118話
(・・・憧れ、か。愛花もそうだけど俺の事をそういう目で見てる人はいるんだな・・・。)
瞑想をしながら舜は考える。
(必要悪としてなら・・・まだ理解は出来る。だけどこの俺を正義として見ている・・・。それだけ世界そのもので殺しというものが浸透している。)
よく言われる話として人殺しは悪だが、戦での殺しは英雄とされる。
または、殺しの数が殺人を正当化させる、だったか。
「そんなの、どっちも私からしてみたらまやかしだ。」
(俺は・・・正義のつもりは一切ない。ただ自分の感情に従ってきただけ。子供っぽくすらある理由だ。それを正義と見誤る何か・・・。)
「決まってる。"力"だよ。力は人を狂わせる。大きすぎる力を支配出来てると勘違いして力に振り回させられてる哀れな人間だけじゃない。強大な力を持ってる人間に周りの人間が狂う事もあるのさ。そうでしょ?ねぇ、私の愛しの人・・・。あなたはその力を―」
「―おい!起きろ!」
「・・・ん。・・・咲希?」
「全く、寝てるとは余裕だな。お前の出番はもう目前まで来ているぞ。」
いつの間にか寝ていたのかと大きく伸びをする。
「そういえば咲希。咲希はなんで強くなりたいんだっけ?」
「なんだ藪から棒に。・・・まあそうだな。竜族として弱きは恥、強きは誇りだ。」
力にも種類があるだろう。
単純に個人が持つ力だけでなく、例えば周りからの圧力。
特に当たり前と思われてる事が出来ないとなると感じやすいだろう。
(・・・なんでこんなこと考えてるんだっけ?・・・まあいいか。)
邪魔な思考をぶんぶんと排除して、舜は戦いに赴いた。
「・・・4人、か。」
「はん!俺様1人で十分なんだけどよぉ!この前の借り、変えさせてもらうぜ。」
ウェルが意気揚々と雄叫びをあげた。
「恥の上塗りに来たの?」
「てめぇぜってぇぶっ殺す!」
舜の挑発的な態度に始まってもないのに飛びかかろうとするウェルをレビアが制止する。
「そうやって頭に血を上らせるのが奴の狙いだ。安い挑発に乗るな、俺たちならまともにやれば勝てる。」
「・・・ま、飄々としてる態度にムカつくのは同感だけどね。その顔歪ませてやる。」
イームがライフルを作り出し、肩に担ぐ。
「・・・やっぱ人変えない?俺が言った五分五分の3人のうち1人しか居ないのは実力を見る点において不適だと思うな。」
「私は人数に含めないでと伝えましたよ?」
サナスはニコニコしながら眺めている。
「五分五分?」
イームが低い声で聞く。
「そ。やる前に聞かれてたんだ。俺と五分五分に戦えそうな人。で、性格やら見た感じの強さで3人。君らの中には1人だけ。」
(その1人は俺様だろうな。やはりこの前の戦いでバレてしまっていたか。)
(他3人には申し訳ないが性格まで含めるなら俺しかないだろうな。)
(私の事だろうな。見ただけで分かる冷静さと強さを兼ね備えてるのは。)
ムスルス以外の3人がそう思ってる間、ムスルスは不気味な沈黙を保っている。
「それじゃあムイムイ!参加しない?」
「・・・は?・・・え、は?は??私?いやいや〜冗談キツいって。性格って言い出してるなら私が1番ないでしょ。」
客席にいるムイムイはにへらと笑って誤魔化そうとする。
「そうかな・・・1番俺に似てると思うけど。命のやり取りについての考え方とか。」
「いーや、似てませんよ〜。あなたと違って私にとって殺しは最終手段ですから。」
「そう、迫られてもないのに最終手段に出来る部分。それもやらなきゃという意気込みでもなく、確実にやれる部分。」
同類として死の匂いを感じ取ったのか。
舜はムイムイの瞳の奥までじっと見ている。
にへらと笑っているように見えて、冷たく舜を見極めようとしてるその瞳に。
(ま、めんどくさいから自分の手を汚したくないだけで殺そうとしてる相手の命なんて何とも思ってないのは認めますがね・・・。)
「流石に同類として見られるのは勘弁ですよ。あ、もしかしてさっき化け物呼びしたの怒ってます?」
「いーえ!まったく!ぜんぜん!怒ってませんよーだ!」
単語単語の語気が強い。
「激おこじゃん・・・。怖っ・・・ますます行きたくない・・・。」
「・・・まあ、やりたくないならいいんだけどさ。出来ればそこの俺を殺すには程遠いライフルっ娘と変わって欲しかったなー。」
ピクリとイームの眉が動いた。
「・・・開戦はまだ?早くこいつの涼しい顔に熱い弾丸をプレゼントしてやりたいんだけど?」
「おいイーム・・・はぁ、どいつもこいつも血の気が多い。」
「じゃ、4人ともー!どうせ簡単には死なないから本気で殺す気でやっていいですからねー!それじゃあ開始ー!!!」
銅鑼の音が鳴る。
「おいおい・・・。」
舜がサナスの発言に何か言おうとした瞬間に矢のように何かが飛んできた。
舜は即座に身をかわして避ける。振るわれた剣の勢いで地面がめくれ上がる。
目の前で剣を振るったばかりのムスルスを見ながら舜は即座に判断する。
(斬り掛かる隙がないな・・・。もう次の行動の動作まで終えている。)
「ひとまず君は後回し!!」
反撃を仕掛けず、さっさと離れる。
その先で飛んできた弾丸を片手で払い除ける。
「言ったでしょ、殺すには程遠いって。」
「はんっ!足下見なくて大丈夫なの?」
大地に亀裂が走る。
「荒野よ、その哀しみを!」
ウェルの声と共に舜の足元が持ち上がる。
安定しない足場をきらった舜は飛び降り、着地をした際に1度くるりと回りながら右足で地面に弧を描き、もう1つ今度は右足だけで小さな弧を描いた。
ふわりと動きながらわざとらしくニヤリと笑う舜の眼前にはいくつもの浮き上がった岩が出来上がっている。
「流石に―」
遠くから聞こえたはずのイームの声が真後ろから聞こえ始める。
頭に何かが突きつけられた。
「零距離からなら効くでしょ?その脳漿ぶちまけろ!!!」
「マジで殺す気マンマンじゃん!」




