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終末世界の異世界転移者  作者: はなや
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07話

朝になる、日差しを目に受けハッと目が覚める。智也は比較的朝に強い。と言うよりかは元々眠りが浅い人間なのである。それに加え遮断(シャットアウト)があるとはいえそれなりの緊張感が智也の眠気を更に浅くする。

平たく言うと慢性的に寝不足である。慣れないことをしているなとは自分でも解っている。しかし、この状況下ではそんな甘えたことも言ってられない。残りの時間は少ないのだ。

 兎も角今日は水辺を探そうと思い立ち、朝食を用意する。総ての用意が終わったものの、アリィが起きてこない。なんということだ、神様は寝坊助だったのだ。そういえば拠点にいた時フィーレに引っ張られるかのように起きてきていたような気がする。特にその時は気にしていなかったが、今こうして目の当たりにすると中々厄介な事だ。妻以外の女性を起こさなければならないと言うなんとも気の重くなる作業、ああ、酷い罪悪感に苛まれる。


「アリィ、アリィ。起きてくれ。ご飯が冷めてしまう。」


と、寝床に足を運びアリィを見る。依然として深い眠りについており全く起きる気配が感じられない。ああ、嫌だ。何が嫌なのか、妻以外の女性の体に触れるという行為にかなりの抵抗を感じるのだ。社会人故の性である、ハラスメントになりかねない行為を避け続けた結果、いつしか女性と必要以上に距離を取る様になっていた。ああ、嫌だ。再度心に湧いてくる感情を押し込めて、意を決してアリィの体を揺する。うぅん…と起きている時と違い全く持って間の抜けた声に少しばかり驚いてしまう。ああ、早く起きてくれ。しかし、いくら揺すろうと叩こうと全く起きる気配が無い。外敵に対する警戒がなさ過ぎるのか、刺激に疎いのか、いずれにせよその威風堂々とした寝姿は百獣の王、ライオンの様で、見方を変えればそれはまさしく神の傲慢だろう。

要ならこういう光景に喜ぶのだろうが、俺にとっては全く持って喜ばしくない。

…あ、と思い立ち釜戸へ戻る。そうだそうだ、要のお陰で思い出した。こういう時確か漫画ではこうするのだ。これなら触れる必要もない。そうして手にしたのは、鉄のフライパンとヘラ。これがあればいくらなんでも起きるだろう。神の怒りに触れるかもしれないがそんなもの関係ない、朝御飯が冷めてしまう俺の怒りに比べればそんな物些細なことだ。寝床に戻り打ち鳴らす、ガンガンガンガンと。

アリィの体がビクッ!と震え、勢いよく体が起きる。


「な、なんだ!敵襲か!?」

「おはよう、アリィ。早く起きてくれ、ご飯が冷める。」


と言い残し踵を返して釜戸へフライパンとヘラを置きに戻る。


「…はぁ。なんだ、朝食なら先に食べても良かったんだぞ。」

「俺に後片付けを二回やれって言ってるなら、いくら神様でも怒るぞ。」


ぐっ…と痛い所を突かれたという顔をしたアリィは頭と腹を掻きながら、のそのそと寝床から出てきた。特に逆鱗に触れたようでもなかったからよかった。

薪を囲んで朝食を取る。しかし、こうしてみるとアリィという神様、初めて見た時に感じた威厳は何処へやら。わずか一週間でガラガラと音を立てて崩れていく。いや、ちゃんと目が醒めた後は威厳を保ってくれているのだ。まだ辛うじて思うまい、駄女神とは。

そういえばと、ふと思った疑問をアリィに投げかける。


「なあ、なんでこの森を初めの拠点に決めたんだ?」


ん?…んー、あー。とまだ頭が冴えていないのか間延びした声を上げ、あれは…と言葉を繋げる。


「確か、此処はほぼ世界の最果て。人の流入も無い森で、遥か昔から誰の手も入っていない、魔物も居ない、そういった理由で選んではず…だが。」


はて、そういえばなんで魔物がいたんだ?と周りを見渡し首を傾げるアリィ。もぐもぐとご飯を頬張りながら。


「情報が古いんじゃあないのか?それともわざとか?」

「馬鹿を言え、何故自分達の不利益にしかならないことをせねばならんのだ。それにしても変だな、ここはある種の聖域のような場所だったはずだが。確かに智也の言うように情報が古いかもしれない、若しくはこちらの動向を魔王側に悟られてしまったか。」

「えらく軽く考えているんだな。」

「事実軽い、君等はいわば我らの神の代行者、ある程度の修練さえ積んでその気になれば生半可な魔物では太刀打ち出来んようになるさ。」

「なるほど、期待してくれてありがとう。」


これ以上は情報を吸えそうにないなと諦め、朝食を食べ終え、荷物を片付ける。出発だ。


「さて、今日は水辺を探すとしよう。」


そうだ、言い忘れてた。とアリィが歩き始めながら話す。

晩の寝る前に修練を積むと言う話だ、この世界で生きるなら剣くらい使えるようにならんとな。と付け加える。

魔術師として呼ばれたのにそんな事する必要があるのか?と智也は問いかけるが、その時々で対応しなければならない状況もあるだろう。魔術を封じられ白兵戦をしなければならない時が来るかもしれない。君がその時に直面して何も出来ず死にゆくのは全く持って好ましくない。それに、魔術師として呼んだわけではないぞ?と返される。なるほど確かに、と納得する。

パーティでの役割分担をして戦いに身を投じるならば最低限の体術があれば生き残れるかもしれない。だが基本一人旅、合流したとしてもこのままだと魔術師2人。まあ、そういう事ならマルチタスクをこなさなければならないわけか。しかし、剣か。剣の達人の技術をインストール出来る魔術でも作っておいたほうが良いかもしれない。達人と出会えるかは解らないが…いや?目の前に居るではないか、達人が。多分。今度どの程度戦えるのか聞いてみよう。

早めに対策しなければ現状の戦い方ではいずれ詰むことも理解している、探さなければ、自分の戦い方を。


 その後水辺を探す旅は難なく発見でき終わりを迎える。探査(エクスプロレイション)を応用したのだ。マナを探知する魔術だが、水にもマナが含まれているのであればマナが濃く、流れている場所、若しくは溜まっている場所へ行けば良い。そこには川か池があるだろう。その予想は大当たりで今回は川を発見することが出来た。早速口を洗い汗を流す。ああ、生き返る。アリィが水浴びする間は何処かに言っていろと言われ、寝床に使えそうな枝や倒木を倉庫(インベントリ)に入れながら散策をする。神様と言えど裸を見られるのは嫌なのか、以外だ。全く隠す気無し、という風に堂々としていると思っていた。暫くした後川へ戻る。アリィはもう水浴びを終えたようで、俺の帰りを待っていた。一息ついた所で川を観察する。森を抜ける方向に水が流れていっている。であるならば川沿いに下流側へ歩いていけばいい。探査(エクスプロレイション)で辺りを監視しながら歩くが、なるほど。アリィの言っていた事は確かなようでマナを持った動く生物は無害なものばかりなようだ。所謂草食動物の集まりだ。たまに魔物を発見する事もあったが兎に角今は窒息(サフォケイト)で暗殺していくしか無い、窒息(サフォケイト)で殺した場合魔術のコストから考えると完全に黒字である、これ以上を目指すなら魔術無しで白兵戦になるのだろうが、それは後々。


 道すがらの事である。鹿といえば良いのか、鹿にしか見えない生物が川に水を飲みに来ているのを遠目に発見した。地球の名称で呼べる生物はそう呼ぶことにしようと心に決める。保存食だけではこの先持たないかもと考え窒息(サフォケイト)で仕留める。ナイフを取り出し血抜きを行う。その後鹿を洗い内蔵を抜く。空いた腹に石を詰め川に沈める。多分間に合ったはずだ、後ろでほお、手際が良いな。とアリィが関心しているが手伝ってくれる気配はなかった。普通2,3人でやる作業なのに、酷い話だ。手際に関しては俺に狩猟経験があるわけでも何でも無い、昔義父が狩った猪の解体を少し手伝った事があるだけである。思い出しながらの作業だが、早めに冷やす工程まで持っていったほうが良いと教わったから急いだのだ。教えて貰っても使う機会あるか?と当時は思っていたが、こんな所で役に立つとは思っていなかった。若しかしたら失敗しているかもしれないが、それなら罠を張る時の餌にでも使うとしよう。

ぱんぱん、と手を払いアリィに向き直る。


「冷やさないといけないから今日はここで野宿することにしよう。」

「それは別に良いが、魔術で解体すればいいのではないか?時間短縮になるぞ?」

「アリィ、君達はすぐそうやって便利な手段を何の考えもなく使おうとする。時間とマナの選択になるんだろうから別に悪い事とは言わないが手で出来る作業は出来るだけ手でやる方が良いんだよ。ましてやこの鹿は吸収(ドレイン)でマナ還元するわけじゃあないんだ。血を抜いて洗って内蔵を抜いて冷やして皮を剥いで解体してなんて、そんなごちゃごちゃ細かい設定をした魔術のマナが安いわけないだろう。それだと大赤字じゃあないか。」

「うぅむ、節制する姿勢は認めるが、そんな小さいマナを節約したところで大差無い気もするがなぁ。」

「その大差ない数値のお陰で失敗しました、なんて事になりたくないだけだ。アリィが言うことも解る、ただ使っても問題ないと自分で確信出来るまでは極力消費を抑える。無論、俺一人が節制した所でこの世界に住んでいる生物が浪費してたら何の意味もないってのもちゃんと理解してる。これは俺のただの我儘なんだよ。」

「まあ、それなら別に構わんが命を損なわん程度にしてくれな?」


ああ、解ってるよと返事をし。野宿の準備を終える。今回の野宿は川辺だから、先程集めておいた倒木や枝を使って簡単な寝床を2つ作る。強い風が吹けば吹き飛ぶ様なレベルだが、幸い川から少し離れた所に無風の位置を発見することが出来た。

 アリィにそろそろ始めようかと誘われた剣の修練は、まず振り方を教わった、昔高校の授業でやった剣道とは随分違うものだと関心しながら教わる。暫くは素振りをしろと言われ振り続ける。これは筋トレしないと筋肉痛が来てまずいな、と冷や汗が流れる。その日からは朝晩に筋トレと素振りを行う事にした。

修練後、半日ほど冷やした鹿の皮を剥いで、解体しご飯を作る。香辛料はないが塩はある。簡単にもも肉をステーキにし、切り分けて食べる。うん、うん。と何度も頷きながら食べるアリィ。うん、肉だ。肉だなぁと感動する。いや、保存食も肉だったんだがやはり新鮮な肉も良い。

感動も相まって二人してガツガツと一気に食べてしまいふぅ、と満足する。その後川で洗えず溜まっていた食器を洗い、その日は寝る事にした。

 寝る前に要と少し連絡を取ろうと思い預かった通信機でコールする。要が応答し、2日ほどの経過報告を聞く。どうやらもう昨日の内に街にたどり着いたそうだ、向かった方角からしてどうやら俺達と真反対だと推察できる。魔術の乱用を怒られると思っていたのか少しビクビクしていたが、何も咎めることはないと伝えると、魔術であんなことしたこんなことしたと話してくれた。自分に子供が居るからだろうか、どうも要に対して甘くなってしまう。要がこの世界で充実した生活を出来ているならば重畳。彼女はまだ若い、変に責任だの何だのと言うのは容易いがそれでは窮屈な生活を強いることになる。要は要のやり方で生きて欲しい、この仕事の責任だの何だのは大人である俺が背負えばいいのだ。帰りたくないと願っていたのだ、共に過ごした短い時間でも楽しそうに目を輝かせながら過ごしていたのは解っている。ならこの世界で地盤を形成出来るよう、見守ってやろう。

興奮した様子の要の話を聞いてやり、時々相槌を打つ。フィーレの「そろそろ寝ないさいな」と言う声に「はーい」と返事を返している。完全に親子だなと少し笑う。じゃあまた今度、何かあったら連絡して!と言う言葉を聞き通信を終える。少しのつもりが随分話してしまっていたようだ、辺りはすっかり暗くなり、アリィは既に眠っていた。

昨日と同じ様に遮断(シャットアウト)を張り、自分も早く寝ようと寝床に入る。寝心地は良いとは言えないが、少なくとも寝心地が良かったとしても眠りは浅い。繁忙期に会社の床や椅子で寝ていた事を考えれば何も問題ない。


 翌日から川沿いに進むことに専念し、道中魔物の気配があれば都度狩るという生活の繰り返し。

5日目にしてようやく森を抜けることができた。さて、これからどうしようかと話をし、このまま川沿いに下って行けば港町があるはずだとアリィが教える。ならそこに行くとしよう、と川沿いに歩く。途中で川が合流している箇所にぶつかり、その辺りからは街道が敷かれていた。石造りで随分しっかりした作りだ。道行く馬車に追い抜かれながら歩く。途中、乗っていくかい?と声を掛けられたが急ぎじゃないから構わないと断ったりもしながら魔物を探しつつ進む。街道沿いに小さな補給地点の様な場所が点在しており、人が集まり集落の様になっていた。今日は此処までにしようかと、アリィに告げる。アリィはああ、構わないぞと返事を返す。智也が汗をかいているのに対し、アリィは汗一つかかず涼し気なもので、きっと智也に合わせて歩いてくれているのだろうと言うことは容易に想像できた。やれやれ、デスクワーク一辺倒な生活から考えると最近は歩いて筋トレして素振りをしてと動き過ぎだと智也は独り言ちる。倒木を少し整えた程度の椅子に2人で腰掛け休憩していると、目の前に一人の赤い髪をした少女が近づいてきていた。


「やあやあ、そこなお二人さん。ちょいといい話があるんだが聞いていかないかい?」


と陽気に話しかけてくる。


アリィは若干驚いた顔をして耳を傾けようとしているが、無論智也が感じた少女の第一印象は言うまでもなく「胡散臭ぇ。」であった。

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