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愛の歌  作者: Dust
5章
125/228

122話

攻撃は最大の防御なり、という言葉がある。

イームの剣技はその言葉を思い出させるものであった。

しかし、一方的に攻め続けてるのでは無い。

防御すら受け止めるのではなく、相手の剣ごと押し返してやらんと攻撃で返すのだ。

お互いの剣がぶつかり合い、激しい音を立てて共に弾かれる。

カウンタースタイルが得意な舜だが、今は彼女のその超攻撃的なスタイルに対して相手の得意戦法に付き合ってやるものかと自身から攻撃を仕掛けている。

防御すら攻撃で行うイームの攻撃と、攻撃する事で相手の攻撃を防がんとする舜の攻撃。

2つの攻撃が今、どちらが優秀な防御手段かを争っていた。


「いいぞイーム!やっちゃえー!!!」

「・・・んぐ。・・・ここは・・・戦いはどうなった!?」

リーンの声で目を覚ましたウェルが起き上がろうとする。

「まだ寝とけ。相当鼻血を出していた。」

「うるせぇレビア、俺は大丈夫だ!」

ふらりと倒れそうになりながら立ち上がり、リーンとレビアと並んで舜達が戦ってる場所を見た。

「・・・あいつあんなに近接戦得意だったのか?」

「剣の授業では確かに成績は良かったがここまでとは・・・。」

「知らなかったの?少なくともかなりの頻度で練習してたはずだよ。あの子、いつも暇な時は左手の指のマメ気にしてたし。」

会話に混ざったリーンはイームから目線をほんの少しでも逸らすかと言わんばかりにじっと眺めている。


「・・・前にお前んとこの一番弟子と戦ってるところを見たが、あの時は相手に得意な所からそれをひっくり返す戦い方をしていた。今は・・・らしくないと言うか。」

「そんな時間がないからだろうね。タイムリミットがあるんだ。」

ターガレスとデイムは2人で観戦をしている。

「タイムリミット?」

「ああ、もう1人が合流するまでの。」

ムスルスの周りの剣はかなり減ってきている。

全て着実に迅速にかき消しながら、爛々と2人の打ち合いに目を向けていた。

一方イームはムスルスの存在の事すら考える暇はなかったのだが。

それでも過去の事を思い出さずにはいられなかった。


学生時代。

「見事だイーム。これならいざと言う時の近接戦も問題無しだな。」

「いえ、先生。退路の確保も仕事な私にとってその''いざ"は来ちゃいけない"いざ"ですから。」

「そうか・・・勿体ないな。」

昔はきっと喜んだであろう。

ただ今は剣を使う事は無いのだから。

能力に目覚めたあとはそれを剣技に組み込む事だけを考えてた時もあった。

だけど退路も確保しながら、隠れて狙撃・移動を繰り返せる今のスタイルの方が向いている。

そう、言い聞かせていた。

本当は自信を喪失したからで。


あの日までの私は近接戦でも誰にも負けないと思っていた。

忘れもしない模擬戦。

「最近ぶいぶい言わせてるみたいじゃん。まあ、よろしく。」

「・・・・・・。」

無口なその相手は今から模擬戦だと言うのに結ぶつもりすらなく、その綺麗な髪を靡かせていた。

強いと噂になっている相手。それでも負けるつもりはなかった。

そして・・・数秒で決着がついた。

「はぁ・・・はぁ・・・痛ぅ・・・!」

今までの努力はなんだったんだろうと視界が歪んた。

悔しがる事すらさせて貰えなかった。

そしてその相手・・・怜奈は私に見向きもせず去っていった。


しばらくして。複数の銃の命中精度をあげた私はリーンと模擬戦をしていた。

「くぅ!負けたー!新しいスタイルいい感じじゃん!」

「ああ・・・ようやくこの銃に手応えを感じ始めている。立てるか?リーン。」

「お!手を握っていいんだね!いいんだね!?あ!引き下げないで!くぅ惜しいことした!・・・ん?結構長時間やったつもりだけどまだ1試合やってるね。美少女かな?願わくば美少女同士!」

私たちの所には人が集まっていなかったのだが、そっちの方は人集りが出来ていて誰がやっているか分からなかった。

どこからか見えないか、なんとなく興味本位でその人集りに近付いて絶句した。


まだ剣の練習も多くやっていた。

あくまで銃は怜奈のような数少ない勝てなさそうな相手へのサブプランとして考えていた。

そしてそんな相手は少なくともこの学校には怜奈だけだとも。

そんな私の目の前にあったのは、剣と体術をその速さで叩き込む怜奈と互角に渡り合うムスルスの姿だった。

井の中の蛙であったということを思い知らされた。

それでも剣の練習時間を捨てきれなかった。


ある日。

「ねぇイーム。ちょっと模擬戦しない?」

「どういう形で?」

「剣で。」

「お前が剣を使うのは知ってる。何が言いたいんだ?ムスルス。」

ムスルスは普段と違って何か少し言いにくそうにしていた。

「いや、その剣同士で。」

「他を当たれ。剣をメインにしてるお前に剣で勝負になるわけが無いだろ。それにお前の剣は打ち合いすらさせてくれないし。」

あっさりと口に出た言葉に、自分がもう剣の世界に生きてないことを実感させられる。

「あの剣使わないからさ、ダメ?」

「二度も言わせるな。」


その日は諦めたが、その後も何度か誘われる事があった。

その度に断っていた。

ムスルスにかなうはずがないと。

でも私だって。



「私だって!!」

思いを乗せた剣が舜の剣とぶつかり合う。

「・・・4人に増えてしまったな。最初からこうなら俺はもうとっくに負けてただろう。」

舜はより強く剣を握る。

「敢えて乗ろう。君のその仕掛けに。」

舜はより強く、速い一撃を振り切った。

(来た・・・!)

力を込めれば込めるほど、その後の隙は生まれやすい。

イームはほんの少しだけ後ろにその能力で瞬時に下がった。

そして舜の剣が空を切る。

右手が完全に外へと流れていく。

「・・・もらった!」

イームはその隙を付かんと踏み込んだ。


怪物の素質を齎すもの(ティフォン・アネモス)。」

左手からイームの剣目掛けて、先程喰らったイームの弾丸が飛んだ。

振り切ったイームの剣は舜に当たることはなく―砕け散った。

そしてぺちっと舜はイームにデコピンをした。

「良い剣技だった。それまでに魔力を消費しすぎたから俺の勝ちだったが万全なら分からなかった。」

「・・・・・・おーい、ムスルス!絶対勝てよ!」

舜の方を見ること無くぷいっと後ろを向いてイームは客席に去っていく。

「さて・・・もう剣全部処理されてるとはね。」

「・・・・・・。」

2人はじっと視線をぶつけあった後、構え直した。

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