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愛の歌  作者: Dust
5章
114/230

111話

(・・・さて、ひとまずは気が済んだ。)

2~3分位感傷に浸った舜は重たい身体を立ち上がらせる。

(まだやるべきことはある。まずは・・・。)

イパノヴァの部屋を後にして。

ふと、物音に気がついた。怜奈の部屋だ。

「・・・怜奈?いるの?」

ドアをノックする。物音が近付いてきて。

そして急に開いたドアから出てきた陰に押し倒される。


「・・・怜奈、どうしたの?」

「あ・・・ぅ・・・。」

怜奈は舜の胸の上から顔を起こし、泣きそうな顔で舜の顔を見る。

「帰ろ。ねぇ、帰ろうよ。」

「帰る・・・?何処に?」

怜奈は再び下を向く。

「思い出して・・・お願い・・・元の世界に帰らせて・・・。」

もはや縋るしかないように懇願してくる怜奈を舜は優しく抱き寄せ―

「おやすみ。」

怜奈の意識はそこで1度、途絶えた。


「許してよね・・・前は逆にやられたんだしさ。」

そうとだけ呟いて、彼女を抱きかかえる。

そして彼女をベッドで寝かせようと、彼女の部屋のドアの前に立ち・・・。

「・・・・・・。」

言葉を失った。

壁に貼ってある大量の紙。

自分を奮い立たせようとするもの、助けを叫んでいるもの。

『帰して』『助けて』『大丈夫』

そんな文字が貼られており、ボロボロに引き裂かれてるものもある。

部屋にある物も全て当たり散らされたようにボロボロで散らかっている。


「・・・怜奈は一体何を抱えてるんだろう?」

何とか助けになれないだろうか。

恐らく自分も関わっているからこそ、助けに。

そんな思考がよぎりはするが―

助ける?殺す以外何も出来ないお前がどうやって?

どこからともなく指摘されたその言葉に言い返す事が出来ず―

舜はその部屋を見なかったことにして、自分の部屋に運ぶ事にした。


「よかった、みんな無事ではあったんですね。」

「うん。ちょっと怜奈は疲れてるみたいだから寝かしつけたけど。」

全員と連絡を取り。

漣は興味深そうに部屋をぐるぐる見回し、咲希は椅子に座ってほっとしたようにリラックスしている。

「舜さん、私たちが怜奈ちゃんは見てますからどうぞご自身のために。」

雪乃がにこやかに言う。

確かに、舜がするべき事はまだまだある。

「・・・愛花は今、元気?」

「ええ・・・何とか。」

疲れ果てたような笑みを見て、舜は一瞬悩んだが。

「ちょっと来て。ごめん、怜奈が起きたら教えてね。すぐ飛んでくるから。」

そうとだけ言い残すと、愛花と共に部屋を後にした。


「どうしたんですか?」

「ちょっと回復魔法使って欲しくて。少しでも重症人を救えるように―。」

後ろの足音が止まった。

「・・・・・・。」

「どうしたの?」

愛花はその目をぱちくりとさせている。

「・・・ぁ、いえ、その。・・・回復魔法を舜兄以外に使った事って無かったなって。」

「そうなの?・・・え?いや・・・そうなの?」

緊張が走った。

まるで世界が変になったかのように。


「・・・・・・・・・。」

たまたまシャロンと出くわした2人は、その脇腹を怪我してると知って回復魔法を試していた。

「治らないね。・・・あの、それよりあんまりお腹見られるの恥ずかしいというか・・・。」

「あ!ごめんなさい!」

舜は赤面するシャロンから顔を背ける。

「治せない・・・。」

「えっと、シャロンさん?回復魔法使える人って愛花以外で知ってる?」

困惑する愛花の助け舟にならないかと、舜は他の回復魔法の所持者を聞いてみた。

が。

「・・・知らないです。授業で聞いた話だと回復魔法はかなり希少価値が高いものなので、愛花もうちの学校が創立してから歴代でただ1人とかなんとか。」


「え?回復魔法っすか?いやぁ使える人は知らないっすね。少なくともローグにはいないと思うっす。」

その後も。

「他に使える人は知らないなぁ・・・。そんな難しい顔しないの愛花。せっかくの可愛さがいや可愛いなさすが愛花。」

何人かと出会っては。

「んー・・・?愛花だけの特別な力だったりして。おっと、冗談冗談。そんなガチな雰囲気にならないでよ、テキトーに行こ?」

聞いてみたが一向に解決に向かわなかった。


「・・・舜兄。私、頭が変になったかもしれないんですけど・・・聞きますね。」

「・・・うん。」

2人で椅子に座りながらジュースを飲む。

「回復魔法って・・・なんでしたっけ。」

「・・・言われてみれば、元から知らなかった気がする。」

それは疲れから変な思考が混じってるのか、本気なのかの区別が付かなかった。

「・・・おかしいんですよ、今まで舜兄にしか使ってなかったの。漣ちゃんが怪我した時って包帯しましたもん。使おうとすら思わなかったんです。」

「・・・・・・存在しない物を、まるで存在してるかのように思わされていた?」


2人の意見がまとまりかけながら。

「・・・ちょっと回復魔法について考えるのパスしたいです。他のこと一旦挟めませんか?」

「ああ、じゃあ・・・ナチャ、爺やのやつ出せる?」

糸からポンと預けていたファイルが出てきた。

「・・・これは?」

「爺やが俺について調べてくれてたファイル。」

舜はそのファイルを開いていく。


「・・・俺の家系について?・・・アザトゥー家・・・。」

「うぇ!?舜兄アザトゥー家の人間なんですか!?」

さっきまでの疲れた声とは違い、驚きで大きな声を愛花は出す。

「母親が、そうだとさ。・・・あくまでこのファイルの中では。」

「うわぁ潰れたとはいえ大貴族様だぁ。・・・子供が実験で連れ去られたってなったら大騒ぎになってもおかしくはなさそうですけど、逆に隠蔽されちゃったんですかね。」

「いや・・・違う。」

舜はため息をついてファイルを閉じた。


「このファイルによると俺の母親は享年21らしい。」

「まだ若かったんですね。産んだ時にもしかして?」

舜は愛花にファイルを渡す。

「開けてみて。」

「えっと・・・亡くなったのは・・・。・・・?え!?去年になってません!?」

「うん・・・3~4歳の時に産んだ計算になる。不可能だ。」

舜は思考をより深くしながら更に述べる。

「あの爺やが・・・それを準備した。冗談でもなく、本気でそう思ったんだろう。でも俺と愛花はおかしいと気が付けた。・・・回復魔法も、今そうだった。」

「・・・・・・なんか・・・頭痛くなってきました・・・。」

「うん・・・一旦休もう。それで・・・これはちゃんと解決しないとね。」

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