06
「このあとお茶でもどう? おいしいコーヒー出すところがあるんだけど」
ゼミが終わって、帰ろうとしたらまたこれだよ。昨日も断ったのに。
舌打ちしたいのをこらえて、どう断ろうか考えていたところでスマホに着信がきた。八角さんだ。
私は森くんに断りを入れて電話に出る。
「もしもし。どうかしましたか?」
森くんは興味なさげな風を装っているが、おそらく電話の内容が気になっていることだろう。
『あー、友利さん? 突然すみません、今日どこかで会うことって可能でしょうか。話したいことがあって』
これは好都合。思わず頬が緩んでしまう、スマホに視線を移していた森くんがそれに気付いてまたこっちを見ている。
「大丈夫ですよ! いつにしましょう、そちらがよろしければ今からでも全然平気です」
私の声色に森くんは驚いたような顔をした。
『ありがとう! じゃあ一時間後に、食堂のカフェで待ってるよ』
そう言って八角さんは電話を切った。
「というわけでごめんね、森くん。人と会う用事ができたから」
「そ、そう……また今度ね」
残念そうな雰囲気はあるが、健気な笑顔で答える森くんに、私は少しの罪悪感を覚えながら教室を後にした。
***
「教授、その図書館で司書やっている子に連絡しましたけど……本当に話してもよいのですか?」
「いいのよ、もう企業とか図書館の職員には連絡したし」
というかいつの間にその子の連絡先手に入れたのよと、にやけながら尾形教授はフィルターぎりぎりまで燃えた煙草を据え置きの灰皿で揉み消す。
「幸い企業サイド、大学からはペナルティはないし」
「えっ、それって」
「実証実験というていで片付けるんでしょ、大学側からはわからないなあ、でも企業サイドとなんらかのやり取りはあったのでしょうね」
そしてもしかしたらいくらかお金も動いているのかもね、と彼女は続けた。
僕は口元に笑みを浮かべているが、目は全く笑っていない彼女の顔を視界の端に捉えながら、煙草に火を点ける。そしてこれから自分がどうなってしまうのかとか、友利さんを巻き込んでいいのかとか、そういう不安を煙と共に吐き出した。
「……とりあえず君と、その友利さん? を巻き込んでしまうのは申し訳ないと思っているよ。でも君達だけじゃない。他の人たちも巻き込んでしまっているのよね、私の研究は」
「僕、声に出していました?」
「君はわかりやすいからねえ」
彼女は笑いながら煙草を取り出し、火を点ける。
「そろそろ時間じゃないかな、八角君。女の子は待たせるもんじゃないよ」
時計を見れば、残り五分ほどで約束の時間となるようだ。言われなきゃ気付かなかったかもしれない。僕はまだ半分残っている煙草を灰皿で揉み消して喫煙所を後にした。てい