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終末世界の異世界転移者  作者: はなや
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08話

如何にも胡散臭い話し方で声をかけてきた少女は仕入れた情報を話したくて話したくて仕方が無いと言う若干の興奮状態で、こちらが聞くか聞かないかの判断を伝える前に続きを話し始めた。


「ああ、うちはハーナって言うんでさ、以後お見知りおきを。さて、さっきの続きなんすが、いやね、この先に港町ジブラルトって所があるんすが、どうも今朝方から警備兵が騒がしいんでさ、なんがあったか探ってみたとこどうもここ二三日で急に周辺の魔物が活発になり始めたってんすよ。普段は比較的温厚でそこまで驚異的でも無いのに様子がおかしいって話しでさ、此処とは反対側の街道じゃあ荷馬車が襲われたりして護衛料も急増中、これ以上街に危害が出るようなら近々討伐隊を編成して大々的に魔物狩りをやるって話しなんすがそれを聞きつけた商人達が猛反発してる訳でさ、中にはカツカツで爪に火ぃ灯す思いで商いしてる人間も居るってのに護衛代が馬鹿にならねぇ、命あっての物種ってのは解ってるから金は払わねぇ訳にはいかねぇ、でも儲けがなけりゃ結局その物種も無駄になるって板挟みでさ、なんとか今日明日中に討伐してくれって領主様の屋敷に商い屋が殺到しちまってえれぇ事になったんだとか。だからですねぇお二人さん、腕に自信があるってんなら護衛の仕事ををすれば、今ならガッポガッポ儲けがでますぜ。特にそっちの姐さんは只者とは思えねぇ、何ならうちと三人で金儲けしませんかねぇ。討伐隊に入っても儲けなんかでねぇ、どうせ二束三文で働かされて何の恩賞も得られねぇ、ほたら稼げる内に稼いだほうが利口ってなもんでさ。」


と、事細かに話してくれたお陰で状況は理解できたが、このハーナの話す言葉が色んな方言やイントネーションのミックス状態で内容は解るが言葉が気になって仕方がなくお陰でひどく混乱した。

まあ言いたいことは解ったが、なにもそんな死体に鞭打つ様なことしなくても良いんじゃないのか。とも思ったが、これがこの世界の習わしなのだろうか。稼げる時に稼いで置かないと路頭に迷う位には逼迫している生活を送っている人間がそれほど多いということなのだろうか。うーん、どうするか。


「智也、こいつと共にいく必要はないぞ。」

「ん?どうして?」

「どうしてもこうしてもない、弱者に手を差し伸べず挫くような行為をする輩と共に歩く必要など無い。」

「あらぁ、えらい正義感の強い姐さんですねぇ、義理感に溢れすぎててヘドがでますぜ。まあお二人共旅の道連れって感じですしなんならお兄さんだけでもうちと一緒に行きません?」

「いや、アリィがいかないなら俺もいかない。旅の道連れってのはあながち間違えてはいないが、彼女と共に行くと決めた以上、彼女の意見を無下には出来ない。それに俺も君の言う義理感の強い人間みたいだからな。」


智也…とアリィが微笑みながら俺をみてくる。…アリィ、違う。ああは言ったが君からはまだ情報を抜きたいってだけなんだ。だからそんな目で見ないでくれ、少し心が痛い。


「あらぁ、トーヤの兄さんにも嫌われちまいましたか。なら仕方ねぇ、他を当たるとしますわ。」

トーヤってなんだ?俺のことなのか、この世界の言語だと俺の名前は発音出来ないのか?それともあれか、この世界には相容れない聞き慣れない名前だから一番親しい該当する名前で認識したということか。などと考えていると、少女は俺に手を差し出してきた。


「てなわけでトーヤの兄さん、情報料頂きたいんすが。」

「は?」と素っ頓狂な返事をしてしまう。

「いや、兄さんうちの情報をうちから得ましたよね?なもんで情報料を頂くのはうちとして当然の権利すよね?ここまで聞いたんすから知らぬ存ぜぬじゃあ通りませんぜ?」

「貴様と言うやつは何処までっ…」とアリィが今にも殴りか掛かりそうな勢いになっているのをまあまあと宥める。

「情報ってのは何だ?俺は君が『大きな声で一人で勝手にくっちゃべっている』のを耳に挟んでただけなんだがな?情報を聞きたい、欲しいなんて俺は言っていない以上それは俺の知るところじゃないし君のマッチポンプのようなものだろ。それに、そんな情報街に入ればいくらでも聞けるレベルの話じゃあないか。わざわざ街を出てこんな所で小銭稼いでないで護衛の仕事を引き受ければ良かったんじゃあないのか?それに、君の風体をみているとまともに戦えるとも思えないんだが、大方、誰かに引っ付いて行って大して働きもせずに護衛料をぶんどるつもりだったんじゃないのか?」

「あー、もう。そう言われちゃあ何も言えねぇじゃねぇですか。解りましたよ、一人で行きますよ。…因みにこんな哀れなうちを助けてくれたりなんてしやせんかねぇ。」

「いや、俺ちょっと宗旨変えしてね。試しに弱きを挫いてみようと思うんだ。例えば目の前で金に困ってる少女とか。」

「トーヤの兄さん、ひでぇ事言いますね。」とワナワナと肩を震わせた後。

「くそー!おぼえてろー!」と泣きながらハーナは街の方向へ駆けていった。

「はっはっは、痛快だったぞ智也。」

と、清々しい笑顔をみせてくれるアリィ。ハーナは実は弱き者だったけど手を差し伸べなくて良かったのか?と返すとそんなもの因果応報だと答えてくれる。

やれやれ、ハーナのお陰で心身共に特に疲れてしまった。



 翌日、集落を後にし、港町ジブラルト周辺へたどり着いた。高台から観察するとハーナが言っていた反対側の街道は人の往来もとても多く、街道の地点から多くの荷馬車が列をなして並んでいた。なるほど、此処で取引をして荷を積んで各地へまた帰っていくのか。いわば此処は中継地点になるわけか、港町というだけあって潮の香りが漂っている。多くの漁船や商船も行き来している、活気がある町のようだ。

さて、自分たちが居る街道に関しては荷馬車に対して人の交通は少ない、通ってきた道から考えるとこちら側は過疎地域になるのだろう。道はあれど人は住んでいないという事だ。高台から降り道を進むと川が堀の役割を果たしていて大きな跳ね橋が降りており、綺麗なアーチ構造の落とし扉が2つほど奥に並んでいる。なるほど、城門に関しては地球のものと然程変わらないのだなと関心する。見張り塔にも警備兵が立っており、警戒態勢に入っている。ハーナが言っていた事は本当だったようだ。


 列が前に進むにつれ、皆身分証のようなものを衛兵に見せ通過していっている。身分証など持っていないが、どうするんだ。アリィに身分証について訪ねてみる。

するとさらりと「創造すれば良いでは無いか。」

と返される。確かに、詐称する程汚れた身分でもないが戸籍も無いわけだしな。


「本来この世界の人間は生を受けた時神殿にて発行されるものなんだ。それは魂と連結されていて失くすこともなく抹消できるものでもない。」


とアリィ。なるほど、つまり身分証を持っていない以上変身した魔物かこの世界のものではないという事が容易に解ってしまうのか。と思ったが、別にそういう訳でも無いらしい。一部貧困した地域や人間以外の種族の領土には勿論神殿はない。そうした身分証を持っていない者に関しては衛兵が神殿へ連れて行き身分証を発行させるらしい。


「なら俺達もそうすれば良いんじゃないか?」


と尋ねると、アリィはムッとした表情になり


「私ではない架空の神の加護を受けるなど許さんぞ。」


と拗ねていた。架空の神に魂と連結させた物を創り出すなんてそこまでの力なんてあるのか?と首を傾げていると


「架空とは言え神だ、人々の信仰こそが神々の力の源流になる。架空故意思など持たんがその力は絶大だ、遥か昔の教会の教皇はその力を使って人間の管理をしようと考えたわけだ。それが身分証の発端だ。」

「へえ、まあ悪いことだとは思わないから別に構わないけど。」

「良い悪いで言えば良いことだ、結果的に人の戸籍管理は助けになった事が多い。だが私は気に食わんのだ。神の力を、人が扱うなど。」

「傲慢である、と?」

「いや、過ぎた力を持ちすぎると教会と言うものは神の名の下に時に強硬手段を取ることがある。そも、絶対的な権力というものは人に扱いきれる力ではないんだ。」

「それは確かに、地球でもそうだったからぐうの音も出ない。今の話からすると、アリィ達は全盛期から大分弱ってるってことになるのか?」

「弱っていることには違いない。しかしいくら別物になったとは言え今の架空の神々の原点は我ら三柱だ。架空の神々を崇めるということは、間接的に我々も崇めているということに相違ない。」

なるほどな、と。相槌を打ちながら身分証を創ってしまう。


「次の者たち!こっちに来い!」と衛兵から声を掛けられる。

 

 身分証を確認して貰い、滞在期間を聞かれる。困った事があったら衛兵に声を掛けるように言われ。通される。

落とし扉を抜けると活気ある声、人、人、人。

一先ず物資を買いに市場へ足を運ぶ。鍋や木皿、食料を買い足す。途中、鹿肉を買い取って貰えると出店のおばちゃんに言われ、半分ほど売りに出す。むぅ…と名残惜しそうにアリィが肉を眺めている。

何故肉を手放す事になったかと言うと、金が必要な事に気が付きアリィに確認したが、どうやらフィーレが全員分の金を持ったまま行ってしまったようだ。無いものは仕方ないと諦めがついた後、売れるものを探したが取り敢えず買い取ってもらえる物といえば今の俺達には鹿肉しかなかったのだ。今後の金の運用をどうするか、と2人で歩きながら話す。いっその事金を生み出す魔術でも作ってしまうかとも話したが、流石にそれはマナ的にも倫理的にも宜しくない。

ならば、とアリィが提案したのが魔物の素材を売る。という話しだ。そんな事したらマナの還元量が減るんじゃないのかと言ってはみたものの既に背に腹は代えられない。この世界には魔物を狩ったり人助けをする組織、ギルドと言う物があると教わったが各地を転々とする上、討伐証拠などを持ち帰るならマナに還元したい。それに手当り次第狩るつもりだったから所属するつもりは毛頭無かったのだ。素材の売却はギルドに所属していなくても出来るはずだからもう一択しか無い。素材、売ろう。

魔物の討伐を完遂出来ないまま死んでしまっては元も子もない。さて、ならどれを売れば良いのかという話になり2人で頭を悩ませた結果、数ある素材の中で目を引いたのがどの魔物にも存在するという「魔石」と呼ばれる物だ。生命の体内に存在するマナの結晶、生命の動力源があるという話だ。これは体に取り込んだマナの滞留物のような物が結晶化し心臓と共にこの世界の生命が活動するのに必要不可欠なものらしい。マナのみから形成された生物の場合、魔石だけが動力源になるみたいだ。生命がマナに帰る前に肉体から魔石を引き抜いてしまうとマナに還元されずに死体が残ってしまう。そして死体はマナに還元されず装備や居住、装飾の素材になり、魔石は魔術道具の動力源になる。魔術道具の動力源になった場合、魔石からマナを引き出してその力を行使する。というメカニズムだそうだ。

だから魔石を必要分売却することにしよう、と結論がでた。

その後の買い物で出店の主人から聞いた話によるとハーナの言った通り、明日魔物の討伐隊が派遣されるそうだ。

 比較的人が少ない中央に大きな木が立っている広場についた頃、屋台で買った串焼きを食べながら休憩する。


「今日はこの町に泊まるのか?出店の主人に話を聞いていた所から察するに討伐隊に参加するんだろう?」ともぐもぐ頬張りながら話しかけてくるアリィ。

「いや?明日討伐隊が出るからこそ、今夜の内に俺達で討伐する。」

「そうか、なら今夜は徹夜になるな。」

「ああ、だから明日の朝帰ってきてから泊まろう。どうせ今から行っても討伐に参加する連中が多くて泊まれないだろう。」

「確かにな。なら夜に向けて休憩するか。」


アリィはそう言うと大樹の陰へ移動し横になる。どうやら寝るつもりのようだ、なんて警戒心の無い女神様なんだろうか。その自由奔放な姿に少し頭痛がする。やれやれ、と念の為アリィの横に座り考える。

 この世界に来て、魔石と魔術道具の話を聞いた時すぐ思いついた仮説がある。生命が増え続け魔術道具が流通し、死体はマナに還らない。マナの減衰理由はそこにあるのではないか。ということ。つまりこれを踏まえた上で得られた結論こそ、『生物の飽和状態』こそが、マナの循環に最も悪影響を及ぼしている。という考えに行き着くのだ。これは言うわけにはいかない、手を返したように敵対されても困る。はあ、と溜息一つ。


現状でやれることをやっていこう、取り敢えず目下の目標は豹変した魔物の調査だ。

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