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愛の歌  作者: Dust
5章
129/229

126話

「ねぇねぇ舜くん!この服どうかな!?」

漣が駆け寄り、黒いドレス姿を見せびらかす。

「おお!可愛い可愛い!」

「でしょでしょ!で、こういう服を一着や二着ほど欲しいなぁなんて・・・。」

「よーしよしよし、買ってあげようねぇ。」

そんな2人を遠くから見て、愛花はふふっと笑う。

「またおばあちゃんみたいになってる。」

「・・・・・・。・・・愛花が笑うとこ、なんだか久々な気がする。」

そんな愛花を見て隣にいた怜奈がポツリと呟いた。

本来の明るい性格が沈んで見えなくなってしまうほど、過酷な道を歩いてきた。

「・・・・・・お互い、あの人のせいで大変だ。」

「ふふっ、そうだね。でも・・・肝心のあの人が笑えていれるから・・・良かった。」

グビっとグラスを傾ける。

「・・・あれ?・・・酔わない?」

「なんか分からないんですけど、舜兄と飲まない時は酔わないんですよね。ほんと謎というか。」


「あー!私は!私はどうっすか!」

「おー可愛い可愛い。」

明らかに雑な対応でもムルシーはふへへっと喜ぶ。

「よっしゃ!踊るっすよ!」

「え!?もう!?まだ誰も踊ってないけど・・・わっと。」

グイグイ引っ張られ、ムルシーと改めて向かい合う。

純白のドレスに目を見張るナイスボディ。

可愛いと美しいの間にいる少女が少し顔を紅潮させている。

"普通の男"ならまず見蕩れているだろう。

だが、舜は周りをキョロキョロと見回し、目立っている現状に困ったように笑っている。

ムルシーはそんな舜に自分を見ろと言わんばかりにタンタカタンと足を踏み鳴らした。


見様見真似のタップダンスもどき。

「はい!」

一通りそれっぽく踏み鳴らしたら舜に手を伸ばし、にっと笑う。

「ふぅ・・・なるほど。・・・やっ!」

舜もそれっぽく踏み鳴らしてその手を握る。

ムルシーはクルクルと周り舜の腕の中へ。

舜は反対側へそのムルシーを受け流し、そのままムルシーは回りながら舜の左手からムルシーの右腕が真っ直ぐ直線になる。

「もっと優雅なやつイメージしてた。」

「それじゃあ主役取れないっすよ!やるからには派手なミュージカルみたいに!」


ムルシーはぴょんと舜に向かって跳び、前屈みになった舜の背に背中からグルンと回って反対側に降り立つ。

向かい合って、同じような動きをしながら踊り合う。

「ははっ!ムルシーもっとやれやれ!」

「ガッ!って襲え!ガッ!って!」

バルトリーニとクローヴィスを始め、ヤジが飛び始め会場も盛り上がり始める。

しばらく踊り続けていた2人だったが、ムルシーが舜に正面から胸を押し付けた。

「おっと、ごめん。合わせられなかった。」

ムルシーは上目遣いで押し付けたまま舜を見る。

その豊満な谷間には汗が溜まっている。

「・・・前座はここまでっすね。」

「・・・?」

舜の意識に自分が無いことを1人静かに確認し、ムルシーは舜から離れると同時に舜をぐるりと回しその背を押して歩く。


「何?どうしたの?」

「いーからいーから。ほら!踊るべき人はこっちっすよ!」

正面にいる愛花と目が合う。

「・・・え?」

愛花は目の前に舜を連れてこられて目をぱちくりとしている。

ムルシーはにっと笑い、愛花の方の背へ周り舜に押し付けた。

「踊ってこーい!」

ブンブンと手を振って2人から離れていく。

会場の盛り上がりから断る事のしにくい雰囲気があった。

「・・・お疲れ様ですムルシー姉様。後でシィラとゲームでもしましょう。」

「・・・お気遣いありがとうっす、シィラ先輩。」


ムルシーの時とは違い、2人は視線が合っては泳がせながらリズムに合わせてゆったりとしたダンスをぎこちなく踊る。

「むー・・・折角譲ったのにあれじゃあ主役はやれないっす。・・・しょうがないなぁ吹っ切れたっす。」

なんやかんや初心な2人で盛り上がってる会場を見渡し、ムルシーは声を張上げた。

「キース!キース!キース!キース!キース!」

「「!?!?!?!?」」

2人の困惑を他所に、面白がってムルシーに続く者達が現れる。

真っ赤な顔で愛花は舜を見た。

舜は右下を見て思案している。

愛花の目からは困ってはいるものの動揺はしてないように映る。

そしてその顔がいつも以上に魅力的で、心臓の音が舜にも聞こえるんじゃないかというぐらい跳ね上がる。


「それじゃあ・・・失礼。」

舜は愛花の手を取り、膝をついてその手に口付けをした。

(わ・・・わぁ・・・!!!)

会場のボルテージがMAXになり、拍手が起きる。

もっと男を見せろという野次も飛ぶ。

そんな中、真っ赤な顔でいそいそと愛花は席へ戻った。

「お疲れ様〜。」

「う、うん。」

ムイムイがそんな愛花に声をかける。

「え、えへへ、大人な対応されちゃった。凄いなぁ顔色変えずに。・・・でも、意識は、して貰えてないのかな。」

「いやそんなことないでしょ。ほら見て。」

ムイムイの指差す方に顔真っ赤で煙を頭から吹き出しながらただ床を見ている舜がいた。

「え・・・あ・・・え・・・?」

(意識されてる・・・意識・・・わっ・・・暑い・・・。)

再び真っ赤になりながら顔をペタペタ触ったり手をバタバタ動かしながら愛花は照れる。


「良かったじゃん、早くものにしなよ。今の世の中で強くてかっこよくて責任感あって、ギリギリなんとかまあ倫理観も保ってる男なんてさっさと売れて当然だし。」

「・・・本人にそのギリギリのくだりは聞かせないでね?」

愛花は改めて舜を見る。

もしお互い想いあってるのなら。

憧れが恋慕に代わり、もしそれが両思いという形で叶うのであれば。

(・・・心の準備が・・・出来ない・・・!)

もしなったら、という想像だけで今は頭がいっぱいになり、まだ両思いになりたいという思いすら浮かばなかった。


食べて飲んで騒いでの時間もいつまでもは続かず。

少しずつ部屋に戻るものが現れ、お開きの時間が見えてくる頃。

「・・・雪乃、ずっと数種類のだけ食べてたな。量自体は異常だけど。」

「舜さんが作ったものですから。」

「そうなのか?」

咲希がまだ食べている雪乃に連れ添いながら静かに酒を飲む。

「やっほー、2人とも。聞こえてたけど俺が作ったのは1部だけだよ?」

雪乃の皿をふと見て舜は固まる。

「やだ・・・全部俺が作ったやつ・・・そんなに気に入ってくれて・・・?」

「待て舜、喜ぶより先に作った事を知っている事とそれを的確に見抜いてる事に恐怖を覚えるべきだ。」


スタッフ達が空になった皿を慌ただしく下げている。

「・・・俺が作ったやつは全部売れ切れか。嬉しいな。」

「多分半分以上食ったの雪乃だぞ・・・。」

舜はパーティ会場を改めて見回す。

まだ騒いで飲んでいる元ローグ組。

静かに2人で話しているターガレスとデイム。

椅子で微睡むトワとそれを見守るダゴン。

アウナリトを守らんと戦った者たち。

そして、自身と苦楽を共にした仲間。

「・・・失ったものも多かったけど、この未来を掴み取れたんだな。」

舜は喜びも寂しさも噛み締めながら、ただ呟いた。

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