お昼寝
「先生お腹いっぱいになったでしょ?お昼寝しよ。おっぱい枕してあげる」
「先生は普通に綿でできた枕がいいです」
「綿より柔らかいよ」
「人の身体はそんなに柔らかいもんでもない。あと成人男性の頭重いぞ。圧死する」
「しないよー」
「ゾンビ二本目見よう」
「もうゾンビはいいよ。お腹いっぱい。先生と寝たい」
「さっき寝っ転がっただろ」
「あれは心中ごっこでしょ」
「心中ごっこだったのか」
「今から普通に寝るの。ぐっすりと二人並んで」
「嫌寝たいなら寝てていいよ。帰る時間になったら起こすから」
「先生は寝ないの?」
「別に眠くない」
「先生、私が寝てたら一人で何するの?」
「別に何も」
「先生疲れてるでしょ?寝足りないからだよ」
「嫌、結構寝たし」
「寝ようよう。睡眠は一番いい疲労回復なんだよ」
「そうなのか?」
「そう。私が添い寝してあげるから」
添い寝したいんだな。
言い出したら聞かないんだからもう言う通りにすることにする。
とんでもないこと言いだされるよりずっとマシだし、確かに腹はいっぱいで、気持ちのいい午後の日差しと身体を締め付けない一番楽な格好であるスウェット姿と眠くなる条件はこれでもかと言うほど揃っている。
蓮だってその一部だ。
美しさと言うものは唯それだけで、夢へ誘ってくれる存在なのだ。
「はい、先生横になって」
「はいはい」
「もっと喜んで。青い髪にしようか?」
「何で?」
「ファンタジー色を出そうかと」
「嫌、いいよ、そのままのほうがいい。青い髪とか落ち着かんわ」
「さっ。先生」
「ああ」
俺は素直にベッドに身を投げ出す。
蓮は手術台にいる患者を前に下執刀医の様に俺を見下ろす。
「いい眺めですね」
お前が言うの?
何考えてるかわからん。
寝っ転がってるの三十近いオッサンだぞ。
それもダサい量販店で売ってるスウェット姿の。
「寝ないの?」
「どうしようかなって。このまま先生見てても楽しいなって」
「楽しいの?お前わけわからんわ」
「そうですか?」
「うん。本当にわからん」
「先生私が寝てるの見てても楽しいでしょ?」
「楽しいよ」
「それと一緒ですよ」
「一緒じゃないよ。お前は美少女だもん」
「先生、だもんって」
「嫌ホントそうだし」
何だろ。
いつも一人で寝てるのに何でベッド広いなって思ってるんだろ。
ああ、嫌だな。
やっぱり過度な接触は固く禁じなくてはならない。
飢えが絶対酷くなるから。
知らなければ、何も欲しがることないんだから。
「先生」
「んー?」
「やっぱり詰めて。一緒に寝る」
「おー」
蓮が俺の隣に横になる。
壁際に追い込まれた俺は必然的に逃げ場をなくす。
「じゃあ、寝ましょう。おやすみなさい」
「おやすみ」
俺は眼鏡を外し、蓮にベッドのすぐ傍の机に置いてくれるよう頼み目を閉じる。
「蓮」
「はい」
「机の上に目覚まし時計あるだろ。取ってくれ」
「目覚まし?何のために?」
「本気で寝ちゃったら帰る時間過ぎちゃうかもしれないだろ。多分この分だと気持ち良くて本気で寝る」
「はーい」
蓮が目覚ましを机に戻し、掛け布団をかける。
「寒いか?」
「寒くないですけど、寝るならかけとこうかなって」
「そう」
俺はもう思考回路が大分鈍くなっていたと思う。
ほんの数分前に過度な接触の禁止を自分に課したはずだったのに、このざまだ。
布団か。
これが世話物なら後の悲劇につながるが、俺達には何も起こらないし、ヒロインに横恋慕する第三者が目撃者として証言したりもしない。
俺達のことは俺達しか知らない。
本当に唯二人で、穏やかに寄り添いながら何も言わず眠った。
蓮が春はあけぼのと言ったりしていた気がするが、それが隣に眠る蓮が言ったのか、夢の中の蓮が言ったのかはわからなかった。




