✔ 8.宿屋 3 〜 宿泊室 3 〜
「 八日目 」の始まりです。
マオが両手を挙げて万歳をしたまま仰向けに倒れた為、セロフィートはマオの背後に移動すると身体を支えた。
マオがベッドだと思ったのは、セロフィートだったのだ。
マオはセロフィートの腕の中で、眠りに就いたのである。
マオに熟睡魔法を掛けたセロフィートは、マオの身体を静かにベッドの上へ載せた。
マオが右手で掴んでいるのは、さっき迄観光案内雑誌とにらめっこをしながら考えていた明日のデートプランだった。
どうやら清書とやらも済んで完成したらしい。
セロフィートはマオの手からデートプランの書かれた用紙を拝借した。
セロフィート
「 ──随分と頑張ってくれたみたいですね 」
壁に掛けられている時計を見ると、午前2時を過ぎていた。
セロフィート
「 ──ふぅん?
3時間半も掛けて、此の出来とはね──。
…………30点…。
努力は認めてもいいかな?
もっと “ デート ” とやらを調べてからプランを作ってほしいものだね。
僕には “ デート ” なんて唯の “ ごっこ ” でしかなのに、マオは真っ直ぐで一生懸命だ…。
だからと言って、マオに対する僕の好感度は上がらないけど 」
セロフィートは30点と言う辛口な点数を付けたデートプランの書かれた用紙をヒラヒラと揺らしながら、クスリ…と笑った。
言葉とは裏腹に心無しか嬉しがっている様にも見えなくもない。
セロフィートはデートプランの用紙をテーブルの上に置いた。
テーブルの上には何度も書き直しされながらグシャグシャに丸められた紙屑が置かれている。
観光案内雑誌を何度も捲っていたのだろう、随分とページが折れ曲がっていた。
セロフィートは観光案内雑誌の上に、そっと手を置いた。
セロフィート
「 ……マオの頑張りには敬意を。
“ とっておき ” の御褒美を君にあげるとしよう 」
セロフィートは静かにベッドの上に腰を下ろすと、マオの黒髪を優しく撫でる。
額と頬に軽く唇を付けた後、マオの小さな口から垂れている涎を理想的な宍色の指で優しく拭う。
何も知らずに眠りこけているマオの唇を指で開けると自分の唇を軽く付ける。
人間ならば、息を吹き込むのだが、生憎セロフィートは人形だ。
自分の体内に自動蓄積されている大量の〈 テフ 〉を、口を使ってマオの体内へ吹き込んだ。
何度か〈 テフ 〉を口伝いに吹き込んだ後、マオの唇から自分の唇を離す。
セロフィート
「 ──君は僕の特別だからね。
ほんの少しでも長持ちしてほしい。
今はゆっくりおやすみ、僕だけのマオ── 」
セロフィートはマオの頬を優しく撫ると、ベッドから腰を浮かせて立ち上がる。
壁の時計が午前3時を差し、音を鳴らす頃にはセロフィートの姿は宿泊室の何処にもなかった。




