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ラブコメのライセンス  作者: 青木りよこ
15/40

ヒロイン

「先生」

「んー?」

「来週ね、パジャマ持ってくるから先生もパジャマ着て。お泊りごっこしよう」

「おとまりごっこ?」


何だそれは。

新しいゲーム、か?

なわけないか。

おとまりに俺が知らない意味があるとも思えない。

ごっこと付いている以上安全なものであるに決まっている。

安全で健全で全年齢対象の楽しくてわくわくするもの。


「先生のパジャマ見たいだけなんだけどね」

「先生パジャマ着ないんだけど」

「先生全裸で寝てるの?」

「なわけないだろ。そんなキャラじゃないわ。スウェット」

「グレーの?」

「グレーと黒。ボタンがあるの好きじゃないから。ボタン付いたの期待してるなら持ってないぞ」

「別になんでもいいよ。私もパジャマじゃないの。ワンピース。私もボタン付いたのあんまり好きじゃない」

「じゃあ、俺達は来週パジャマを着てゾンビ映画を見るわけだ」

「うん、そう。如何にも恋人同士の週末でしょう」

「そうか?」

「先生って、私に中学校の制服持ってきてとか言わないよね。私コスプレNGじゃないのに」

「持ってきてどうするんだよ」

「私が着てみせるの。パツンパツンの制服着ておっきくなったなあってしたくない?」

「高校入ってからそんなに背伸びたのか?」

「伸びてないよ。おっぱいは大きくなったけど」

「先生制服興味ないから」

「スモックは?幼稚園の残ってるよ」

「どうするんだよ。被るのか?」

「それこそつんつるてんだね。でもそういうの見ることないから見たくない?」

「嫌、幼女も興味ないし、興味あったら病気だろ。お前はそんな先生でいいのか?」

「どんな先生でも好きだよ」

「俺が嫌だわ」

「ねえ、先生飽きたよー」

「飽きてもやる。このゲームは毎日コツコツやった人間が大きな勝利を得るんだよ。勉強と一緒」


蓮が俺の腹に頭を乗せる。


「重い?」

「嫌」

「このまま寝ちゃお」

「寝るならベッドで寝ろ。広いくて快適だぞ」

「せっかく二人でいるのに離れるの嫌だよ。離れない。絶対に」


こんなつまらないことで本気の声で絶対にとか言う女子が俺はたまらなく好きだ。

蓮がもぞもぞと上に移動してくる。

頭が丁度俺の首の下になる。

はっきり言って拙い体勢だがもう気にしないことにする。

気にしたら負けだ。


「先生」

「んー?」

「いいね。この体勢」

「そうか?まあお前がいいならいいよ」

「大人しくしてるね」

「大人しくはしなくていいよ」

「じゃあ、お喋りしていい?」

「ああ」

「先生ボタン嫌いならお仕事辛いでしょ?」

「それは平気。俺は家にいる時は兎に角楽な格好をしていたいんだ。家大好きだから」

「どうしてそんなにお家好きなんだろうね」

「一人が好きだからじゃないか。楽だし」

「一人が好きなの?」

「ああ、何でも一人でできるし。一日中喋んなくても平気だし」

「聞かなきゃ良かった」

「あー、そういう意味じゃない。お前はいて欲しいよ」

「ホントに?」


蓮が起き上がり、俺を見下ろす。

俺も遂ゲーム画面から目を離した。

そりゃこっちのが見たい。

こっちが夢の世界なんじゃないかと思えるような美しさだ。


「私にはいて欲しい?」

「ああ、いて欲しい」

「一人大好きなのに?」

「お前は、いたほうが落ち着く」

「そうなの?」

「うん。割とそう」

「もう私を身体の一部のように思ってたりする?」

「身体の一部がお前みたいな美少女であってたまるか。お前一部ですむようなキャラじゃないだろ。全部になるわ」

「私が全部なの?じゃあ先生私のこと自分自身だと思ってるの?」

「そんな重くないって、嵐が丘か」

「なあに?それ」

「エミリー・ブロンテの小説。イギリスのな。ヒロインが私はヒースクリフですって言うセリフがあるんだよ。本棚のどっかにあるぞ。読むか?」

「長いでしょ?」

「まあ、そこそこ」

「かいつまんで話して」

「えっとなー」

「やっぱりいい。それより私のことどう思ってるの?」

「どうって好き以外になんかあんの?」

「えーっと、ない、かな?」

「わからん」

「私といると落ち着くってホント?」

「それはホント」

「私五月蠅くない?構って構って五月蠅いし」

「別に五月蠅くないよ。実際構ってやれてないし」

「そんなのいいよ。先生と一緒にいられるだけで幸せだから」

「お前いい子だねー」

「先生はいい子が好き?」

「当たり前だろ。いい子にしてるっていうのは口で言うほど簡単じゃないよ」

「そう?そういえば、先週好きなだけ抱き着いていいって言ってたけどしてない。今していい?」

「あ、そういやそうか。いいよ」


俺は起き上がりスマホをテーブルに置く。

どうしたらいいものかと手を広げてみる。

こんなことしたのは初めてだ。

なんだこのポーズ。

大天使か。

二十八の男のすることじゃない。


「蓮?」


蓮はいつまでたっても抱き着いてこない。

黒い瞳を忙しなく動かし俺の顔は見ようとしない。

これだよな。

いつもこうなんだ。

いざとなると実際は恥ずかしくって出来ないんだよな。

まあそういうところが可愛いんだろうな。

でもだからって大人の俺から行くわけにもいかない。

俺は唯受け止める。

それなら許されるだろう。

実際今の俺達にさほどの距離はない。

可笑しな話だが俺達が男女である以上恋人同士にしか許されない距離だ。

だからその俺より遥かに脆く繊細な身体に手を伸ばさなくても成立している。

男女の恋の場面が。

まあ女の子は高校生で十六歳、相手の男は二十八になる教師って時点でおよそ道徳的ではないのだが。

でもラブコメではあるのかもしれない。

ヒロインの可愛さに夢中になっている男が一人いる時点で。


























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