滑稽
「先生、何で餃子なの?」
俺がホットプレートを机に乗せ、冷蔵庫から白い皿に行儀よく並べられた餃子を取り出すのを見て蓮が怪訝な顔で言った。
「嫌、先週な一人で餃子食べてさ、俺の作る餃子世界一美味いんじゃないかって思って」
「うん」
「で、蓮に食べさせようと思って」
「うん」
「うん、だよ」
「だよって」
蓮が笑う。
まあ確かに滑稽ではある。
もう二十八になる男が十六の彼女に美味いものを食わせようと朝から白菜を茹でているとことか、自分でも一瞬我に返って俺は一体何をやっているのかと自問自答したもんな。
だが、俺は蓮に美味いものを食わせたいのだ。
「蓮は餃子嫌いなの?」
「ううん、大好き」
「それなら良かった。いっぱい食ってくれ」
「うん、私達キスしたりしないもんね」
まだその話なわけ。
何でいつまでもこう不機嫌なんだろう。
「あのさ、蓮さん」
「はい」
「何でそういつまでも不機嫌なわけ?」
「不機嫌?」
「不機嫌。棘がある」
「取りあえず餃子焼かない?」
「焼くか?」
「じゃあ、ホットプレート温めて」
「うん」
裏に焼き色が付いたのでお湯をぶっかけると蓮が驚いた顔をした。
「水じゃなくてお湯なの?」
「家はお湯だったな」
「家のお母さん水入れてた」
「どっちでもいいんじゃないのか。蒸し焼きにするだけなんだから」
「美味しそう」
「美味いって、ご飯も炊いてある」
「何でこんなに接待してくれるの?」
「接待って」
「じゃあ、何でこんなに歓待してくれるの?」
「グレードアップしたな」
「優待、期待、招待」
「合ってるよ」
「他になんかあったっけ?」
「待の付く漢字か?待遇、待望、待機」
「あっ、あった。待伏」
「待合」
「うーん」
「待避」
「うー」
「待命」
「えーと」
「待賢門の戦い」
「そんなのあるの?」
「ある。よし焼けたな。皮が透明だ。蓮ご飯よそって来て」
「うん」
台所に行った蓮が先生と叫ぶ。
そんな大きな声出さなくても聞こえている。
「これっ」
蓮が桜の絵の描かれたお茶碗を手に戻ってくる。
「飯は?」
「これ、私のだよね?」
「うん」
「先生買ってくれたの?」
「いるだろ?お茶碗、湯飲みもあるぞ」
「うん」
蓮は魂が半分抜けたような顔をしている。
美少女だから、かえって凄みすら感じる。
「食おうよ、餃子あっついうちに」
「うん」
「飯よそって」
「うん」
ああ、泣くのかな。
お茶碗くらいで、泣かんでも。
「先生」
「ん?」
「機嫌直すね」
「ああ、そうしてくれ」
蓮が緑色のウィッグを取る。
久しく見ていなかった気さえする美しい調和のとれた黒に、これからこの美しい生き物と共に食すのが餃子というのは何というか自然界に申し訳なく、昨日の浮かれた自分を全力で呪わなければと思った。




