11話
「僕は出ないぞ。」
出る順番決めの際、オーフェはキッパリと言った。
「・・・とりあえずリビに話してみるよ。」
オーフェは元々こういうのは好きではない。
1戦ぐらい不戦敗出来ないかと舜は確認しに行く。
(オーフェ、ちゃんとお礼言わなきゃめっ!だよ。)
「・・・分かってる。」
「おー・・・舜兄の動きが大きくなって行きますね。」
「・・・多分、2回隊長が出る事になると思う。」
4人でワイワイ盛り上がる舜の言動。
結果として少しとぼとぼと帰ってくる。
「隊長戦と副隊長戦どっちも俺が出ろって。」
「うむ、ご苦労。」
オーフェは適当にお礼を言う。
「とりあえず初戦とラストは俺でって事だったから・・・残り3戦を振り分けるとして・・・。」
「怜奈ちゃんが副隊長以外にぶつけられるならリーンちゃんに当てたいですね。」
(普通に考えたら・・・4番目?)
「・・・どこでもいい。」
やいややいやと順番を決めていく。
「やっほー。どーう?順番決まった?」
しばらく経ってリビが顔を出した。
「まあ大体OK。」
「よーし、それじゃあたのしんでいきましょー!」
チーム 舜ちゃんチーム VS チームユニーク
1回戦 舜 VS ライガ
2回戦 イパノヴァ VS リーン
3回戦 愛花 VS トゥール
4回戦 怜奈 VS セロ
5回戦 舜 VS リビ
「おっと、色々予想外な組み合わせで来ましたね。」
愛花は対戦カードを見て言う。
「じゃあ行ってくる。」
観戦者は2階のギャラリーに残り、舜はピョンとそこから飛び降りて中央に向かう。
「・・・。」
赤髪の相手、ライガはただ睨む。
「・・・お手柔らかに。」
そして開始のゴングが鳴る。
1回戦 舜VSライガ
開始直後の速攻だった。
薙ぎ払ったライガの一撃は空を切る。いや、切らざるを得なかった。
舜は柄の先を持ち、剣を真っ直ぐ伸ばして出していた為、当てようと後一歩踏み込めば突き刺さっていたであろう。
(素早いな・・・接近戦が得意か・・・。)
しかし舜は距離は取らない。
相手の得意な範囲からは遠く、しかし仕掛けようと準備するには近い距離。
剣と剣が触れ合う。
一合、二合。ライガはその距離にありながら、強くは踏み込まず打ち合っている。
(・・・。)
その距離でやり合ってくれるうちは舜の方が有利である。
しかしまるで基礎をそのまま練習するように、丁寧に攻めてくるライガに舜の目は厳しく咎むように睨んだ。
「お前・・・誰と戦ってる?」
「・・・・・・なんの事だ。」
「目の前にいる俺の事なんか見てすらいない・・・誰かを意識した剣技。お前が目指してるのか越えたいのかは知らないけど・・・目の前の敵をちゃんと見れないなら足元掬われるぞ。」
その言葉はライガをイラつかせたのか、2人の視線は激しくぶつかり合う。
「テメェ如きに何が分かる。」
「さあね・・・分かるのは目の前の敵を見れない程度じゃ強くなるのに限度があるってだけ。」
『獅子奮迅!』
ライガが叫ぶ。
そして大地を強く蹴ったかと思いきや舜の横っ腹に一瞬で回り蹴りを食らわす。
「っつ!」
舜はそれを刃の側面で受け・・・粉々に剣は砕け散っていた。
(剣が宛にならないほどの身体能力アップの能力・・・か?それより・・・ようやく俺を見た。)
「テメェは踏み台でしかねぇ!黙って俺に倒されてろ!」
「踏み台でもなんでもいい、強くなりたいと願ったその全てを―!」
舜は体勢を落とし、拳を構える。
「お前の想いを俺にぶつけてみろ!!」
(肉体戦しかこねぇと踏みやがった・・・貰った!)
ライガはそれを良しとし、舜が反応出来ないほど素早く背後に回りながら、剣を生成し真っ直ぐ上から振り降ろす。
舜は振り返ると共に、読んでいたとばかりにライガの刃の側面を左手で横に押し退け、右手にいつの間にか作り出していた剣を首筋付近に止めた。
「勝負あり!」
愛花が元気よく試合終了の合図を送る。
怜奈が避けながらやっていた力を受けるのではなく別方向のベクトルに押す戦法。舜はこれを自分の速度で避けるのが難しい時を考え、応用方法を思い付いていた。
そして初陣の時、相手に使われた武器の出し入れの速度。
それらを全てを戦いで使えるレベルまで舜は訓練で上げていた。
(とはいえ・・・2度は通用しないだろうなこれ。)
初めて使う戦法だからこそ効果的だった。
一対一の殺し合いの世界なら1度通用してしまえばいい。
故に舜にとっては使える場面のある技ではあるのだが。
相手を殺さない戦いや、複数人と戦う場合は話が違う。
武器を出さず構えたから、武器を使わないと騙せた。
だが次は違う。知られてしまえばどんな状況でも武器の存在を警戒される。
舜はリビを見た。
リビはその赤い瞳でしっかりとその戦いを眺めながら、拍手をしていた。
(見られちゃったから・・・どうしようかな。)
こちらは向こうの戦い方を知らない。
向こうはこちらの1つの手を知った。
それがどれだけ不利な事かを舜は知っている。
「・・・ありがとう。いい試合だったよ。」
舜はライガに手を差し出す。
ライガはその舜の手を叩いた。
「覚えておけ、必ずお前は俺の踏み台にしてやる。」
「踏み台で結構、相手をちゃんと見てればね。」
ライガはそのままリビの元へ戻り、何かを伝えてどこかへ行ってしまった。
2回戦 イパノヴァVSリーン
「うーん・・・今日も可愛いね、イパノヴァ。」
黄色の2つ結びの少女―リーンはイパノヴァを見てニコニコしている。
イパノヴァもニコニコしているが・・・
「はぁ、あたしもイパノヴァの声聞けたらなぁ・・・。それにしても・・・あの隊長、目の付け所がいいよね。」
イパノヴァは大きく頷く。
「こんなに可愛い子ばっかりなんて!センスいいわぁ・・・。」
イパノヴァの笑顔が愛想笑いへと変わる。
「それじゃあ準備いい?あたしは沢山の可愛い子見れて充電済みだよ。」
イパノヴァは真剣な眼差しになり、頷く。
開始のゴングが鳴った。
(悪いけどイパノヴァ、女の子を可愛いと見続けてきたあたしだからこそ!あんたの弱点知ってるのよね!)
イパノヴァは口に人差し指をつける。
リーンは後ろへ飛び跳ねる。
後ろに下がりながらも硬直させたリーンにイパノヴァは素早く弱い魔弾を飛ばしそれを当てる事で勝ちを狙う。
(燃えよ!)
リーンがさっきまでいた足跡から炎が吹き荒れた。
魔弾がかき消される。
(イパノヴァが音を出せなくする対象は''対象本人とその本人が触れている部分''のみ!能力を食らう前に出しておいてあたしから''離れた''魔力へは干渉できない!)
「っし!」
動けるようになった瞬間、リーンは2本の燃えてるハルバードを作り出し片方は右手から左へ、もう片方は左手から右へぶん投げた。
「おっと!ここでリーン選手お得意のハルバード投げだぁ!これは左右から迫り、このハルバードが何かとぶつかると炎が溢れ出てくる代物だぞ!更に後ろに避けようとするとハルバード同士がぶつかった爆炎が後ろに飛んでくるおまけ付き!さあどうする!イパノヴァ選手!」
「急にどうしたの?愛花。」
「いや、知らない舜兄の為に解説必要かなって。」
リーンはハルバードを投げた後イパノヴァに向かって走り出す。
(あなたが指を口に当てないと能力を使えないのも知ってる!そんな隙を与えなければ!)
そんなリーンを見てイパノヴァはハルバードを掻い潜るように前へ避ける。
「もら・・・・・・・・・・・・・・・。」
リーンの動きは止まった。
そしてイパノヴァは優しくポンと魔力を飛ばして当てる。
「・・・へ?なんで?今までずっと・・・。」
ようやく動けるようになったリーンは呆然とした。
イパノヴァはニッコリ笑って舜を指さしたあと、ファイティングポーズを取りながら左右に避ける動きをし特訓の成果だよ!と伝えようとする。
「え!?いつから?いつから2人はデキてたの!?あたしのイパノヴァと!?」
イパノヴァは赤面して両手をブンブン振りながら首を横に振る。
「はいはいリーン、めーわくかけなーい。そもそもリーン誰にでもあたしの女ゆーじゃんわら。」
「あ!痛い!痛いけどご褒美!じゃあねイパノヴァ!」
リビに耳を引っ張られリーンは退場した。
イパノヴァが帰ってくる。
「いぇーいこれで2勝!」
愛花が熱烈に歓迎する。
「しかしいつの間にノーモーションで出来るようになったんだな。僕も驚いたぞ。」
オーフェもイパノヴァを称える。
(うん、出来るようになったのは最近でね!)
イパノヴァは舜の方へ向き直す。
(特訓の成果、出せたよ!)
「・・・へへっ、やったな!」
舜とイパノヴァはお互い拳を握りしめ、前腕同士をハイタッチのように当てて喜びあった。




