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ラブコメのライセンス  作者: 青木りよこ
33/40

口説いて

蓮はまた俺から顔を背けた。

今日はずっとこんな調子だろうか。

俺は野球をやったことはないが、マウンドにいるピッチャーに延々と首を振られるキャッチャーみたいな気分だが、まあ悪くはない。


「蓮」

「蓮じゃありません」

「蓮じゃなかったら何なの?」

「小鳥ちゃん」

「は?」

「梅野小鳥ちゃん」

「それ名前?」

「うん」

「そっか、小鳥ちゃんっていうんだ」

「うん。だから先生口説いて」

「は?」

「先生は私につれない態度取られてるの。でも諦めてないの」

「何その設定?」

「先生は私に片思いなの。私の気を引きたくて必死なの。はい」

「はいって、えっとお前は神谷蓮じゃないのな?」

「うん。梅野小鳥ちゃん。親密度上がったらメインストーリーが解放されるから頑張って」

「乙女ゲームか」

「先生乙女ゲームするの?」

「しないけど」

「恥ずかしいゲームは?」

「静止画はあんまり」

「先生、梅野小鳥ちゃん攻略して」

「先生って俺は二十八歳高校教師っていうダサい設定のまんまなの?」

「どんな設定がいいの?」

「賢者とか」


蓮が振り返り俺をじっと見据える。

親密度が上がったのだろうか。


「何で先生だけいきなりファンタジーなの?」

「いきなりファンタジーって」

「設定は先生の好きにしていいよ。兎に角私を口説いてみせてよ」

「何で?」


蓮は再びぷいっと俺から顔を背ける。

親密度が下がったのだろう。


「先生に私口説かれてない」

「は?」

「私一生懸命先生口説いた。先生私のこと受け入れてくれたけど、私のこと先生は攻略してない」

「あー」

「わかった?」

「まあ、言いたいことはな」

「私先生に攻略されたい。私の好感度上げて。おっぱい見せてあげるから」

「見せんでいいよ。まあ、えっと、取りあえずどうしろと?」

「先生今まで彼女いたんでしょ?どうやって口説き落としたの?」

「何もしてない、よ。あのな、蓮」

「小鳥ちゃん」

「小鳥ちゃん、あのな、意外とな彼女って何もしなくてもできたりするもんだよ。結構」

「何それ?」


お、振り向いた。

でも明らかに好感度は上がってなさそうだ。


「だから、何にもしなくても彼女ってできたりするの。漫画みたいにな、思い詰めて思い詰めて、すれ違ってとかいう過程を得なくても、嫌ほとんど得てないんだよ。そんな皆劇的に生きてないから、な?」

「な?じゃないよ。うーん、先生私に好かれようとしたことないでしょ?もっと私に媚びて。先生の媚態が見たい」

「二十八の高校教師に言うことそれか、どうしろと?」

「私に好かれようとして」

「好かれようとって、今好きじゃないわけ?」

「好きじゃありません。でも今初心者ボーナスで親密度三十あげます」

「どれだけ貯めたらストーリー解放なわけ?」

「百」

「すぐ貯まるんじゃない?」

「どうでしょう?」

「わかった。頑張るよ」

「うん。頑張って」

「じゃあ、小鳥ちゃん」

「最初から名前で呼ぶの図々しくない?」

「厳しいな」

「初対面から始めましょう」

「初対面?」

「初めましてから」

「長くない?今日中に終わんの?これ」

「先生次第です」

「何そのカッコいいセリフ」

「はーやーくー」


俺の乙女ゲームの知識は何かイケメンがどっちかっていうと卑屈なこと言ってプレイヤーにそんなこ

とないよとひたすら構ってもらうってやつなのだが、そういうのでいいのだろうか。

俺は取りあえず立ち上がり狭い部屋を歩いてみる。


「すみません」

「はい。何でしょうか?」

「お隣に座ってもよろしいでしょうか?」

「どうぞ」


わからん。

こっからどうしろと。

そもそも初対面の女子の隣に座るって発想がない。

電車ならいいか。


「蓮」

「小鳥ちゃん」

「あのな、ここ電車でいいか?」

「え?」

「電車じゃないとな、何で隣に座ったのかよくわからん」

「席が空いてたからじゃないの?」

「空いてても俺ベンチとか座んねえもん」

「じゃあ電車でいいよ」

「でも待てよ。電車なら隣に座んないな。俺窓際座るから向かいになるわ」

「向かいは空いてなかったんだよ。だから隣なの」

「じゃあ、その設定で」

「うん。じゃあスタート」


「なあ、蓮」

「何ですか?」

「電車で初対面の人に声かけるなんて俺無理なんだけど」

「電車じゃなくても無理でしょ?」

「無理」

「先生ナンパってしたことない?」

「あるわけないだろ。そんなキャラか」

「あるわけないよね。そんな先生が好き」

「もう百なった?」

「私は最初から百だもん。今は小鳥ちゃん」

「小鳥ちゃんは高校生なの?」

「じゃあ大学生で」

「なあ、初対面ハードル高すぎ。知り合いにしてくれ。顔見知り、知り合いの知り合いくらい」

「顔見知りの犯行とみられ」

「殺人事件に発展するのかよ。平和に行こう、な?」

「じゃあ知り合いで」

「えーっと、梅野さん?」

「はい」

「梅野小鳥ってどういう字書くの?」

「梅干しの梅に野原の野に小さな鳥」

「そっか」

「貴方は?」

「貴方って・・・」

「日本で一番多い名字の佐藤に玲瓏の玲」

「綺麗な名前ですね」

「そうですか」

「綺麗です」

「そうですね。俺には勿体ない名前です」

「貴方は綺麗ですよ」

「そうですか?そんなこと初めて言われました。っておかしくないか?俺の方がヒロインみたいなんだけど」

「うん。私もそう思う」

「じゃなくて、なあもうよくない?」

「よくない。まだ全然口説かれてない。攻略されてない」

「こんな隣に座って喋るだけで親密度どう上がんの?」

「わかんない」

「ロールケーキでも食べませんか?」

「え?」

「買ってあるんだけど。まあスーパーのだけどな」

「生クリームたっぷり?」

「ああ」

「うーん」

「もういいだろ?それに俺早く蓮ちゃんと遊びたいなー」

「それ先生のおもねり?」

「そうだよ。二十八のオッサンのへつらいだよ。気持ち悪いだろ。な?」

「うーん」

「うーんって、まだすんの?」

「まだ何にもしてないよ。名前聞いただけじゃない」

「確かに」

「でももうこれ以上進展しないのはわかった。先生自分から絶対行ったりしないんだね」

「そうだな」

「そのお顔と身長に感謝だね。もう先生の身長百七十センチ縮んだらいいのにー」

「お前より小さくなるだろ。それでいいわけ?」

「いいよ。そうしたらおっぱいに挟んで連れて帰るもん」

「怖え」

「普通喜ばない?彼女のおっぱいだよ。しかもGカップ」

「挟まれるってのが怖い。あと縮むのも怖い」

「えー、私そうなったら嬉しすぎて、私の小指についたお米一生懸命食べる先生とか見たい」

「怖えって」

「お水どうやって飲まそうかなー」

「水分補給は大事だな。あと米だけじゃ栄養が偏る。野菜も食べさせてくれ」

「うん。勿論。大きく育てるからね」

「育つの?」

「大きくならなかったら私達結婚できないじゃない?」

「結末は結婚なんだな」

「ハッピーエンドはそういうものでしょう?」

「そうだな。一寸法師も打ち出の小槌で大きくなって結婚するしな」

「親指姫はそのままだったっけ?」

「親指姫は大きくならないだろ。だって確か花の国の王子様と結婚するんだろ」

「そうだったっけ?」

「よし、もういいな?」

「うん。先生抱っこ」

「は?」

「お姫様抱っこしてくれるって言ってたでしょ?抱っこ」

「お前よく覚えてるね」

「先週部活でできなかったもん。ご機嫌取りたいでしょ?親密度一気に百上がるよ」

「雑」

「いいのー。抱っこ」

「はいはい」


俺は生まれて初めてお姫様抱っこと言うものをしてみたが、意外と恥ずかしくもなんともないと気づいた。

ああ、そうか。

お姫様抱っこという日本語が恥ずかしくさせているだけで、実際は対象者を抱えて運ぶだけだもんな。


「どうですか?蓮さん」

「いいですね。行き先がベッドとかじゃなくって台所ってのがまたいいですね」


何だ、その口調。

結局恥ずかしいんだろうな。

俺の首に手を廻すこともできないんだから。

まあそういうところが堪らなく可愛いんだけど。


「そうですか」

「でもときめきます」

「そうですか」

「では、ロールケーキをいただきましょう」


笑うのをこらえるのに必死だ。

まったく心臓がやたらと喚く。

ああ、そうだ、二週間長かったな。


「いただきましょう」
















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