117話
「もうちょっとクロム様の話聞いていいっすか?」
ムルシーはおずおずと舜に聞いた。
「・・・もうちょっと、か。そういえばあの時必死で気が付かなかったけど。」
舜は当時の戦闘を思い出しながら語る。
「・・・妙に消極的だった。あの実力であの能力ならもっと早く仕掛けて俺を殺すのだって簡単だったと思う。・・・まるで、殺したくないような・・・そんな・・・。」
舜は黙り込む。
そういう風に思えるが、その理由は皆目見当もつかないから。
「・・・そっすか!・・・へへ、そっすかぁ・・・。」
舜の話を聞いてムルシーは心底嬉しそうにしていた。
「あ、舜様さん、ちょっとよろしいですか?」
「様じゃなくてさんでい・・・ん?・・・サナス。どうしたの?」
サナスは少し意地悪げに笑う。
「パーティの前に演武があるんですけど。どうせなら実戦枠として参加しませんか?」
「・・・相手は?」
「アウナリトが誇る猛者何人かに声かける予定です。残ったメンツの腕試しとして。」
(・・・残ったメンツの実力を見る、だけじゃなさそうかな。元ローグ勢相手への牽制も兼ねてると見た。)
舜は顎を親指と人差し指で挟む。
「加減はした方がいいの?」
「いえいえ、全く。むしろ加減しない方が有難い。」
「・・・いいよ、参加する。どうせのパーティだし見てるより魅せる方が楽しそうだからね。」
舜はにぃっと笑った。
相手が強者だろうと構わないという態度は話が聞こえてた人には威圧感すら与えたであろう。
ただ1人を除いて。
「あ、あの!私!私が相手したい!」
ムスルスが声を裏返し興奮しながら自分の胸に手のひらを当て、立候補した。
「愛花じゃないけど、憧れだったの!私、家系が家系で汚職とか悪い部分、いっぱい見てきた。国をよくしたいなんて謳いながら実際は金や権力に溺れたいだけの人いっぱい見てきた。そんな中聞いた御伽噺のような貴方の話に憧れた。王族の養子に迎え入れられながら本当に悪だけを裁こうとする貴方に。貴方のようになりたいと鍛錬してきた。それを!」
舜はムスルスに手のひらを見せ、止める。
「・・・そんな大層なもんじゃないよ、俺は。まあでも・・・サナス、彼女でいい?」
「・・・1人は、ええ。ふふ、様さん相手なのだから1人だけとは行きませんよ。」
「せめて名前要素残して?」
「・・・1人じゃ、ダメかぁ。ううん、でもありがとう。頑張って食らいつくから。」
「うん。・・・残りの人数何人にするの?」
サナスはんー・・・と考える。
「ん様さん的には何人、この国であなたを脅かせると思います?」
「いや、脅かすだけなら結構いるよ?少なくとも敬称以外の俺の呼び方の文字数よりはいるよ?」
「タイマン想定でしゅしゅ様さんを五分五分で殺せる人は?」
舜は辺りを素早く見渡す。
「とりあえず見た雰囲気だけで3・・・かな。まず目の前の名前の呼び方で遊んでる人と・・・。」
「おっと、誰かは終わるまで教えてもらわくていいですよ。それに・・・これからのアウナリトの戦力なので、もう今後は戦闘要員ではなく別の仕事に就こうと思ってる私はカウント外でお願いします。」
「勿体ないな・・・まともな剣術だけなら俺より上でしょ?」
「過大評価し過ぎですよ。何年も前の、それも相手を殺しちゃいけないって場合のみでギリギリ上回れるかどうかだったんですから。」
やれやれと言わんばかりにサナスは首を振った。
「まあ・・・とりあえず他はこちらで声掛けてみますよ。楽しみにしててください。」
サナスは背を向けて歩いていった。
(・・・ルガタも義兄上もいなくなっちゃったし、サナスもこの前の戦争で色々思うところがあるのかな。・・・元が義兄上の魔力だって話だから、義兄上亡き後生きてるだけでも儲けものだろうし・・・。)
舜はその背中を見送り、視線をムスルスに戻す。
「よろしくね。」
「はい!胸を借りるつもりでやらせてもらいます!それでは準備させてもらうので失礼します!」
そそくさとムスルスも去っていった。
「めっちゃ嬉しそーにしてるですね・・・。」
「ねー。ガチガチだった理由も分かったけども。」
シィラとムイムイはお菓子を食べながらその様子を眺めていた。
「実際どうなんすか?1人で複数人相手って。」
同じくお菓子を食べてるムルシーが聞く。
「相手とルール次第・・・かな。」
「ふぅん、例えば私5人とかなら?」
「ムルシーレベル5人・・・まあ負ける可能性はあるだろうね。」
ごくんとムルシーはジュースを飲む。
「勝てる可能性の方が高そうな言い方っすね。まあ実際私の方も負けそうだなって思ってるっすけど。うちら元ローグの最強戦力って誰だと思ってます?」
「難しいな・・・。一言で強いって言っても状況や条件で勝ち負けなんて変わるし。まあシィラかムルシーなんじゃない?」
じゃあとムルシーは続ける。
「ムスルスさんと私たち2人でやり合ったらどっち有利だと思うっすか?」
「ムスルス。」
「即答っすか。うへー、強さのレベルがダンチだ。」
パラパラとその豊満な胸の上に落ちたお菓子の食べカスを払う。
「でもシィラは漣姉様と2人で捕縛しましたよ。えっへん!」
「・・・漣と?・・・・・・そうか。」
舜は少し首を傾げ考えるがやがて。
「じゃあ俺もちょっと準備運動してくる。またね。」
そう言い残して準備にかかった。




