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あれから30分くらい経っただろうか。二人がビニール袋を両手に提げながら戻ってきた。
「山内さんに八角さん! おかえりなさい。あれをやっつける方法わかりましたか? もちかしてその袋に特別な薬品でも入っているんですか?」
すると八角さんはカウンターの上にビニール袋を置いて、2リットルのペットボトルを四本取り出す。中には透明な液体が入っている。ラベルには富士山麓の天然水と書いてある。
「これは……水……ですよね?」
「うん、水だよ。でも侮ってはいけない。酸性雨の大半を占め、地球温暖化の原因とも言われるし、アメリカ軍では兵器として研究されていて、韓国では実際に暴徒鎮圧に用いられたこともあるんだ」
得意げに八角さんは早口で語りだしたが、いまいちどういうことかわからない。それを察したのか、八角さんは少し赤面して苦笑をした。
「案外通じないのね、これ……」
「私もわかりません。とにかく、あれに対抗するには水が効果的と教えて貰ったので売店で買ってきました」
山内さんもカウンターに水を置く。八角さんが持ってきたより二本多い。
「とりあえず20リットルね。久しぶりにこんなに重いもの持ったよ」
「八角さん非力ですよね。一緒に鍛えましょうよ」
山内さんが八角さんに微笑む。
「うーん、どうしようかなあ……」
八角さんが言葉を濁していると書庫の扉からまた音が聞こえてきた。
「おや、談笑している場合じゃないですね。友利さん、八角さん。作戦を立てましょう」
「作戦……ですか? 水をかけるだけでいいんじゃないんですか?」
「友利さんは突然水かけられたらどうする?」
「ボコボコにします」
「怖いなあ! でもそうなるでしょ。向こうも生きているんだ。抵抗はすると思うよ」
八角さんの言葉になるほどと頷くと、山内さんが黄色と黒のロープを取り出した。
「これで縛るんですか?」
「ええ。そうしないと危険でしょう? とりあえず私が水の入ったペットボトルで殴って動きを止めるので八角さんと友利さんは脚から縛ってください」
うーん、なんだか気が進まないなあ……。私は様子を見てくると伝えて、書庫に繋がる扉の小窓を覗いてみた。
***
「あれ? 獣、寝てません?」
山内さんと黒い獣をどうやっつけるかを話していたところに扉の小窓から書庫を覗きにいった友利さんの声が飛んできた。僕と山内さんは扉に近付いて友利さんがそうしていたように小窓を覗いた。
黒い獣は身体を丸めて横になっていた。顔は真っ黒であるのかないのかわからない。背中から生えている三対の触手も力なくうなだれている。
「寝てるのかな? とりあえず横になっているのは分かるけど」
「もしかしたら何らかの理由で弱っているかもしれませんね。今のうちに拘束だけでもしますか」
山内さんは水入りのペットボトルとロープをカウンターに取りに行った。それを見て友利さんは小さい声で話し始める。
「ねえ、八角さん。あのままあの獣を殺してもいいんでしょうかね?」
「どういうこと?」
「ほら、言うなればあれって事故とはいえ、人間によって生み出されたようなものじゃないですか? それを殺す? のっていかがなものかなと思っちゃって」
友利さんはゆっくりと、言葉を選びながら話す。
「友利さんは優しいんだね」
そう言うと友利さんは少し頬を赤らめた。それに気付かないふりして僕は言葉をつなげる。
「でもね、殺さなきゃいけないと僕は思うな。あれは例えるなら農作物を荒らす害獣だよ。人間たちが培ってきた情報を食べているんだから」
「でも――」
僕は言葉を遮る。
「責任は人間にあるよ? だからこそ、その責任を負う必要がある。だから殺すんだ。友利さん、嫌だったらやめてもらっても構わない。でも、僕と山内さんはやめないよ」




