116話
「しかし凄い行動力だよね。知らない国の子供たちと触れ合うために許可もらって入っていくって。」
保育園を後にした舜は漣に話しかける。
「あ・・・いや、違うよ。最初は人を探してて・・・そしたら迷子と出会って・・・保育園まで送ったら流れで。」
「・・・人?漣に知り合いがいるの?」
「そこだけ切り取ったらめちゃくちゃ悪口みたいだね・・・。ほら、実験の被害者の子。」
舜と漣と戦い、魔力の核を破壊されながら1人生き延びた女の子。
「なんか・・・変な男に任せてなかったっけ?」
「空に変な穴が出来たどさくさで逃げられたらしくて。」
逃げた。その事実に舜は頭を悩ませる。
しかし何かの音がその思考を掻き消す。
その音の正体に目を向けた。
黒い車だ。
それが2人の目の前で止まった。
窓が開く。
「・・・Hey、おふたりさん。・・・乗ってく?」
サングラスを下にずらしその目で真っ直ぐ2人を見つめる。
「怜奈!?え!?あ!?えっ!?」
色んな言葉が出そうになっては引っ込んだ。
とりあえず精神的には大丈夫そう、という、事だけでほっとする。
「・・・ふふ、いい車でしょ。・・・それで、乗ってく?」
「ああ・・・うん・・・。乗る・・・。」
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「で・・・えっと・・・。何がどうなった?」
「質問が漠然すぎるよ舜くん。」
後部座席の2人は怜奈の運転姿を眺めながらやんややんやする。
「・・・ん。・・・色々言えない知ってる事がある。・・・それが非常にストレス。・・・ずっと自分を抑えてたけど・・・こうやって解放して気分転換しようと。」
「この車元々持ってたの?」
「・・・買った。」
漣の質問に怜奈はあっさりとした言い方で答えた。
「わぁお、思い切ったね。結構なお値段したんじゃない?」
「・・・ふふ、大丈夫・・・隊長の金だから。」
「俺の金で!?それ普通なら大丈夫って言わないけど!?」
あまりにあっさりととんでもないことを言った怜奈に舜は驚きを隠せない。
「・・・思い切った。」
「思い切り方が振り切れすぎだけど!?」
悪びれる様子すらない。
そんな怜奈を見て、舜ははっきりと言い放った。
「まあ俺が普通じゃないからいいけどさ。」
「ねぇ、舜くんまでボケに回るのやめよ?私じゃツッコミきれない・・・。」
傷や心を癒しながら数日経ち。
「・・・さて、今日がパーティとやらか。昼は交友会で夜にどんちゃん飲んで騒ぐ・・・と。」
思えばこの国出身だと言うのにこの国の知り合いが少ない。
舜は会場に訪れ、楽しく騒げるように先に知り合おうと思った。
「・・・どこのグループに混ざろうかな。」
舜は既に交友を始めてるメンバーの1つに入っていった。
「よ、ムルシー。」
「お、舜さんじゃないすか!え、私のとこ選んでくれたんすか?嬉しいっす!!」
ムルシーと少女が3人。
「あ、こちらあの!舜さんっすよ。」
「ぅえ?あ!えっと!舜様初めまして、ムスルスと言います。」
「シィラです。漣お姉様と一緒にしばらく居た12歳の元ローグです。」
「ムイムイだよー。よろよろー。」
「ちょっとムイムイ!失礼でしょ!」
それぞれとの自己紹介が終わる。
「もう王族じゃないからそんな畏まらなくても・・・様も要らないし自然体で話しかけてきて、ムスルスさん。」
「あ・・・じゃあ、そうしま・・・する。私にもさんは要らないです・・・で・・・えっと。」
「めっちゃガチガチじゃん。一目惚れでもした?」
「う、うるさいムイムイ。」
ムスルスの顔はほのかに赤い。
「それで、何の話してたの?」
「ああ、ローグについてっすよ!」
ムルシーがムスルスの方を見て話を促す。
「・・・この前の戦争、こっちの被害が思ったより少なくて。聞いてる感じだとローグ軍まだ本気出してなかったんじゃないかなって。」
「そんな事はありませんよ。シィラ達は出来る本気でアウナリトを落としにかかって、実際落としました。負け犬が吠えないでください。」
「こーら、喧嘩腰にならないの。これから仲良くしないと。」
12歳と聞いて舜は優しい口調で諭す。
「あ、舜さんその人21歳だから歳上だし厳しく言っても大丈夫だよ。」
舜は頭に?マークを3つ浮かべた。
「話戻すけど、例えば大蛇とか居なかったじゃん?」
「ああ、ローグネームはネイパーさんっすね。ローグネームってのは強い人が強そうな別の名前名乗ってるってだけっす。で、ネイパーさんは3年前に殺されてるっす。」
ムルシーが答える。
「・・・じゃあグランドトルーパーは?」
「2年前に死んでるっす。」
「ギガガガンデスとか。」
「去年殺されてるっすね。」
「ドドドババンバー。」
「何時だったっすかね・・・行方不明になってて多分身体の1部と思われる残骸なら見つかったっす。」
「ローグも一枚岩じゃないのは知ってたけど、凄い殺し合いしてるんだね。」
話を聞きながら舜はローグの暮らしがどんなに凄惨だったのかを想像する。
「いや、殺したの多分全部舜さんっすよ?」
「・・・・・・。」
凄惨にしてたのが自分だった。
「まあ悪だったから異名知られてて、悪だったから殺されたんっすよ。」
「・・・間接的に私たちアウナリト側の命救ったと思えば、ね?」
ムルシーとムスルスが慰めるモードに入った。
「あ、それに全く関係ない人達も殺されてたりはするっすから!特に謎の巨大鎧への偵察隊としてローグの中でも猛者揃いの30人を集めて向かわせた時、何の情報も残せないまま全滅したっすからね。あの時はクロム様も自分が行くべきだったと悔やんでいたなー。」
「それ殺したの、多分俺たちだな・・・。」
ムルシーは一瞬怯む。
「いや!別人の可能性も!可能性も!」
「あれだろ?後ろからの攻撃は透かす盾使い。」
ムルシーは頭を抱えた。
「・・・はい、アディー二世さんですね。」
「襲名制。」
「ちなみにある位置のものを見せなくする剣使いはバルクィエス18世っす。」
「魔力者出て10年で18世まで行くことある?ローグネームなんだろ?」
ムルシーはこくんと頷く。
「人気でしたからねーバルクィエスの名前。みんな名前かけて決闘してましたっすから。」
「そんな他と比べて人気出る程かな・・・いやさっきの一覧聞いてるとましな部類な気はしてるんだけど。」
「ちなみに一緒について行ったメンバーの中にバルクィエス3世と8世と10世と11世と12世と15世と17世が居たはずっす。」
「あ、別に襲名された側は死んでる訳じゃないんだ。」
「そんなあの殺人鬼じゃないんすからーアハハ!」
「む、ムルシー姉様!そのジョークは!」
はっとムルシーは青ざめる。
「あの殺人鬼って・・・この殺人鬼?」
「いや違うんすよあの本当に待ってちょっとマジですんません忘れてください!」
「はぁ・・・まあそれだけ私たちローグにとっては恐怖の対象だったのですよ。」
シィラの言葉に舜は思いを廻らした。
「あの・・・その分アウナリト側から見たら・・・ね?」
ムスルスは必死に慰めようと声をかける。
「あれは?愛の伝道師。」
流れを断ち切るかのようにムイムイが尋ねる。
「ああ、その人なら多分どっかで元気に変態してるっす。」
「変態なんだ。」
舜は思わず声に出す。
「変態っす。」
「会いたくないな。」
「私もっす。」
ムルシーが全力で肯定をした。
「聞いてる感じだともっと前の未然に防がれたクロムが攻めてくるって時にはもう居ない人多かったんだ。もしかしてローグってだいぶ弱体化してた?」
「むっ、また負け犬が吠え始めましたか。そもそもクロム様さえいればその他は僅かな傘増しにしかなりませんし、余裕でアウナリトを攻め落とせますよ。」
「こっちにだって最強の王や邪神使う元帥がいたし見くびらないで。」
シィラとムスルスの視線は自然と舜に流れて行った。
「「どっち。」」
「と、隣の塀に囲いが出来たってねぇ。」
あまりの圧力に舜はよく分からない話題で逃げようとする。
「「それで。」」
「・・・ちょっと待ってね・・・。うーん・・・。」
舜は少し考える。
「まあ1番死を身近に感じたのは・・・クロムだった。多分勝ちの目が1番薄かったのも。・・・まだ1番身体が痛むのもクロムの時のやつだね。」
「ほら、見た事ですか。べー。」
シィラが調子に乗る。
「・・・でもアウナリト落とし切れるかと聞かれると分からない。質の高い魔力者がこっちのが多い分クロムに対抗する手段を作りやすいかもしれない。」
「逆に言うとそこまで質の数で圧倒しないと行けないほど四凶って化け物なんだ。話には聞いてたけど・・・」
ムスルスはシィラの挑発もスルーして、舜の話に耳を傾ける。
「・・・これ1番化け物なのはそもそもそれら全部殺してきてる舜さんなんじゃね?とは言わないでおこー。」
「めっちゃ聞こえてるけど。ちょっと凹むんだけど。・・・どうせ子供に恐がられる鬼ですよーだ。」
ムイムイの発言に舜は不貞腐れたフリをした。
その後も楽しく話しながら、時間は過ぎていった。




