124話
2人の魔力が高まっていく。
舜はムスルスの剣筋をしかと見極めんと宙で構えながら魔力を込める。
魔力を掻き消す斬撃を威力だけで逸らせるかどうか。
(斬撃を飛ばされる前の剣に当てるのが1番可能性高いか・・・!)
持ってる手にその威力が伝わればぶれるなり弾き飛ばすなり出来るかもしれない。
そんな事を思っている折、視界の端に何かが見えた。
「・・・え?」
人だ。誰かが凄まじい速度で飛んできた。
「・・・我が名はムーンビースト。」
その人間が2人の間に割り込み、異質な魔力のような何かを高める。
「・・・わっ!危ない!」
ムスルスもその存在に気が付いたが攻撃を止めきれず、その斬撃が飛ばされた。
「怜奈!」
その人物、怜奈は短剣でその斬撃を受け止めようとする。
威力で舜の方へと押されていく。
舜はその背を支える。
「全てを壊すもの!」
片方の手でムスルスの斬撃に触れ、その魔力を打ち消す効果を壊す。
それと同時に怜奈が魔力で剣を宙に作り出し、その斬撃に何本も突き刺し、壊した。
斬撃を何とか処理した怜奈は宙で舜に身体を預け、舜はそんな彼女を抱き寄せ着地する。
舜とムスルスはようやく鐘の音が何度も鳴らされていた事に気が付いた。
「試合終了!時間切れ!ムスルスの勝ち!」
「えっ!?なんで!?」
抗議の声をあげたのはムスルスの方だった。
「なんでってあなたが無傷で舜さんが左腕に傷負ってるからだけど。」
「無傷なのは加減してもらってたからで3回は死にかけてたから負けは私!」
「いや、そのうち2回は普通に処理出来てたと思うし1回もちょっと傷付けられただろうけど勝負決まる程のものじゃ無かったと思う。」
舜はふふっと少し寂しそうに笑った。
かつてリビともお互い勝ってないと言い争ったなと。
「・・・ありがとう怜奈。」
「・・・ん。・・・代償にブラのホックが外れた。」
サラッと怜奈は言う。
「ごめんなさい!」
「・・・今凝視すれば胸の形分かるかも。」
「見ません!見ませんから!」
「・・・冗談。」
意地悪げに怜奈は笑う。
「やめなよ・・・男には分からないレベルの冗談言うの・・・。」
舜の寂しそうな空気を完全にぶち壊したあと、怜奈は観客席へ戻って行った。
戻った怜奈にムイムイが話しかける。
「・・・古くなってるんじゃない?」
「・・・ん。・・・そうかも。」
喧騒な昼の時間を終え、夜のパーティに向けて準備を始める。
「ほーら、みんな着付けするよー!ひゃっほー!」
「・・・なんすかあれ。変態の類っすか?」
「リーンちゃんに関しては否定できないかな・・・。」
女性陣の中でも飛びきわリーンがはしゃぐ。
「ムスルス、さっさと汗流そう。」
「時間ないし一緒にだね。」
ドタンという音。
「うわっ鼻血出して倒れたっす・・・死んだっすか?」
そんなドタバタをムルシー以外は無視をしている。
「ねぇ愛花。こういうの始めてでどういう服来ていいか分からないんだけど・・・。」
「任せて!!!」
「うわっ、他の人頼ろうとしてるのに勝手に蘇生したっす。」
「・・・うん。貴女にはこれがいいね。」
「ホント!?素敵な服だと思ってたんだ・・・。」
黒を基本としてフリルやレースのついたドレスに漣は目を輝かせる。
「やっぱこういうのってお高いんだよね。普段も着てたいな・・・。」
「・・・隊長のお金使えばタダだよ。」
「・・・・・・ねだろうかな。」
それは幼いうちに両親を亡くし、オシャレになど興味を持つ暇の無かった少女が始めて自分で可愛いと思う服を見つけた姿である。
「・・・例えるなら花―いや、一言で表すのも難しい程美しくこの光景は―」
「なんか一人でぶつぶつ言ってて怖いっす・・・。ひっ!?」
狂気に満ちた両の眼がムルシーを捉えた。
「新たな素材・・・みーつけ。」
「ひっ・・・ひぃぃぃぃ!?」
「悩んでるんでしょ。大丈夫大丈夫私に任せて。それにしてもナイスバディね。ちょっと着付けという名目で触っていい?事故って事にしておいていいじゃん減るもんじゃないし。」
「減るっす!精神がすり減るっす!!」
口ではそんな事を言いつつも本人に似合いそうなものを見繕い始める。
「これとかどう?」
「・・・私なんかにこんな純白の似合わないっすよ。」
「そんな事ないよ。私は見たいもの。」
本人が気に入ったのをそのまま勧めた漣の時とは違い、ムルシーには強気で押していく。
「・・・ちょっと胸元とかも開きすぎなんじゃないすか?」
「あら、見せ付けなさいよ。」
「だって・・・恥ずかしいっす・・・。」
「好きな男悩殺出来るよ?」
「着るっす。」
(計画通り。)
リーンはめちゃくちゃ悪い顔をしていた。
「ふぅ、スッキリした。・・・なんだ、リーンだけまだ着替えてないのか?」
「え?私?私はみんなを眺められたらそれで幸せだから。」
シャワー室から出てきたイームとムスルスは顔を見合わせ、頷いた。
「やっぱりさー、みんなおめかししないとね?」
「騒ぎは聞こえてた、どうせ何人かお前好みに服選んだんだろ?」
2人はジリジリとリーンに迫る。
「いや私はいいって!他のもっと素質ある子達を輝かせるべきで・・・!」
「黙ってれば美人だと思うよ?ね、イーム。」
「ふむ・・・言動もある程度お淑やかになりそうな服を選ぶか。ヤパニオの着物とかいいんじゃないか?」
完全に退路を無くし、追い詰められた。
「あ、緑の着物がいいと思うな。着せてあげるよ!」
「ご褒美のような・・・ただの羞恥のような・・・ああ・・・私はどうすれば・・・!」
「黙って着せられてろ。」
「あーれー!!!」
そんなこんなでパーティの時間は近づいていく。




