109話
ネビロスが全ての魔力を片腕の剣に込める。
そう、文字通り全ての魔力を。
だから舜は放った。
重くて重くて仕方なかったそれを。
沢山の人の無念を抱えたそれを。
ルースから貰った、銃を。
少し前まで引鉄が重かったが故に打つ練習すらしてなかった。
それがネビロスの心臓をしっかり撃ち抜いたのはその想い故か。
放った舜の腕から、ありもしない女の手が離れたような気がした。
(生き残る為に・・・使わせて貰った。生きて―みんなの想いを無駄にしないよう、頑張る為に。・・・ありがとう。)
舜は銃を丁寧に仕舞い、ネビロスを見る。
もう、長くは無いだろう。
舜は倒れた義兄に近寄って行く。
「・・・魔力、貰っていくよ。・・・その想いも。」
「・・・ふっ、それでこそ我が自慢の弟だ。・・・俺の部屋に行け。・・・そうすればやるべきことが分かるはずだ。・・・それと最後に1つ、優しいお前には、やっぱり人殺しは似合わない。・・・忘れるな、その優しさを、時には自分に向けることを。」
「義兄上・・・。」
ネビロスは、微笑んだ。
戦争に巻き込み、悲惨な思いをさせた自分の事を―
まだ義兄と呼んでくれたその優しさに。
「・・・全部、終わったね。」
リーンが優しく微笑みかける。
舜は天井を眺めている。
戦闘の余波で今にも崩れそうな天井を見ながら。
まだ、涙を流してはいけない気がしていた。
だから代わりに血が出る程拳を握る。
その手にそっと、リーンが手を添えた。
「・・・まだ、終わってないと思う。」
舜はリーンを見て、少し悲しそうに答える。
「ええ、その通りですよ。まだ終わっていません。私が王として君臨致しましょう。」
「・・・ポロス。・・・挑んでもいいけど、気が済むまでストックが殺されるだけだよ。」
舜はポロスの方すら見ずに言う。
「舐められたものですねぇ。魔力が切れかけ、身体がボロボロのあなたで何が出来ると・・・。」
空気が、冷たく肌をヒリつかせる。
部屋の各地から氷柱が現れ、その氷が鮮血へと染まる。
「・・・・・・・・・。・・・・・・化け物はなんなのですか。何故私の能力とその隠し場所を完璧に当てて見せられ・・・。」
ポロスが雪乃に問いかけてる間に、音もなく詰め寄ったリーンのハルバードが首を掻っ切った。
「・・・教えてもらいましたから。」
その落ちた首に雪乃は言い放った。
他の身体へと移ったポロスはその身体と魔力を隠しながら、部屋の様子を眺める。
雪乃に潰されたストック達はあれど、まだ2つ残っているのは彼にとって幸いであった。
さらに、その1つは彼にとっての奥の手でもある。
(見える・・・仕留められる隙が・・・この身体なら・・・殺れる!)
ゆっくりと見える全員の動き。
そして、その隙をついてポロスは舜の元まで一気に近寄る。
ポロスの目論見通り、さっきまでこの場に居る人間の反応は遅れた。
そう、さっきまでいた人間は。
「舜くん!」
炎がポロスより先に舜の前に飛び出してくる。
そして桃色の髪の少女、漣が炎から現れた。
ポロスの剣は漣の槍の柄を折り、漣の胴を斬り付ける。
「ハハハハハ!どうだ!今の私は!教えてあげましょう。私の力は!私に近ければ近い程強力な素材となる!そして今私が使っているのは私の父だ!さあどうする!」
その言葉の通り、先程までとは違う威圧感を纏っている。
「・・・さっきも言った通りだよ、ポロス。挑んでもいいけど・・・俺の仲間達に気が済むまでストックを殺されるだけ。」
舜はようやく、ポロスを見た。
斬られたはずの漣もその傷は既に治り、槍を持ってこちらを見ている。
「有り得ない・・・お前らは何も分かっていない。必要なのは力だ。他を屈服させて自身の力としてすら扱える程強力な力だ!仲間だ!?ふざけるな!ふざけるな!!そんなお前程度が我が王を殺したというのか!ネビロス様はその力で全てを屈服させられる存在だった!その力のおかげで平和を齎している存在だった!それを!!貴様!!!!」
ポロスは激高する。
「その力で、舜さんの義兄様は舜さんに負けたんでしょ?」
「貴様如きに何が分かるこの小娘が!!!」
雪乃の発言で更に喚く。
「おいおい、お喋りにしきたんじゃ無いんだろ?王になるってんなら見せてみろよ、その屈服させられるほどの力ってのを。」
セロが単身でポロスの前に躍り出た。
「貴様の能力は知っている。まだその程度の強さにしかなれていない雑魚が私と対等に渡り合えると思うなよ。」
「・・・能力?俺はまだ本気を出してないんだぜ?法界悋気。さ、始めようぜ。」
この戦争で沢山の人達が戦った。
その中でも優秀な能力者たちの戦いを見続けた。
そして、その戦いはまだ続いている。
その魔力は、父を犠牲にしたポロスを持ってしても尚辿り着かないもので―
「ふざけるな!ふざけるな!!私が!!この今の私が!!こんな雑魚に!?」
必死の抵抗虚しく、殴り殺された。
「おー・・・セロすごい魔力だ・・・。・・・あ、やば!逃げるよ!」
リーンが感嘆の声を上げたあと、走っていく。
「そりゃまあ元帥戦で使うタイミングを逃して、次こそは大事な場面を見極めてと溜め込ん・・・あん?何?」
「舜さん、失礼します!」
雪乃が舜をお姫様抱っこをして走り去っていく。
舜は雪乃に身体を預けながら、キアラとネビロスの遺体を置いて言ってしまうことを気がかりにその遺体を眺めていた。
パラパラと粉がセロの目の前に落ちてきた。
いや、辺り一面に落ち始めている。
「・・・やべ!?崩れる!?」
セロの魔力が最後のトドメとなり、玉座の間は崩壊を始めた。
(・・・ぐっ、有り得ん。この私が・・・あの私が負けただと!?)
崩壊していく中、ポロスは既に瓦礫に足が挟まれたこの部屋にある最後の身体へ移っていた。
(・・・だが、まずは生還だ。部屋の外にあるストックには触れられて居ない。)
「覚えておけ・・・お前を葬り、王となるのは私だ。」
炎がチラチラと舞う。
「・・・力で勝てなかったのに?」
炎がそう、問いかけてきた。
「勝てなかったのではない!私の力が残っている限り、私は・・・!」
「まだ自分の意見を変えないの?」
ポロスの前に漣が現れる。
「あなた、ずっとそう。まるで自分の意見が絶対正しいんだって言わんばかりに、1人で喚いて。」
「当然だろう。この魔力者社会において力こそが正しさなのだ。」
「・・・そっか。じゃあ、ごめんなさい。」
炎が、ポロスの身体に何かをした。
「私はね、この戦争中に会った人達は敵味方関係なく死んで欲しくないなって思ってた。」
(なんだ・・・今の感覚は・・・!?)
ポロスの頬に冷や汗が流れた。
「だけどあなたの能力は沢山の人の犠牲に成り立ってて。あなたが生きてると沢山の人が更に犠牲になるみたいだから。だから・・・。」
「う・・・移れん・・・!馬鹿な・・・ストックはまだ・・・!?」
「犠牲になるのを少しでも少なくするために、あなたに犠牲になってもらうね。」
そして、完全に部屋の天井が落ちた。
意識が、潰れる。
崩れ落ちた部屋の瓦礫から火の粉が現れ、炎となりて漣の姿へと戻る。
そして、アウナリトで起きた戦争は終わった。
記録
アウナリト軍死者 46名
主な死者 王ネビロス 元帥レイガ 右大臣ポロス 将リーグ マキナ キッソス 副将ライガ ジャメール
ローグ軍死者78名
アウナリト軍行方不明者 リビ
ローグ軍行方不明者 ダリル
4章 fin.
漣「漣ちゃんだよ!」
雪「雪乃です。」
漣「さてさて、長かった4章が終了!」
雪「今回の章はちゃんとテーマがありました。それは家族愛、です。」
漣「なんか・・・舜くん悲惨な精神状態になってたりするのに愛が云々言われても・・・。」
雪「まずはレイガとライガ。レイガはこの世界では無理だった家族全員の幸せの世界を守るため、ライガは力を求め変わってしまった兄を振り向かせるために強さを求めてました。」
漣「改めて見ると、この世界とかよく分からないね?」
雪「そこら辺はおいおい分かるでしょう。次に舜さんと爺やことベリウス。戦場で産まれ戦場で死すべきところを生き延びてしまった男の不器用な愛。」
漣「不器用すぎて舜くん病むよ?大丈夫?」
雪「ベリウスの方は舜さんの事を親孝行な子と想いながら死んでるのが幸いですかね。そして最後はネビロスと舜さんの兄弟の愛ですね。」
漣「殺し合いのほうの"あい"じゃない?舜くんやっぱ病んでも仕方ないよ?」
雪「まあその他にもオーフェとのかつての仲間との絆とかもあったのですが。」
漣「その他にまとめていい程小さな内容じゃなかったのがムカつくね。」
雪「さて、今回はここまでと致しましょう。」
漣「次回から5章!読んでねー!」




