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愛の歌  作者: Dust
4章
100/230

97話

「敵襲です!」

息を切らせながら走ってくる少女は必死に叫ぶ。

「どこの者だ、まず名乗・・・。」

「向こうから来てるぞ!」

混乱、焦燥。誰もがその声の方を向き―

背後から音もなく殺される。

「あー待て待て、そいつは違う。」

残ってるメンバーにも手をかけようとする舜を、敵襲だと叫んだ少女―キアラが止める。

「白い布を腕に巻いてるやつは仲間だ。」

「・・・そう。」

舜は今手にかけようとした相手をじっと睨む。


「協力者、結構いるんだね。」

「意外と不満持ってる連中ってのは多いのさ。私もその口。」

キアラの答えに舜は首を捻る。

「どうかな・・・勝った時の待遇とか考えて有利そうな方についている、利益だけしか見えてない人も居そうだけど。」

もう一度、先程殺そうとした相手を睨む。

「そしてそういう奴は・・・保身の為にどちらが勝ってもいいようしてあったり。」

「舜くん、どちらにしろ・・・私たちは勝つしかない。ずっと有利でいればいい話だよ。」

漣の答えにそれもそうだねと舜は頷き、ようやく警戒を解こうとして―。


最大限の警戒モードに入った。

少し遅れて雪乃も身構え、その身構えた方向に何かあるのかと覗き見た漣もようやく構える。

他の人には―何が起きたかさっぱりである。

ドクンと跳ねる心臓。

舜にはたった1人だけ、心当たりがあった。

数多の戦いを経ながら、その気配をついぞ掴むこと叶わじ相手。

その相手なら―今、自分にだけ殺意を向けることも可能であろうと。

「―先に行っててくれ。後から必ず追いつくから。」

気配が奥へ行こうとするのを察知して、舜はみんなにそう告げた。


「大丈夫・・・?」

その異質な雰囲気に漣は思わず呟く。

「うん・・・こっちはね。」

「こちらは任せていてください。私が、舜さんの戻るべき場所を守りますから。」

雪乃の言葉に笑いかける事で返答とし、舜はその気配を追った。

気配は人のない廊下を歩き、歩き。

「・・・・・・。」

気配が消える。

大部屋の戸は開け放たれ、入ってこいと手招きされているようで。


「・・・全てを壊すもの(ラグナロク)。」

スプレー缶を壊すと同時にぶん投げ、そこにマッチを投げ込む。

白いガスに火が引火して爆発を引き起こし―

その煙の中に紛れ、舜は部屋へ入り込もうとして。

「・・・っ!?」

剣が顔のすぐ横を通り過ぎて行った。

何とか躱して部屋の中に入り―煙の中のその存在へ呼びかける。

「爺や・・・本気で、やるんだね?」

「今の一撃、仕留めるつもりでしたが・・・坊ちゃんにはそうは見えなかったのですか?」

育ての親と呼ぶべき存在を、舜は目の前にしていた。


「さて・・・改めて名乗らせてもらいましょう。前王ラースが第一の剣・ベリウス。老骨の身ながら御相手致します。」

「待ってくれ爺や!俺は・・・!」

悲痛な声が響く。

その声はベリウスの殺意をより高めていく。

「敵を目の前にしてなんと情けない事。それとも我が殺意では足りぬと申されるか!」

能力者はみな、20になる前に能力者へとなる。

長年生き長らえてきたベリウスが無能力者であるのは誰の目にとっても自明の理。

無能力者が能力者に勝つなど、数や武器などの条件を整えてやっと出来るかどうか。

「無茶だ爺や・・・!」

「この歳まで生きた老兵を舐めるとは―未熟。」


その無茶が、通るほど鍛えられた殺人の業。

舜の防御力すら意図も容易く斬り裂けそうな鋭利な一撃。

その一撃が今―目に追えないほどの速さで踏み込まれ、舜とすれ違う。

血が、ポタリと垂れた。

「―仕留められなかったか。」

そう呟いたのは。



―舜の方であった。


「―未熟であったのは此方の方か。」

ズキリと痛む左腕。

口惜しげに、しかし感嘆しながらベリウスは目を輝かせる。

「嗚呼―貴方は幾度の戦場を経て尚生きし者。老いたこの身に活力を齎し、まだ学ぶべき事を教えてすらくれる者。今の失礼、詫びさせてもらいまする。」

「・・・戦いたくないのは本音だよ。殺意を向けられてまで押し通すほど、人が良くないだけで。」

べリウスは、己の昂る感情を抑える事が出来そうになかった。

老いて尚、強さに手を伸ばす者として。

―戦から逃げる事が出来ない憐れなものとして。


目の前の強さに尊敬を覚えた。

そして、超えるべきと自身に鞭を打つ。

最早、その痛みは戦意へと変わっており。

舜に対し、自身の業を嬉々としてぶつける戦鬼と化した。

在りし時代の自分へと。

この為に生があったと、語りかけるように。

自身の業はただ殺しの業。

向こうが持つは業の他に手段あり。

演技にはて、騙された。

そんな甘い自身に喝を入れ—


2人の剣は、儚くも音を鳴らす。

何度も何度も音を鳴らす。

目的は違えど、共に殺すという道しか無かった哀しみを歌うように。

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