってくれないと愛花ちゃん困っちゃうんですけどー?」
「・・・なんか・・・出会った時を思い出した。・・・元気そうでなにより。」
愛花はグイッと押していく。
「それで!行きますか?行きますか?それとも行きますかー!?」
「・・・じゃあ二番目の行きますかで。」
「お!二番目を選ぶとは通ですね!それじゃあ、行きましょ!!」
愛花は舜の手を握りブンブンと振りながら歩く。
「それで、予定は決まってるの?」
「ええ!」
愛花はもう片方の手の人差し指を顔の横に立てる。
「最近思い詰めるような事が沢山起こりましたからね。ここはくだらないものを見て楽しみましょう!」
「くだらないもの・・・?」
また愛花は舜を引っ張って先導していく。
「・・・映画館。」
「そうです!頭空っぽで見れそうなタイトルを見て、感想を言い合って、そしてまた見る!今日のプランはこれです!飲み物とポップコーン買いましょ!」
愛花があまりにも楽しそうにプランを話すのを見て、舜にも自然と笑みがこぼれる。
「それは・・・いいね。楽しそう。」
1本目。
見終わり、すぐ横にあるカフェで飲み物を頼む。
「いやー、凄かったですね!地中ザメ!」
「かつて地上を支配していた存在の侵攻・・・それもこの星の核がその地中ザメによって動いてるから倒してしまうと世界が凍えて生物が住めなくなってしまうのは厄介な設定だった。」
「捕食の仕方面白かったですね!いきなり地面に砂地獄が出来て落ちた人間を食べていく!」
「やってる事蟻地獄だったね。登れそうにも見えたけど落ちた人間はみんな食われてたし何かあったのかな。」
「解決法、コンクリートで地面を塞ぐというそれがあったか!って!なれるかー!って!」
「あの解決法は痺れたね。一瞬でコンクリートを地面にぶちまけられる謎の兵器が伏線もなしに出てくるんだもん。それがあったか・・・!とはなれない素晴らしいB級クオリティ!」
「最後の空に浮かぶ竜巻はなんだと思います?」
「恐らく・・・次回作の伏線だね。今度は空に住んでいてかつて地上を支配していた空中ザメが侵攻してくるんだと思う。今度はどう処理するんだろ。」
「あ!全ての空に屋根をつける兵器とか!」
キャッキャと映画の感想で盛り上がるだけ盛り上がり、喋り疲れたところでポップコーンの再補充をし2本目を見に行く。
2本目。
「いやー、とにかくドンパチやってましたね・・・。」
「最後の敵は惜しかったな・・・挑発に乗らず最後までプロらしく主人公を恐れていれば勝てただろうに。」
「でも・・・あの筋肉ですよ?なんやかんや筋肉で解決して勝っちゃいそうな。」
「凄い筋肉だった・・・。どんな鍛え方をしてきたんだろう。」
3本目。
「・・・いやー好き勝手やってましたね。」
「どっかで見た事ある怪獣とどっかで見た事ある宇宙人が手を組んで人間に襲い掛かるとは・・・。」
「海から来たビームを吐いてなんかマグロ食べてた怪獣の方はともかく・・・たまたま人間と衝突事故を起こした宇宙人って元ネタは人間の味方でしたよね?」
「しかもミサイルで呆気なくどっちも倒されちゃってるし。宇宙人の方は最終回の真似だろうけど宇宙恐竜倒したミサイルで宇宙人打ってるのはほんとハチャメチャというか好き放題というか。」
4本目。
「原作有り映画で原作を知らないけど・・・多分原作ファンは怒っていい出来だったと思います。」
「凄かったね。人間に戻れなくなった悲惨なシーンなのになんかお祝いし始めるし。」
「人類の大敵と戦うために宇宙で他の仲間がどんどんやられてくのになんか笑ってて悲壮感無かったですよね。」
「好意的に見たら悲惨すぎて笑うしかない・・・いやでもやっぱり緊張感は感じなかったな・・・。」
「いやぁ!楽しみましたね!」
「そうだね・・・。ねぇ、愛花。」
帰り道。夕日に照らされてる可憐な少女がとても愛おしく見えた。
「・・・ありがとう。」
「?お礼言われるようなこと、しましたっけ?」
とぼけてみせるが、舜が苦悩してるのを見て誘ったのは誰の目から見ても明らかだった。
「・・・ただ、思ったから口にしただけ。」
「ふふっ、そうですか。」
2人の手は、帰り道でもしっかりと握られていた。




