121話
名前。
それは大事な意味を持つもの。
いや、むしろ大事な意味を持たすものと言った方が正しいのかもしれない。
それはすなわち、名前があると言うことはそれだけで重要な作用を起こすということだ。
例えば有名な人と同じ名前の人がいたとしよう。
そうするとその事で色々、とやかく言われるなんて経験はその人にとって当たり前に起こるだろう。
そしてその経験は―いや、経験全てに言えることではあるのだが―人生を大きく左右する要因となる。
もし違う名前で、名前を弄られるにしても全く別方面だったら、いや、別の有名人と同じ名前で似たような弄られ方をしていたとしても、同じような人格にはならないであろう。
そしてそれは人の名前だけではなく、物にも当てはまる。
要するに、名前を付けず扱っていたその時より。
何となく頭に浮かんだワードを呼んでみた、技と昇華された状態の方が。
目を疑うほどの火力向上へと繋がったのである。
「・・・っ!ぶなっ!?」
急いで周りに目を見やり、良さげなポイントへと一瞬で移動したイームはほっと息をつく。
範囲の広さは避ける難しさにも繋がる。
「・・・!ムスルスは!?」
広大な魔力の中に、ムスルスは影も見えないほどに飲み込まれている。
(名前呼ぶだけで・・・。・・・!)
風を切るような音がする。
「・・・普通正面から突っ込んでくる!?」
両手の剣で魔力をかき消しながら、中央を真っ直ぐ突っ切ったムスルスが後ろに跳び下がる舜を間合いに捉える。
「疾っ!」
「我が膝元で永眠せよ!」
すんでのところでムスルスは動きを止められた。
(これは・・・イパノヴァの!?)
「ついでに試すか・・・対象は心臓!」
舜はイパノヴァがかつてやった技をやろうとしてみたが・・・ムスルスは既に平然と動いている。
「やっぱこっちの方は余程の魔力差が無い限りは効かない、と。」
(じゃああの時複数人に効かせてみせたイパノヴァの魔力ってかなり高かった・・・?)
舜がほんの少し、別の思考をした所をムスルスは隙と言わんばかりに飛び込もうとし。
「復讐鬼。うん、君はまた後でね。」
「またこれ・・・!」
幾本もの刃が別方向から同時に攻撃せんと降り注ぐ。
1本1本が無視出来ない威力を持ち、ムスルスは前に後ろに右に左に動きながら同時に複数本受けなくて済むよう位置を調整し、丁寧に1本ずつかき消していく。
しかし、それは自分を狙う全ての刃をかき消さなければ舜との戦いに戻れない事にほかならない。
「あれボスのクソ技みたいだよね。ボス本体殴りに行けないし処理ミスると痛いしで。」
観客席のムイムイがぽつりと言う。
「なんなら舜くんビームの中突っ切ったのに驚いた振りをしてるけど、多分予想してたし、舜くんもやるし、なんなら自分はやらないよ!みたいなアピールしといて狙う機会待ってるまであると思う。」
「アーマー付きな上に高耐久で初見殺ししてくるのクソボスじゃん。」
「・・・そうだね。・・・ラスボス系主人公だから。」
漣や怜奈も好き勝手やいややいや言う。
「さて・・・。」
次の瞬間には舜はイームの前まで襲いかかっていた。
(速い・・・!)
イームは冷静に2発、舜の足を狙撃する。
「なるほど、腕はいい。」
だがそれで舜が動きを止める事はなく、あっさりと近付かれていた。
イームは周りを見渡す。
が、黒い刃が何本か辺りに刺さっている。
「これで動けまい。」
「・・・まだ!」
舜の目の前からイームは消える。
舜は迷うこと無く、上を向いた。
「空中は逃げ場がないぞ。探してる間に出来るだけ距離を詰めて撃ちたかったのかもしれないが。」
「・・・クソっ!」
無慈悲にも重力がイームを地へと落としていく。
バレても尚、銃を構えながら舜との距離が近付いて行く。
(避ける気がないなら!)
全魔力を込めて弾丸をぶっぱなし、反動で舜との距離を取る。
出来る限り近くで、出来る限りの威力で放った。
舜は右手の手のひらを向け、弾を掴むように指を閉じる。
「怪物の素質を齎すもの。」
着地すると同時に、座りライフルを構えたイームは冷や汗をかく。
「無傷・・・だと・・・!?」
「・・・そのスタイルにこだわる限り、あなたでは俺を傷付けられない。」
イームは思考する。
必死に模索し、足掻くように。
(落ち着け・・・わざわざ私を指名して挑発したりするのは向こうが私の強さを認めてるからだ。私の能力だって弱点を探して対策をしてきてた。実力を見せられる前なら冷静になれなかったが、見せつけた上で私に付きまとう意味。つまり私には有効策が何かあるはず。適当にあしらわれてる3人とは違って私だけの何か・・・・・・。・・・!?違う?私じゃない?)
イームは気が付いた。
もはや自身の能力の対策の為の刃が周りに無いことを。
そしてより激しく刃に襲われているムスルスを。
(・・・なら。・・・なら改めさせてやる必要がある。探せ・・・あいつさえ気が付いてない私だけの道を!)
イームは負けず嫌いな性格だった。
覚醒する前、剣同士の戦いでも誰にも負けたくないと努力を続け。
覚醒後、自身の能力に適したスナイパースタイルを必死に身につけながら剣の鍛錬も怠らなかった。
「考えは纏まったか?」
「・・・っ!」
近付かれた際に1発、眉間を狙ったが頭を少し動かしただけでかわされる。
舜は剣を見せつけるようにゆっくりと上へ持ち上げ、そして振り降ろさんと構える。
(どうすれば・・・!どう・・・!?)
そんなイームの悩みをぶっ飛ばすようにムスルスの大声が飛んだ。
「イーム!剣を!」
久々に出てきた単語 覚醒(固有の能力を獲得する事。)




