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愛の歌  作者: Dust
4章
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104話 背負いし者の覚悟

視線を感じる。

命を奪った事の恨み、命ある事への妬み。

そんな感情をその身ただ1つで受け止める。

痛みも苦しみも全て全て。

輪を作ったロープに手を伸ばす。

やらなきゃ行けないことは分かってる。

そして、この視線の前でやらなきゃいけない。

そして舜は―



そのロープを引きちぎった。


激しい憎悪が、痛みが襲ってくる中舜は上を見る。

重たい身体で、鉄球に引っ張られながらも上へ上へ泳いでいく。

「この痛みも・・・想いも・・・全部持っていく!だから・・・!お前らは俺に背負われていろ!!」

光が近づいて行く。

激しくなっていく痛みもお構い無しに。

(また背中を押してやるべきかと思ったんだがな。)

(ね、だから何も必要ないって言ったでしょ?)

声が、聞こえた気がした。



ネビロスの斬撃が舜を斬り裂く。

少し離れた位置から放ったそれに隣のキアラは動かない。

「・・・そうか。」

雪乃は滑り込みながら動かない()()()の身体を抱え、離れる。

「・・・正直侮っていた。レアスの信じた腹心・・・か。」

ゴボッと血を吐いた舜の姿が、キアラへと変わった。

「もし俺が勝ったとしたら・・・丁重に弔いその名を遺すことを約束しよう。遺族にも名誉の戦死として伝え生活に困らぬよう手配する。」

「・・・要らない・・・だって・・・負けるのはあんただ・・・。」

「・・・無論、我が弟が勝てば、弟の事だ。君の死を惜しみ、悲しみ背負うだろう。」

セロがキアラの元へ駆けつける。


「・・・舜さん!」

舜を抱き抱え離れていた雪乃が声を上げる。

「・・・っ。・・・・・・。」

ふらつきながらもその足で立った舜は戦況を見渡す。

「キアラ!」

「・・・こっちは・・・大丈夫だ・・・!・・・早く終わらせて・・・治療しに来い・・・!」

舜は頷き、覚悟の伴った目でネビロスを見た。


「・・・キアラ。この傷じゃ・・・」

応急手当をしようとしていたセロが消え入りそうな声で放つ。

「分かってる・・・助からない事は・・・。だが・・・終わるまでは・・・この意識を・・・。」

自身の死が邪魔にならないようにと、必死に自分を鼓舞する。

しかし、もはやその目には戦いの様子は映らない。

代わりに、別のものが映っていた。


村の中。

珍しく外から人がやってきていた。

ここはアウナリトの外れも外れ。

ローグからも狙われない場所で寂しくお金もなく過ごしている。

・・・寂しく過ごすようになったのは最近の話であった。

魔力者として目覚めたその身を怖がる人は多い。

増してや人が多いとは言えないこんな場所。

噂はすぐに村中に伝わり、それからというもの家族全体に対し誰も寄り添おうとはしなかった。


「やあ、こんにちは。」

見下ろせる場所へ1人座っていると、その外から来た男の1人だけが隣へ来て座った。

「・・・何?」

「今探してる人がいてね。この村の魔力者が誰か知らないかい?」

下では他の外から来た人達が何やら騒いでいる。

「・・・知らない。」

魔力者を探しに来たのであれば、それはきっとそうでない人からしてみれば厄介な話になるだろう。

関わりたくないと黙ったりしらばっくれたりすれば、わざわざ魔力者を探すような連中だ、何されるか分からない。

だがもし答えてそれでなにかに巻き込まれるのも嫌だろう。

(・・・すぐバレるだろうな。)

そう、思った。


「・・・そっか。実はね、今一緒に戦ってくれる人を探しているんだ。」

「・・・魔力者になっても戦いたくないとは限らないと思うよ。」

どうせいつかバレるならと本音を言った。

「それどころか・・・魔力の事なんか聞きたくないとすら思ってるかも。」

「ははっ。そうかもね。何しろ私もそうだ。魔力のことは嫌いだ。君は想像力豊かな子なんだね。」

楽しそうに笑う男を不思議に思ったのを覚えている。

「ああ、悪いね。私はレアス。魔力者だ。」

「・・・嫌いなのに、なんで?」

「魔力者に好きでなった訳じゃないならせめて使う理由くらいは好きにしたくてさ。私はね、魔力者への不当な偏見を無くしたいのさ。その為には無能力者の保護が必須だとも思っている。襲われる、と思うから怖がられる。まずは安心感を・・・。」


騒ぎが近付いてくる。

「レアス様!そこにいらしましたか!」

「・・・見つかっちゃったね。楽しかったよ。」

立ち上がり、去ろうとするその人の言葉が頭をぐるぐるしていた。

「待って!・・・。」

「・・・君は、何のために使いたいのかい?」

魔力者に目覚めて、冷たい目で見られて。

それでも尚、愛してくれた存在がいた。

共に冷たい目で見られることを選択した存在がいた。

「・・・お金。・・・お金は、どのくらい入ってくる?」

「ふふ、活躍次第だけど・・・それなりには出せるよ。」


何故、今そんなことを思い出してるのだろうか。

・・・ああ、これが走馬灯ってやつか。

「・・・レア・・・ス・・・様・・・。・・・わ・・・たし・・・おか・・・ぁさん・・・のため・・・に・・・。あい・・・して・・・くれた・・・から・・・ずっと・・・ずっと・・・。だ・・・から・・・せいか・・・つを・・・楽に・・・。」

「・・・キアラ?・・・・・・!!」

セロは大声で呼びかけたいのを我慢した。

まだ戦いは続いている。

この戦いの邪魔になるのを彼女は望んでいない。


舜は傷口を抑えながら、両の足で立っている。

背中にさっき声の聞こえた2人が居てくれる気がした。

背後で微笑んでくれてるような気がした。祈ってくれてるような気がした。

「・・・力を貸してくれ。イパノヴァ!オーフェ!」

連戦に次ぐ連戦で魔力も身体もボロボロであった。

それでも舜はその痛みを力に変えて立ち振る舞う。

「その意気やよし!」

ネビロスは魔力を剣に貯め、斬撃を放たんとする。

舜はニヤッと笑い、そして―

我が膝元で永眠せよメルセゲル・イルシャード!」

人差し指を口元に当てた。

その背後で同じ動きをする何かがネビロスの目にも見えた気がした。


(ありがとう・・・イパノヴァ・・・!)

動きを止めるのはほんの少し。

「くぅ・・・!」

しかし、その少しで舜の振るう剣に斬撃を合わせる事が出来ず、ネビロスは剣で受け止めようとする。

振り切られた剣に防御を弾かれ、無防備になったネビロスへ、振り切った勢いそのままに舜は後ろ回し蹴りを横っ腹へ浴びせる。


ネビロスは蹴られた反動で押し飛ばされながらも、貯めた魔力で斬撃を振り降ろす。

怪物の素質を齎すもの(ティフォン・アネモス)!」

両手を縦に、顎になぞらえるように広げその斬撃を挟み込み消した。

ネビロスの目にははっきりと見えていた。

舜の後ろにいる2人の半透明な姿が。

背負うと決めた者の覚悟が見せる、その幻影が。

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