112話
元王・ネビロスの部屋。
舜は考え事をしながら、その部屋へ来ていた。
自分と愛花が気が付いたおかしな点。特に回復魔法は存在自体をみんな知ってる風にしていた。
が、自分たちはよくよく考えると知らない気がしてきている。
考えても答えは今は出ない。
だから、一旦舜は義兄のしたかった事を知りに来ていた。
机の分かりやすいとこに置いてある手紙を見つけ、読む。
『我が弟よ、これを読んでいる時にはもうこの世に居ないだろう・・・。』
「・・・コッテコテのやつ好きだったんだ。・・・義兄上の事、ちゃんと知らなかったな・・・。」
少し寂しそうにしながら続きを読む。
『ピーマンが。』
「なんでだよ!嫌いだからか!?子供かよ!!!」
机に手紙を叩き付けた。
頭をかいて、今自分が少し気が楽になった事に気が付いてふふっと笑い、また手紙を手に取り読み直す。
『まずはひとつ・・・嫌いだから子供って認識はお兄ちゃんどうかと思うぞ。』
「うるせぇよ!!!」
机に手紙を叩き付けた。
「クソ・・・義兄上の事何も知らなかった・・・向こうはこっちのツッコミまで当ててきたのに・・・!」
悔しそうにしながら手紙をまた手に取り、読む。
『少しはリラックス出来たか。ひと手間多いんだよ!と思うかもしれないが、』
「ひと手・・・つっ・・・くぅ・・・!!」
叩き付けるか悩んだ末に、歯ぎしりをしながら読み直す。
『詳しいことはメヒャーニに行くとよい。ツォー博士が研究している。今はっきり言える事は、我らが敵となるであろうその生命体は恐ろしく強いという事だ。慎重を期するがよい。』
「メヒャーニ・・・。・・・メヒャーニか。メヒャーニかぁ・・・。」
舜が考え込んでいると、デバイスが鳴った。
「怜奈、大丈夫?」
怜奈が起きたという連絡を受けて、舜は自分の部屋に戻っていた。
他のみんなにはお願いして今は部屋に2人きりである。
「・・・うん。・・・なんとか。」
怜奈は壁を見つめていた。
「・・・怜奈が何を知ってて俺が何を知らないのか、その説明は出来ない?」
「・・・うん。・・・それは、許されていない。」
許されていない、か。と舜は復唱する。
「・・・知りたいのは、それだけ?」
「・・・もし、今大丈夫ならもっとある。」
怜奈は目線を舜にやり、続きを促す。
「回復魔法って何?」
「・・・・・・・・・愛花の?」
「愛花の、か。他の人が使えるとかは・・・。」
怜奈は首を振った。
「・・・私が存在を知ったのは、"愛花が隊長に使った時"。・・・それまでは存在すら知らなかった。」
「授業でとかは?」
怜奈の動きが止まる。
「・・・初めて知った時は、確かに授業で聞いたと思った。・・・でも今思い直すと、そんな授業は、無かった。」
「・・・うん、ありがとう。ゆっくり休んでね。」
舜は部屋を後にしようとした。
「・・・私の部屋、見たんでしょ?」
「・・・・・・ああ、見た。」
正直に舜は打ち明ける。
「・・・早く・・・思い出してね。・・・私、結構参ってるから。・・・お願い。」
「何したら思い出せるかは分からないけど・・・出来る限り頑張るよ。」
舜は怜奈の方を見た。
怜奈は、少しだけ笑った。
「・・・舜くん大丈夫?」
大部屋に戻ると漣が話しかけてきた。
「・・・うん、なんとかね。そうだ、ちょっと見てもらいたいんだけど。」
舜は漣に自分の母についての報告書を渡す。
「わー美人な人。えっと・・・去年亡くなってて享年21歳・・・。・・・この人が?」
「俺の母かもしれない人、だと。」
漣はふむふむと更に紙を読み込む。
「もう1年知るのが早ければ・・・出会えたかもしれなかったんだね。」
「・・・そうだね。・・・特に違和感とかはない?」
キョトンと漣はする。
「・・・亡くなった年と、年齢。俺の母親だとするならおかしくない?」
「・・・えっと?・・・んー???えっとえっと・・・。」
漣は再度書いてる事を読み込もうとする。
「・・・確かに何か引っかかるけど・・・何か気になるの?」
「・・・俺を産んだとするならかなり幼い時になる計算になるんだ。」
漣の動きが、止まった。
そしてハッとする。
「ごめん、ちょっと今なんかぼーっとしちゃって。」
「・・・!・・・もう1回言うよ。俺を産んだとするならかなり幼くて無理な年齢なんだ。」
また、動きが止まり、ハッとする。
「・・・ちょっと、私が疲れちゃってるかも?・・・ごめんね、大事な話なんだろうけど。」
「いや・・・いいよ。むしろありがとう。」
気が付けるのは自分と愛花と、回復魔法について気が付いたところから怜奈ももしかしたら気が付けるかもしれない。
だが、他の人にはこれが正しく読み取れてしまう。
(その事が分かれば、一旦は十分だな。)
「そんな事より舜くんは休まなくていいの?」
「ちょっとは休んだよ。まだ疲れは確かに感じるけれど。」
まだまだ大変だねと漣は頷く。
「私は舜くんと一緒に戦うとこもあったから少しはその苦悩とかストレスが分かるかもしれないし・・・何かあったら相談してね?」
「うん・・・お互いね。」
舜は戦争の事を思い返す。
殺したくて殺した訳じゃない。
それでも殺すしか手がなかった。
そんな戦いも多くあった。
精神的な疲れも当然、大いにある。
ふと、その中で殺さない選択肢を取った少女が目の前にいることを思い出す。
「聞いていいか分からないけれど・・・。」
「なんでも聞いて!」
漣は笑顔で言う。
「・・・漣は復讐したい相手が目の前にいたあの時、なんで殺さない判断を出来たのかなって。」
舜にとって復讐とはあまりに身近にありすぎるものであった。
そいつを殺さないと他の人が不幸になる。殺される。
そうやって不幸にされた存在を知っている。
思えば幼少期からそんな思考に毒されていたのが、殺すしかない今の選択肢の少なさに繋がってるのかもしれない。
「・・・・・・うん、あの時はね。あのまま殺したらどうなるのかなって考えた。全てをかけたことが終わってもぬけの殻になって、それでも復讐を誓ったあの時の後悔と絶望は別の絶望に多分なっちゃって。その上で復讐の為に殺したっていう新しい後悔と絶望に襲われるんじゃないかって。結局苦悩が増えるだけなんじゃないかってよぎった。」
「・・・凄い。・・・羨ましいな。」
心から漏れ出たように舜はぽつりと呟いた。
「ううん、私からしたら舜くんの方が凄いよ。好き好んで殺してるわけじゃない、それでも殺さなきゃいけないって割り切れるのは・・・。私はこの戦争でその悲惨さを知った。誰も殺さないって思ってたけど・・・最後には割り切らなきゃいけない場面があった。それでも・・・これからも出来る限り殺さず、殺させず、この手で守れる限界まで誰かを救えたらなって思ってるけど。」
「立派だよ。・・・ふふ、俺も漣をどんどん見習わなきゃ。」
その後、話は脱線しつつ2人の褒め合いがしばらく続いた。
復讐が何を産む?のアンサー、漣ちゃんは変わらぬ絶望と後悔、そして新たな絶望と後悔。




