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ラブコメのライセンス  作者: 青木りよこ
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暇だ。

せっかくの日曜日で仕事も昨日頑張って片付けたというのに、今週の蓮は日曜も部活のため家に来ない。

まあ、自転車を走らせたら学校はすぐだし、会いに行けるといえば簡単に行ける距離なのだが、文芸部の顧問の俺が日曜日に体育館をウロチョロしてたらおかしいだろう。

おかしい。

中学生か。

付き合ってる女の子に休みの日一目でも会いたいなんてどうかしてる。

三十前の男が何やってるんだか。

やめた。

ゲームしよう。

ソファに寝そべりスマホを手にしてみたが、時間がいくらでもあるというのに、ゲームをする気が起きない。

取りあえず残っている採点をしてから考えよう。


蓮は部活は午前中に終わるわけだが、友達もいるしそのまま帰るだろう。

体育祭で走っている姿を見たことはあるが、蓮と運動部ってのが俺の中で上手く結びつかない。

それもバドミントン。

中学からやってたということはそこそこ上手いのだろうか。

蓮が話さないので俺も聞かないが蓮には蓮の生活があるんだよな。

そのほとんどを本当の所俺は知らないわけだ。

何言ってるんだ。

何かこう痛い。

結局蓮のことばかり考えている。

恋をするには俺はもう遅すぎるはずなのに。

しかも相手が十一も年下とか、改めて恥ずかしい。


蓮がいない日の方が俺にとっては当たり前だったはずなのに、蓮が来ないだけでもう日曜日なんていらないんじゃないかと思える。

取りあえず本を読もうと近くにあった伊勢物語をパラパラとめくってみるが、昔と違い女のことばかり考えおってと言うこともできない。

現在の俺が正にこの状態だからだ。

まあ、貴方に逢えるなら死んでもいいとまでは思い詰めていないし、陰陽師の力を借りようとも思わない。

明日学校で普通に会えるし。

しかし、ハーレム物のラブコメ主人公の方が俺より幾分ましだろうな。

少なくとも彼らは学校に行き授業を聞いて部活に勤しんでいるし、ファンタジーものなら一生懸命何かと戦っている。

俺の様に四六時中付き合っている大分年下の女子のことを考えていたりしない。

それもたった一人を一途に思い詰めてるとか、俺怖い。

蓮が同い年ならそんなこと思わないだろうか。

嫌、この場合蓮の年は関係ないな。

蓮が三十だろうが四十だろうが俺はどうせ蓮のこと考えているだろうし。

恋とはとんでもなく厄介だ。

年取ってからは特に。

こじらせ方が違う。

これが片恋なら余計だろうな。

授業で蓮のクラスに行くたびに嬉しくなったり、先生さようならとか言われるたびに廊下でときめく眼鏡教師。

想像するだけでぞっとする。

実際そんな同僚いたら後ろから蹴り飛ばしたい。

もう考えるのやめよ。

ゲームしよう。

青空の果てに飛び込もう。

あの世界には今蓮はいない。

伊勢物語には蓮がいるんだよな。

授業でやった芥川。

鬼に食べられてしまう可哀想なヒロイン。


「先生、私が鬼に食べられたら、先生悲しいだろうから一緒に食べられてね。鬼のお腹の中で仲良く暮そう」


確かそんなことを言っていたな。

はいはいと適当に返事していたが、確かに一人で残されて思い出の中の蓮と生きていくのはもう無理らしい。

昼飯にしよう。

といっても自分のために何も作る気しないだろうから昨日買っといたコンビニのドーナツと豆乳で済ませる。

気が付けばソファの端に座っている。

空席を埋めてほしいのはたった一人だ。

すぐに思い出せる顔は余りにも可愛くて思わず和み、そんな自分に乾いた失笑が漏れる。

伊勢物語に戻ると小野小町が出てきたので、彼女の歌を思い出し、蓮には夢から覚めても会えるし、起きていたらいくらでも会えると気づく。

夢を頼みにしなくてもいいのは有り難い。

駄目だ。

何をしてても結局蓮なんだ。

蓮のことが頭から離れない。

これがはまるということか。

何んという中毒。

今までしてこなかった罰か。

それにしては楽しいな。

蓮のことは名前を思い浮かべるだけで清らかな水で心についた泥を落とされていくような心持がする。

その名前が美しいのと、その名を持つ彼女がこの世のあらゆるものより美しいと知っているからだ。

駄目だ。

やはり暇はいけない。

働こうと思い源氏物語を開く。

光源氏の正妻葵の上が六畳の御息所の生霊に苦しめられる場面だが、俺は遂、蓮が生霊になったら可愛いし、今だったら嬉しいだろうなと思い、自分の発想の貧しさに絶望し、ソファに横になったが広いソファの違和感がいつまで拭えず、本を持ちベッドに移動した。

いつの間にか眠っていたらしく夜になっていたが、もう夕飯を食って風呂に入って寝たら明日になるのだと思うと心底嬉しかった。

割と学校で会う蓮の方が大人びてたりして時々驚くことがある。

多分何も話さないからだろう。

俺達は目ですら会話しない。

互いに知らん顔を繰り返す。

こんな甘美が罰などであろうはずがない。

誰にも言えないこと、それこそが恐らく今もなお人間を魅了し続ける恋という病にも似た感情なのだろう。

だって人間は自分だけじゃ飽き足らず、実在するしないに関わらず他人の恋路まで見守ってきたのだ。

千年以上の長きにわたり延々と。





















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