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終末世界の異世界転移者  作者: はなや
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06話

「智也?どうした、大丈夫か?」


少しばかり長い時間思考に耽っている智也に対し、アリィは心配そうな顔をし智也の顔を覗き込んでいた。

この青年、智也はしばしばこうやって思考に耽る事がある。顎に手を当て目線は若干虚ろ、こうなってしまっては基本的に聞く耳持たずで、ある程度の結論が出るまではテコでも動かない。アリィは何度も見た光景に、またかと呆れ顔。

話の途中でもぶった切るかのようにこうやって静止するのだ。

パチ、パチと薪が燃える音、空には星々とそれを束ねるかのような月。いい夜だ、いい夜だと言うのに智也はこうして考え事をしている。やれやれと小さく笑いアリィは智也を眺める。


 思慮深いというのは良いことだが、いくら何でも度が過ぎる。流石にこの状態の智也に慣れてきはしたものの、初めて目にした時は驚いたものだ。アーガスに既存する魔術を教えていた時、突如今と同じ様に静止したのだ。要とフィーレの3人で何度も声を掛けても揺るがない。ふむ、と声を出しやっと動き出した時には要がは焦りすぎて涙ぐんでいたし、フィーレは何か変な魔術を作って発動させたのではと解析していた。私はというと、正直困惑しすぎてフリーズしてしまった。こんな人間を見るのは初めてだった。それからも何かに付けて思考と質問を繰り返され随分困らされたものだ。

戦いの最中にこうなられては困るんだがなぁと溜息一つ。

それにしても今回はえらく長いものだ、何か引っかかる事があったのだろうか。もしやさっきの会話での人族の立場で戦うというのが嫌なのだろうか。それとも何か違和感があったのだろうか。

智也は私達を信用出来ないと言っていた。それも仕方がない、急に召喚した私達が悪い。智也はそれほど多くは語らない、特に何かの確信に迫るような事は意図的に避けて語ろうとしない。私は、君が思っている以上に君のことを買っているんだがなぁ。

ピクッピクッと瞼が動く、そろそろ結論が出そうな時の前兆だ。流石にこれまで何度も見せられたのだからこのくらいの見分けはつく。さて、今回は何も話してくれなさそうな気がする。


「うーん、なるほど。」

「考え事は終わったか?」

「ああ、終わったよ。大丈夫。人族の立場で戦う、だよな?」

「そうだ、何か問題はあるか?」

「いや、何も問題ないよ。さて、アリィの言う話だと亜人族も魔物として討伐しないといけなくなるのか?」

「その必要はない、魔王を討伐さえすればいいのだから。魔王に与するもののみを対象としてくれればいい。」

ふむ、と智也は一応の理解を示す。

「なら後は明日にして、今日はやることをやって寝てしまおう。」

「やること?何をするんだ?」

「呪文書の改造。」

「は?」

こいつは何を言っているんだという顔をしてみせるアリィ

「どうした、そんな素っ頓狂な顔をして。今まで使った感じからして少々使いにくいところがあるんだ、だから俺の使い勝手が良いように改造する。」

「しかし、そんな事出来るわけが…」

「出来る、というか改造する魔術を作った時、宝玉に打ち消されなかったんだ。」


…やはり、この青年は侮れない。私の叡智の結晶である呪文書を与えられて、自分にとって使い勝手が良くないからと言って普通改造しようと思うだろうか。そして実際に今改造している、与えた私の目の前で。しかし私には不思議と不快感は無い、智也がこれから何をしていくのか興味深い。やはり私が見込んだだけはある。作業の邪魔になりそうだと思い先に休むことにする。そうだな、明日になったら結果を聞くとしよう。きっと、また私の予想を上回る物が出来上がっているだろう。やはり、君を選んで良かったよ。ああ、そうだ。明日からでも君を鍛えることにしよう、流石に君をこのまま失うのは本意ではない。短い時間しか無いが一介の剣士以上には育てて見せよう。



 アリィが寝床に入ったことを確認すると、さて、と一息つき本格的に改造を始める。

まず魔術の枠に関しては10枠でいい、ただそれとは別に常時発動パッシブの枠を作りたかったのだ。しかし、呪文書を改造する魔術が、肯定されたというのは少し驚いた。あと、もう一つ。宝玉と呪文書の切り離し。これに関しても何故か肯定された。俺のこの行為が世界にとっていい方向に向くと判断されたのだろうか。この宝玉は、誰かの意思に沿った物ではなく、ただただ機械的に世界への影響を判定していると考えるべきだな。であるならば、ある種この宝玉が一番信用できるということになる。この宝玉がどこまでの未来を見据えて判定しているのかは解らない。だが皮肉にも何の意思も持たない判断装置が一番信用できるとは…


数分もしない内に切り離しと常時発動パッシブの枠を作ることが出来た。

さて、常時発動パッシブ枠に入れる魔術を作ろう。取り敢えず常時発動させるのだからマナの消費量を極力抑えないといけない、とすると限定的な能力にする必要があるな。まずは索敵のマナの感知、これは作らなければ。今日の道中で身を持って解った、危険の心配をしながら闊歩するストレスを。名前は探査エクスプロレイションとしようか。そして、要が作っていた倉庫インベントリ。要から情報を貰っていたからそれを元に作成する。これで少しはマシな物を食べられるだろうし、荷物を持ち歩く必要もなくなる。後は常時少量のマナを宝玉に蓄積する魔術、瞑想メディテーション、これで常時発動パッシブの影響を少しでも抑えられるだろう。次に観測オブザベーション、世界のマナ総数や誰かが行使した魔術のマナ消費量が観測できる、効率の良さそうな魔術があったらコピーしても良いかもしれない。さて、最後。ブックマークと名付けた。これは単純に10個の魔術を登録しておいて、セットとして魔術枠の入れ替えを行える。平たく言うと魔術のフォルダ分けのようなものだ。一先ずはこれで揃った、後はまた新しい魔術が必要になれば随時追加していこう。


ああ、疲れた。と智也は一息つく。そろそろ寝ないと明日に差し支えると考え遮断シャットアウトを寝床全体に広げ行使する。寝床へ移動しアリィが寝ていることを確認。アリィとの対象位置に腰をおろし座ったまま目を閉じる。

少しばかり郷愁の念に駆られつつ眠気が徐々に強くなっていく、そういえば、ああ、要に連絡してなかったな。彼女は大丈夫だろうか?ちゃんと休めているだろうか。そう思いながら、意識を手放す。


~~~~~~~~~~


智也が森人狼フォレガルムと会敵している頃、ザザッ、ザッ!と高速で森を走りながら飛び回る少女が一人。

結城要は、加速アクセラレーション跳躍リープを行使し早く走り少し助走をつけて跳ぶ、という行為を繰り返しながら進んでいた。高さ30mは跳んでいるだろうか、木の高さを優に超え、森の全容を完璧ではないが把握できる。跳びながら森を観察し端点を探す。一番短い距離で走破出来る方向を探し進む。夕方には森を抜けられるかな?と考えながら。

初めから空を飛べば良かったのではないかと言われるかもしれない、しかし要は駆ける、無性に体を動かしたかったのだ。元々運動が好きな方で、特に走ることが好きだった。走りたい、動きたい。そんな有り余った自分のエネルギーを使い果たすことが目的であるかのように、ただ何かを発散するかのように疾走る、跳ぶ。

智也がみたら怒るかもしれない、しかし要は智也程忍耐強くもなければ計算も出来ない。ならば私のやり方で。そう考え取り敢えずこの世界を満喫しようと考えたのだ。満喫と言っても観光やスイーツ巡りなんて事で遊ぶつもりはない、今体験している地球ではない世界で使える魔術、これの恩恵をただ満喫したかったのだ。

あれ程焦がれ、転生、転移。数多の作品を読みふけり、恥ずかしながらもし私が異世界に行ったらこんな事をする、と色々妄想したこともあった。この世界における現在私を取り巻く環境は、それを成し得るのだ。言い方は悪いかもしれないが、智也という所謂大人の「保護者」の目が離れたのだ、少し位羽目を外したい。自分は智也程この状況を悲観的には捉えていない、だから楽しむのだ。今一時、この世界を楽しみたい。そう考えると、発散したい等と言い訳をしていた自分の僅かな理性を払いのけるかのように、自分の底から湧き上がってくる感情は、表情を制御するという事を拒否し、笑い声を止めることすらしない。要は大笑いしながら目を輝かせ空へ舞い上がる。高揚感から地面を踏み込む足の力が強くなり、より遠く、より高く、要は飛び上がる。森の端が見えてきた、テンションが上がりきったお陰で夕方よりは早く出ることが出来た。後少しと疾走る、

 ハッ、ハッ、と上がった息を落ち着ける為に、膝に手を置き呼吸する。

はぁー、と大きく息を吐き、腕で額の汗を拭い、体を起こし顔を上げる。目の前には大きく広がる草原、そして森を迂回するように伸びた街道が少し遠くに見えた。ここからだとまだ街は見えないなと要は考えていた。一先ず魔術を解除して、そういえばフィーレは何処だろうとキョロキョロ辺りを見渡していると

「ああ、やっと追いつきました」とフィーレが着地してきた。

どうやら途中から要の速度に追いつくことが出来なくなり、空を飛んで追いかけたようだ。これは悪いことをしてしまったと反省し、謝る。取り敢えず街道を歩きながらどこまで行くか決めようかと、2人は話しながら進む。この先は人間が多く住む小さな街が見えてくるはずだと、フィーレ。夕方までに街が見えなかったらもう一回走ろうと思いながら、見渡しの良い草原を歩く。この辺りはまだ開拓されていないようで、細い街道がただただ横たわっていて、遠くには野生の馬らしき動物の集団が草原を駆けていた。そうだ、馬に乗るのも良いかもしれないなと思い風景を見渡しながら歩く。

ふと隣を見上げると、フィーレと目が合う。微笑みかけられ、少し恥ずかしくなる。アリィもそうだったけどもしかしたらこの世界の女性は背が高いのかもしれない、ずるいなぁと思う。4人でいる時は私だけ子供みたいに見えるからすこし嫌。

そんな少しだけ拗ねてしまう所が自分の悪いところだと理解しているが、どうもこういう性分は矯正出来ないみたいで度々拗ねてしまう事がある。要はそんな自分を打ち消すかのようにパシッっと頬を叩き、髪を後ろで結き

「人通りも無いし、もう一回走ろっか!」

とフィーレに声を掛ける。ええ、いいですよ。とフィーレが返してくれたのと同時にもう一度加速(アクセラレーション)跳躍リープを行使し駆ける。


夕暮れが街を照らして何処と無くまるで絵画の世界に来たようだと、その風景に惚れ惚れしつつ街の近くに到着した、さて、と魔術を解除し街に近づく。あれ?と首をかしげる要。フィーレにどうしたの?と聞かれ答える。門番さんって居ないの?と。今まで読んだ小説では必ず初めに着いた街に到着したらそこで身分証を作る流れになるはずなのだ。まあ良しとしよう、何もかもテンプレ通りに進むのも味気ないしと気を取り直し街の中に入る。小さい街なだけあって少し活気には欠けるがこれはこれで長閑な感じで好みだ。道行く鎧を着た女性や、ローブを着た男性が此処が異世界なんだと実感させてくれる。ワクワクする、ここが初めの街なのだ。ここから始まるのだ。


 街に入って暫く歩いた後ハッと気付いた、そういえばお金が無い。

「フィーレ、お金がないよ。」とこそこそフィーレに話しかける。

「あ、そうそう。そうよね、渡すのを忘れていたわ。」

とフィーレは懐に手を入れ、大量に金貨が入った袋を私に渡した。

「ちょっと!駄目だよこんな往来で大金出したら!」

慌てて金貨を倉庫インベントリに入れ周りをキョロキョロ見回す、良かった誰も見ていないようだ。ほっと胸を撫で下ろし、むぅ、とフィーレを少し睨む。

「小声で怒鳴るなんて器用な事するのね。」

全く意に介していないフィーレ、ちょっと危機感なさすぎるんじゃ…あ、そっか。神様だから襲われても軽くいなせるのか。妙に納得してしまった。

「もういいよ、今日泊まるところ探そ?」

「ええ、探すというか。要の後ろにあるのが宿屋よ?」

「おぉ、こんな所にあったのね…あ、フィーレ。銀貨と銅貨も欲しい、金貨が使えない事もあるかも。」

フィーレからお金を受け取り、宿屋に入る。

「いらっしゃい。泊まりかい?」

中年のおじさんが迎えてくれる、恰幅の良い何処かのシェフみたいな人だ。これはご飯期待できそう。

「はい、2人一泊でいくらですか?」

「飯はどうする?」

「食べます。いっぱい」

「フッ、2人なら銀貨2枚だ。二階の一番奥、右側の部屋を使ってくれ。うちは食堂がないから飯は部屋で食ってくれ、出来たら部屋にあるベルが鳴るから取りに来い。」

「はい、解りました。」


ふぅ、緊張した。いつもどおり、初対面の人と喋る時緊張してしまう。

二階の部屋につくと、机とベッドが2つ。後は荷物を入れる棚と、シンプルだけど綺麗な部屋だ。

正直、狭い藁のベッドの様な場所も覚悟していたからこれは良い。

暫くフィーレと話をしながら時間を潰していたらごはんのベルが鳴る、どんなベルかと思っていたら部屋に設置されていた魔術道具だった。

いっぱい、と言った事を汲んでくれたのか、私のご飯だけ二人分位あった。言ってみたものの叶えて貰えると少し気恥ずかしくなる。ありがとうございますとお礼を言ったらカカッと笑って気にするなと手を振ってくれた。部屋に持ち帰りご飯を食べた後明日はどうしようかと考える。お風呂は無いみたいだから今日は体を拭いてすますことにした。

汗いっぱいかいたから、お風呂入りたかったな。明日公衆浴場が無いか探してみよう。

いっぱい走っていっぱいご飯を食べたから少しうとうとしてしまう、そうしているとフィーレにそろそろ寝なさいと諌められる。智也さんに連絡しないと、と言ったが明日で良いと言われた。

ベッドに入り、窓から見える月を眺める。智也さん、今何処にいるのかな。

月明かりに誘われて、ゆったりと眠りにつく。


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