110話
「おー!ここがアウナリト都心部!ここが都会!天然の要塞に囲まれながらも発展し尽くした夢の場所!!こんな所に入れるなんて生きてきた意味があったっすねぇ・・・!」
「おいムルシー、あんまりはしゃぐな恥ずかしい。」
「えへへー。あ、舜さん無事っすかね?真っ先に確認しに行くいい女ってとこアピールしてくるっす!今は悪い印象持たれてても仕方ないっすからここで挽回を!」
戦が終わった。
ローグ軍も希望者はアウナリトへ入っていく。
アウナリト王・ネビロスの強さは強大であった。
そしてその事もよく周知されていた。
その存在を殺し、尚まだ戦える者がいる。
それだけで普通の人は戦意を失うには十分であった。
もちろん、それだけでは無い。
ちゃんと愛国心を持ってた者たちはいた。
彼らも納得して戦が終わった理由としては魔界のゲートが開いた時、自ら共闘をしに行った者たちの存在が大きい。
ローグと聞けば無法者のイメージしか無かったのを変えられたこと。
そして何より。
左大臣レアスの宣言により、アウナリトそのものの運営等は大きく変えないことが周知された。
ローグ軍の目的も。
「・・・うげ。うちらの国真っ黒じゃん・・・。子供で人体実験した後その子供を養子に迎えるマッチポンプでアピールしてて、挙句その実験自体もこの戦争まで続いてたって。」
「それを止めに来た正義の集団がシィラ達なのです。分かりましたか?」
「あんたらも別に正義は名乗れないでしょ・・・。」
「・・・別に、全てが悪かったわけじゃないのに。この国の人たちはみんな笑顔だったし・・・実験は義父様がやってた事をポロスが引き継いだだけ。まあ・・・義兄上も知ってただろうから・・・やっぱ悪いのは悪いんだけど・・・。」
「心の整理がつかないのは悪い事ではありませんよ、舜様。それで、先程の話ですが・・・。」
「俺はやらない、義兄上のやるべき事を俺の生き方でやってみせる。だから・・・王はレアスがやりなよ。正式な後継者はもう居ないからさ。」
「・・・では、私は私の生き方を全うさせてみせます。・・・お時間をお取りしました。ふふ、あなたを待ってる人がいますよ。」
「・・・?」
(お、やっぱ城内に居たっす!ちょっと息を整え・・・・・・・・・あ。)
誰かと話している舜をムルシーは見つける。
背が低く可愛らしい子。
それでいて子供らしさも少しは残ってはいるものの、表情の一つ一つが魅力的に見える子。
(・・・なんだ、いい人居たんすね。・・・・・・。)
「・・・ん?舜兄、知り合いですか?」
「・・・ムルシー。・・・大丈夫?」
舜の第一声はそれだった。
元気は感じられず疲れ果てた声。
それでも、戦争中別れる時彼を傷付けてしまった自分に言う第一声がそれ。
「なんすか!舜さんの方こそ人に大丈夫か聞ける程大丈夫じゃないじゃないすか!」
だからムルシーはそれに応えるように元気に笑って見せた。
「しかしこれからも舜さんは多分大変っすよね?流石に多少はアウナリトも混乱するでしょうし。」
「そうだね。だから、レアスにも相談されたけど・・・勝って王が変わったからと言って法とかは同じままにする。同じ暮らしが出来るようする。あとは時間が経てば・・・きっと何とか、なる、かな。」
「む、難しい事は私には分からないっすよ?」
そんなムルシーに舜はふと思い出したように告げる。
「アウナリトで住むならアウナリトの法を守って、風習を尊重する事。全ローグにそれは伝えといて。出来ないなら・・・敵になる。」
「は、はいっす!伝えとくっす!」
ムルシーが去っていくのを見たあと。
舜はデバイスを見る。
「怜奈だけ安否の連絡に返信が無い・・・。咲希が見たとは言ってるけど・・・。」
「・・・私、咲希ちゃんに確認してきますね。怜奈ちゃんならきっと大丈夫ですよ。」
戦死者リストは確認した。とはいえ現時点で確認出来る戦死者リストだから不安は拭えない。
愛花は小さく手を振って、走って行った。
本当は自分も行くべきだろう。
しかし身体が言う事を聞かない。
(ちょっと・・・休んでから・・・。)
ひとまず、ふらつきながら移動し、自分の部屋へ久しぶりに入ってみた。
みんなで話し合ったりご飯を食べた大部屋。
長い机がポツンと置かれている。
自分が寝ていた部屋に行こうとして、ふと止まる。
一時期は空き部屋でしか無かった部屋が幾つかあった。
しかし仲間が出来、その仲間が寝泊まりするようになった部屋。
そのうちの一つのドアの前でノックする。
「・・・入るよ。」
答えは、ない。
舜はドアを開けて部屋の中へ入った。
1度も入ったことが無かった。
が、きっと自分がいなくなった後もそのまま残してあったという事は分かった。
いつくかぬいぐるみが置いてあり、袴と胸当てもある。
そして、写真が幾つも飾られていた。
みんなで撮った写真。仲間たちとの写真。
その写真を見て、絞り出すように舜は呟く。
「もし・・・このまま何事にも巻き込まれずみんなと一緒だったなら・・・幸せだったのかな。・・・イパノヴァ。」
へなへなと力なく座り込み、棚の上の写真を見上げながら。
舜は彼女の遺品であるアクセサリーを取り出して、胸元で握りしめていた。




