119話
「フルチャージ!死ねぇ!」
イームが渾身の魔力を込め、突き付けた銃をブッパなそうとする刹那。
舜は地面を思いっきり踏み込んだ。
それに呼応し、地面に描かれた魔法陣が魔力を吹き出す。
「・・・くっ!」
その魔力でバランスを崩し、渾身の一撃は明後日の方向へ飛んで行った。
「なるほど、一瞬で距離を変えられるからスナイパー。理にはかなっている。・・・だが。」
瞬時に体勢を整えられてない自分のすぐ近くまで迫られた事にイームは冷や汗をかく。
その冷たい視線がすぐ間近でイームの目を捉えている。
「・・・おっと!」
その恐怖はムスルスが斬りかかった事により払われる事となった。
イームは後ろを確認して、遠くへ一瞬で移動した。
ムスルスは投げナイフを作り出し、舜の足元へ投げる。
動作そのものは早かったが、舜がそれを避けられるのは誰にとっても明確な攻撃。
(・・・!)
誰かと連携する訳でもない。
他の人からは何か攻めるきっかけでも欲しかったのかと見ているだけのその攻撃に舜だけが内心驚いていた。
ウェルの能力から離れた時に2つ描いた魔法陣、そのうち1つは先程使用した。
そして残りの1つが今、その短剣で掻き消された。
ムスルスは仕掛けるタイミングを見計らっている。
「・・・やっぱり君は後回し。」
舜は片手を空へ向ける。
「眠ってるところ悪いけど力を借りるよ。復讐鬼!」
漆黒の迅雷が舜のその手に落ちてくる。
魔力が舜の身体を駆け巡り、漆黒の翼となりて。
地面に突き刺さった刀身だけの双つの刃を握る。
そしてその双つの刃で上空からの一撃を防いだ。
「驚いた。隙を完全についたつもりだったんだが。」
「・・・そんな事より上を取れば有利だと思っているのか?」
ウェルが作り出した宙に浮く岩石のうち1つにレビアがいる。
先程の攻撃は一見すると当たらない程高低差はあるのだが。
(高低差無視出来るなら刺せばいいのに・・・。振り上げるから影が分かりやすく教えてくれてしまってる。)
そんな事を考えながら、舞のように腕を動かす。
数多の漆黒の刃が空間を支配した。
「なるほど・・・上を取った俺に上から攻撃・・・。」
「レビア!飛び降りろ!」
ムスルスのその声に自身の上空へ浮かんでいた刃を警戒していたレビアは、なんとかその岩場から降りた。
その岩に刃が下から崩し去ったのを空中で見せ付けられながら。
「ウェルの岩を一撃で・・・!?その刃を無数に・・・!」
「驚いてる暇があるのか?その刃でお前だけ孤立している状態なんだ。」
他3人には刃が降り注ぐように襲いかかっている。
そして、当のレビア本人にはもう既に舜が間合いまで詰めていた。
「くっ!?」
思わず出した剣が舜の一撃を止める。
次の瞬間には視界の外へ舜は消えていた。
「上か!?」
背中から身体をひねり跳び、打ち下ろした一撃。
それを何とか防げた。
(考えろ考えろ。どうすればいい。こういう場面の時はどうすればいいと学んだ。考え・・・。)
「いいのか?敵を目の前にして悠長に考え事など。」
「くっ!?」
横から首目掛けて払われた一撃を辛うじて止める。
「よかったな。斬る前に声をかけて貰えて。」
(もし今声をかけられなければ・・・!?)
低く淡々と喋る舜の声に首が地に落ちるのが安易に想像出来てしまう。
死への恐怖が今目の前に存在している。
「身体が反応して何とか止められてる間はいい。だが、いつまでも持たないのは分かっているだろ?防戦一方でいいのか?」
「な・・・うわっ・・・!?」
反応が遂に遅れた。
振り払われた刃に腹が引き裂かれた。
そう思い、腹を抑え―ようやく気がつく。
振り払った舜の右手は何も持っていなかった事に。
「どうした?もう一度聞いて欲しいか?」
舜は休む間も与えてくれない。
「あ・・・あ・・・うわぁぁぁぁぁ!!!!」
恐怖からブンブンとめちゃくちゃに剣を振っていた。
しかしその一撃一撃は舜の動きに付いていきながら舜の身体を捉えようとする。
躱そうとしても尚も感情と勢いで付いて行き、打ち合いになるその姿を見て、舜は先程までの無表情から微笑みに変わった。
「素質は悪くないけど、実戦不足だ。他の同期と比べても模擬戦の回数が一回り少ないんだろう。経験を積んでくるといい。」
僅かな隙を付いて舜はレビアを蹴り飛ばした。
そして、手を地につけ体勢を低くする。
ムスルスの剣がその頭の僅か上を通り過ぎて行く。
(念の為蹴り飛ばしたけど、レビアの動きを予想してちゃんと当たらないように計算していた・・・か。)
「ようやくアレを振り払えた。から、逃がさない!」
透き通る刀身の剣をその場で3回振り、捨てる。
そして別の剣を出して舜に斬り掛かる。
(後ろにほぼ透明な斬撃が残ってる・・・。けどその剣は魔法陣消し飛ばした奴だろ・・・受け止めるのは無理だ。なら・・・。)
舜は迷わず後ろへ跳んだ。
「危ない!」
ムスルスは慌てて剣を捨て、手を伸ばすが舜の右手にはたかれる。
舜は左腕を後ろに伸ばしてその透明な斬撃の中へ。
派手な血飛沫が辺りへ舞った。




