113話
「再演算は終わったか、リリス。」
ロジクは1人、呟く。
「演算結果を提示致します。」
ロジクは浮かび上がったディスプレイを見てため息をついた。
「何度やっても覆らぬ・・・何を見落としている・・・?」
そう呟いてはパネルを操作し、また再演算をかける。
「仮に万全の状態でネビロスの元へ辿り着けたとしても足りぬ。やはり怜奈辺りも共に居たと考えるのが妥当だが・・・。」
自身の手元の調査書を見て、目を細める。
「ほう。先の戦の見返しか。」
「インロンか・・・。」
ロジクは目を閉じたまま思考を巡らせる。
「貴様は舜が勝つとしていたが・・・どうしてそう思った?」
「半分は勘だ。」
ロジクは鋭い視線をインロンに向かわせる。
「勘と言うものはバカには出来んぞ。経験や言語化出来ないだけの思考という事もある。」
「僕はそれを言語化して欲しいと言ってるのだがな・・・。」
ロジクはまたディスプレイを操作し始める。
「貴様の強さはデータとそれに基づいた知識だ。それは認めよう。だが、最初に会った時に言ったよう俺が戦いたいと思う程には届いておらぬ。」
ロジクの手がほんの一瞬止まった。
インロンは気にせず続ける。
「まだ経験が足りぬ。人というものがどれだけ個性があり、それぞれの想いがあり、どんなものかをまだ知らぬ。それが補えれば貴様も俺か認める強者となり得よう。」
(経験・・・確かに、それは認めよう。・・・しかしこのデータは経験の一つだけで覆せる程か・・・?)
ロジクが無言でいるのを見て、インロンはその場から離れていく。
「ああ、今回の戦結果に納得がいかないのであればY9に相談するとよい。あやつは間違いなく舜とかと同列の者だ。ではな。」
「・・・Y9か。・・・くせ者ではあるが。」
Y9は常に相手と目を合わせない。ただその表情等を見て見透かすようで。
ロジクは機械を少しの間いじり続けたあと、決心したように歩き始めた。
「・・・ん?Y9ちゃんに用事?ロジキュン。」
ロジクは咳払いをする。
「あー、ごめんごめん!ロジクたん。」
「今はそういうのに付き合っている暇はない。」
ディスプレイがロジクの周りに浮かび上がる。
「聞きたいのはこの前の戦のことだ。何故舜側が勝てたのか、それが知りたい。」
「なるほどねぇ・・・。リリスたん、まずライガ戦だけど何かしらで舜たんがパワーアップした想定で行こうか。」
リリスは演算を始める。
「更にネビロス戦でもパワーアップ!途中で負った怪我とか魔力の制限は無視していいよ!」
「・・・おい、そんなめちゃくちゃな想定が通るか。」
ロジクは口を挟んだ・・・が。
「・・・なっ、これは・・・!?」
「この想定なら戦終了時間に近いね。こっちの想定はかなり早くなるけど・・・あくまで2つしか考慮してないから他との戦いの事も考えるなら有り得る。こっちは・・・。」
いくつもの演算結果を見てY9はひょいひょいと勝手に操作する。
「・・・・・・2度のパワーアップだと?怪我も魔力切れも考慮しないだと・・・?有り得るのかそんな事が・・・。」
「パワーアップというか・・・想いが入ったという方が近いのかな?昔の戦術にある背水の陣とか、死にたくないから火事場の馬鹿力発揮する訳で。ん、ありがとねリリスたん。」
Y9はにっと笑ってリリス-機械に礼を言った。
(想い・・・インロンも言っていた。個人により違うとも。・・・なるほど、まずは舜というものがどんな人間なのかを経験せぬばならないか。)
ロジクは己の考えをまとめあげる。
「・・・おーい、ロジクたん?ロジクたーん?あちゃー集中モードに入っちゃったか。・・・顔に落書きしちゃおーっと。」
「殺されたいか?」
「聞こえてんじゃん・・・。」
ロジクはY9の目を見るが、こちらを向いてはいるものの目が合うという気がしない。
まるでこちらの表情だけでなく全てを見透かしてるかのように。
(個人の違いと言うならば・・・この女も他とは明確に違う、か。データを増やさねば。)
再びロジクが思案に暮れる中、キュッキュッとY9はロジクの頬に猫髭を描いていた。
「やーっと終わった・・・。」
「お疲れ様です、弟君・・・えっと、舜様。」
舜はくたびれていた。
「様ももう要らないよサナス。元王族だからね。」
「・・・そうですね。」
2人で話していると中性的な見た目の男性が入ってくる。
「あ、新王レアス様!就任おめでとうございます!」
「おめでとうございます!」
キビキビと深く礼をしてニヤつく2人。
王位継承が終わり、アウナリトに新たな王が誕生した。
「冗談が言えるぐらいには元気、と。この国にいる間は沢山働いてもらいますかね。」
「うぇ!?」
舜とレアスの会話にふふふとサナスは笑っている。
「実際今後どうするか決めてるんですか?舜さ・・・ん。」
「そうだね、とりあえずはキアラの墓参りと・・・遺族への報告かな。後は・・・まだ、色々あって。」
そうですか、とサナスは答える。
「キアラはよく仕えてくれました。本来なら私も行きたいのですが・・・。」
「俺以上に自由が効かないでしょ新王様。」
ううむとレアスは唸る。
「それじゃあ、そろそろ行こうかな。じゃあまた。」
「・・・あ、お待ちください。」
レアスに止められて、舜は振り返る。
「エリという情報屋をご存知ですか?」
「・・・知ってる、けど。」
レアスは少しどう伝えるか悩んで、続けた。
「あの女には気をつけた方が良さそうです。あなたの行動を逐一調べ、利用しようとしているかもしれません。」
「・・・・・・うん、わかった。」
見られている気配を感じたことは無い。
もし完璧に隠せているなら、今この会話ももしかしたら聞かれてるかもしれない。
舜は少しだけ考えたあと、部屋を後にした。




