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ラブコメのライセンス  作者: 青木りよこ
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「先生、眠くない?」

「眠くない」


テレビではいつの間にかお笑い芸人達は寺から移動してしまっていて、団子を食べている。

三本入りでしかもでかい、美味そうだ。

しかも四百円、安い。


「私眠い。先生と川の字なって寝たい」

「俺とお前じゃ川の字できないだろ。お前いつも唐突だね」

「横になって寝るだけ、ね?」


蓮は立ち上がりベッドに移動して横になった。


「先生、早く―」


俺は重い腰を上げる。

無駄な抵抗をしたって、結局最後には蓮の言うとおりにするしかないのだ。

惚れた弱みというか、年齢差と、不自由させている負い目というか。

にっこりと微笑んだ蓮の隣に横になってみる。

拙い。

余りにも距離が取れない。

俺はたまらなくなり蓮との間に白い枕を置いてみる。


「先生、何してるの?」

「嫌、川の字にしないと」

「そっかー、じゃあ、梅ちゃんだね」

「は?」


蓮は白い枕をまるで赤ん坊の頭を撫でる様にさすり、梅ちゃんと命を吹き込む様に呼びかける。


「赤ちゃんの名前、お花の名前がいいって言ったでしょう?」

「だから梅ちゃん?」

「うん。菫ちゃんと百合ちゃんはお姉ちゃんの名前だから被ってるからダメなの」

「全員花の名前なんだな」

「うん」

「そりゃ綺麗だな」


何か眠くなってきたな。

ベッドで仰向けになるとかやっぱり何とも言えず気持ちいいし。


「ねえ、先生」

「んー?」

「このまま私達の心臓が止まったら私達世にも奇妙な情死体として発見されるわけだよね」

「世にも奇妙な情死体って・・・」

「だってそうでしょ?ベッドに二人仲良く並んで死んでたら」

「まあ、そうだな。そんな簡単に二人同時に心臓止まらないだろうけどな」

「わかんないよ」


蓮が俺の手を取る。

簡単に振りほどけるが、間に枕を挟んでいるためこれくらいはいいかと思えてしまう。

ワンクッション置くとは偉大なことだ。

「まあ確かに変だよな。今二人して死んでしまったら、情死体として扱われるかもしれないな。ご丁寧に手まで繋いでいるんだし」

「ねー?」


そうなったら淫行教師扱いか。

女生徒に着衣の乱れなどなく、また争った形跡もないことから二人は心中したものと思われるとか書かれるのか。

嫌、着衣乱れてるか。

二人してパジャマなんだもんな。

蓮の青い髪のウィッグもどう言い訳するって話だし。

女生徒にコスプレを強要とか書かれるのか。

怖すぎる。

嫌、確かにいつもいい年してときめいていたけれど。


「今死んだら俺ら確かにどう扱われるんだろうな」

「心中」

「心中ブームなの?お前また何かそういう漫画読んだ?」

「何にも読んでないよー」

「二人して心筋梗塞なら心中にはならないだろ。大概は男が女を刺して自分も後を追うんだよ」

「そうなの?」

「ああ。曾根崎心中とか読んでるだけで痛そうで、ヒロインのお初が可哀想でさ、もっと楽に死ねる方法を考えてやったら良かったのにって思うんだよ。本当に痛そうでさ。俺は心中なんて絶対嫌だね」

「そんなに怖いの?」

「怖いっていうか、痛い。痛さが伝わってくる。心中天の網島も治兵衛が小春の喉を刺すんだよな。もっと楽に死なせてやればいいのに」

「そもそも死ななくてよくない?」

「死ななくていいよ。俺は死なせないし死なない。逃げる」

「逃げようね。私は何があっても先生についていくよ」

「そっか。ありがと」

「でも暫く心中ごっこしよ。これ気持ちいい」

「いいよ。俺もこの体勢気持ちいい」

「ホント?」

「ああ、今このまま眠り続けることになってもいいかなっていうくらいには気持ちいいよ」


何もかけなくて寝っ転がっててもいい部屋の温度、世界一寝心地のいいベッド、右手に感じる清らかで優しい感触。

これを手放してまで来世に期待して心中する気になどならない。

そもそも俺達のような時間が解決してくれる恋の障害など障害などではない。

まあ、徳兵衛は死なざるを得なかったわけで、あの結末はしょうがないけれど、せめてもうちょっと楽に死なせてやれないものかと思ってしまうんだ。

まあ凄惨な死を迎えるからこそ、お初の勇気が称賛され、恋の手本となるんだろうけど、それでもやっぱり可哀想だと思うんだ。

徳兵衛はよくできたなと思う。

俺は蓮のこの身体に傷一つつくの嫌だけど。


「このまま私達目覚めなかったら、誰に発見されるのかな?」

「警察、かな」

「そうなると私達暴かれちゃうんだ」

「まあそうなるんだろうな」

「皆びっくりするだろうね。私達が実は付き合っていたんなんて」

「そうだなー」


そうなると俺は蓮のご両親に二重で申し訳ないことをしたことになる。

嫌死なないし、死なないんだけど。


「でもそれだと先生絶対誤解されちゃうよね。私達まだ何にもしてないのに」

「そんな問題じゃないけど、まあそうだな」

「先生可哀想。私絶対先生のお家で死なないからね。ちゃんと先生のお家から出てから死んでみせるから」

「怖えよ。どうしてそう発想が斜め上行くんだよ。死ななきゃいいだろ。絶対死ぬな。俺よりうんと長生きして百年くらい生きてくれ」

「それは勿論。先生を看取るのは私って決めてるから。だから安心してね」

「ありがとー」

「こうして好きな人と手繋いで寝っ転がっているだけで幸せなのにね。死ななくってもいいのに」

「そうだな」

「他には何にもいらないなって思うけど、でも先生」

「ん?」

「お腹空いたね」

「空いたな」

「お昼にしませんか?」

「しましょう」

「でももうちょっとこうしてたいなー。あと少しだけ」

「じゃあ、あと少しな」

「うん、少しね」


ずっと星を見上げる様に上ばかり見ていた。

目に映るのは見慣れた天井だけだったけど。

隣にいる蓮を見ると蓮も俺を見ていた。

何時から見ていたのだろう。

この瞳が永久に閉ざされることなんか俺は少しも望まない。

この子が痛いと感じることなど永遠に起きなければいい。

本当に徳兵衛といい、治兵衛といいどうして好きな女の子を刺すなんてことができるのか、やはり主人公になれる人間は違うということか。

嫌、違う。

不朽の名作ヒロインは違うなってことかもしれない。

そういえばロミオとジュリエットでもロミオは毒で死ぬが、ジュリエットはロミオの短剣で死ぬんだよな。

何だか邪魔に思えて俺は二人の間に我が物顔で陣取る枕を自分の頭の下に追いやった。

蓮はその美しい瞳を本来の機能に戻った白い枕にくれてやり、梅ちゃんとポツリと呟いた。


























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