114話
「・・・さて。」
色々な問題がやはり起きている。
王が変わった事による混乱。
戦に参加してなかったローグ残党の結集を初めとした首都部とそれ以外の治安の差。
かつてアウナリトが関わっていた闇。
そしてその闇の1つである実験については、誰かが資金を持ち逃げしてる始末。
だが、今はそれよりも―。
「・・・どう、伝えるべきかな。」
舜はある家の前で思案に暮れていた。
小さな集落出身であったキアラは元左大臣にて現王レアスに付き従うことで、褒美としてその集落の人間が首都部への移住が認められたとの事。
その認められた場所で舜はただ暗い表情をしている。
意を決して舜はその家のチャイムを鳴らす。
バタバタと音がして女性が出てくる。
「ごめんなさいね、お待たせして。ゴホッ・・・どちら様ですか?」
「・・・あ、えっと。レアス様のところに所属してる舜と申します。今日は・・・」
話がスムーズに行くよう、舜は自分をキアラと同じ立場の人間だと偽った。
「ああ!娘の同僚の方で!どうぞ入って入って!」
「え・・・あ、えっと・・・。」
笑顔で家の中へ押し込まれ、断れないまま舜は靴を脱いだ。
「・・・まだ娘が命をかける必要がありそうですか?」
「・・・その事なんですが。」
キアラの母は首を振って遮るように話す。
「いえ、いいのよ。あの子が・・・ゴホッ、会いに来ない時点でまだまだ大変なのは分かってるの。」
「いえ・・・その・・・。」
第一声に娘の命の事を聞いてきた母に舜は切り出し方を迷う。
「・・・本当はもっと安全な仕事について欲しいのだけどね。でも・・・この仕事で助けられた人もきっといるのでしょう。」
正しく、自身が助けられ―そしてそれが死の理由となってしまった。
「・・・今からショッ・・・―。」
「この前の戦では大活躍したと聞いています。仕送りもかなりの額が来て・・・。」
舜の動きがピタリと止まった。
「・・・仕送り?」
「ええ、いつも仕事のあとは送ってきてくれるんです。直接会いに来ればいいのに、いつも恥ずかしがって仕送りだけ。」
レアスは忙しくてまだそこまで手を回していないだろう。
(じゃあ誰が・・・?)
あの崩壊する部屋の中、実は生きのびた?
いや、それでも報酬を貰ったというのであればレアスが分かるはず。
「あなたは娘に頼まれて私の様子を見に来てくれたのでしょう?・・・実はね、私はもう長くないのよ。でも娘には元気だったと伝えてね。私の死があの子の仕事に影響を与えたら良くないわ。あの子も安全な世界が来れば会いに来るでしょう。知るのは・・・その時でいいのよ。」
「・・・それは。」
もしキアラが生きていたとして。
そんな事をしたら会わなかったことを後悔するはず。
「ええ・・・非情な事だと分かってるわ。ゴホッゴホッ。でもね・・・命をかけてる仕事をしてる人が平常心を失ったらいけないわ。・・・私の夫はね、無力者が出る前の頃の兵士だったの。ちょうどね、2人目の子供が出来るかもって時に戦に出てて。・・・その子が流産になったの。その報せを送って・・・そして。帰らぬ人になったわ。仲間たちからはいつもと様子が違ったと、本来ならここで死ぬはずがない男だったと。・・・だから、ね?・・・あの子まで失いたくないの。残り人生の短い私からのお願い・・・。」
舜は・・・黙って頷いた。
仕送りの件の解明は出来なかったが、それでもキアラは間違いなく死んでるだろうという事を伝えなかった。
キアラの母はキアラの死を知らないまま死んでいく。
それでも娘の平和を祈って、余生を過ごすのだ。
その余生にこれ以上の悲劇は要らないだろう。
「それではキアラにはお母さんは元気そうだったと伝えておきます。・・・少しでも多くの幸がありますように。」
「ええ、ありがとう。あなたも、怪我や病気には気を付けてね。」
舜は深くお辞儀をして、キアラの家を後にした。
「・・・いやー。凄いですなー。これが都会・・・。」
泊めてもらわせている部屋の窓から外を眺めながらトワは呆然と呟いた。
「ここと交易出来ればリエーはもっと発展するでしょうね。」
「はは・・・交渉役とかダゴン様に全部投げ出していい・・・?」
既にトワは緊張で固まりまくっている。
「神の価値観でいいのであれば・・・。まずは贄として捧げ物を―」
「・・・あー・・・んー・・・私がやるかぁ・・・?」
ノックの音。
「あ、はーい?」
ドアを開けるとシャロンとイームがいた。
「こんにちはー!」
「あ、どもです。」
元気なシャロンの挨拶にトワは頭をちょこっと下げる。
「今時間大丈夫?この前の化け物とそれが出てきた穴について知っておきたいんだ。」
「・・・ダゴン様!そういえばあれ何!?」
ダゴンはんー・・・と少し考える。
「神話の成れの果て。存在しえないもの。認知の歪み。・・・まあ、なんでもありの別世界ですね。開いた要因は私には何も。世界が何かしらで歪まされたとか推測は出来ますが。」
「別世界・・・ムスルスの能力と何か関係してたりするのか・・・?」
「開く理由が分からないってことは、また起きる可能性も否定出来ないって事よね?」
シャロンの確認にダゴンは頷く。
「・・・ん、りょーかい。じゃあ対策の為に色々やらないと駄目そうね。・・・あ、そうそうそれともう1つ。」
シャロンは2人に手紙を渡した。
「今度戦が終わったって事でパーティやるみたいでさ。招待状だよ。」
「え、あ、いいの?あ、あがってく?もてなすよ・・・まあ借りてるだけの身だけど。」
ふふっとシャロンは笑う横でイームが答える。
「いや、これからターガレスとデイムにも招待状を渡しに行くんだ。」
「・・・誰だっけ?」
「・・・なんか、よく団結してたよね君たち。赤の他人同士が多くない?」
「ははは・・・特に私たちは舜さん組以外知らないからね・・・。」
軽い談笑も終え、シャロンは手を振り2人は去った。
「ねぇ、ダゴン様・・・。」
ダゴンは思考を巡らせているトワを見る。
「さっきのターガレスさん?とデイムさん?なんだけどさ。・・・別の国出身なら交易出来ないかな?」
「・・・なんというか・・・貴女もなかなかたくましいですよね。いい事ですよ。」




