ライフ
「何してんの?」
「はっ」ようやく気づいたかのように、陸が振り返っていた。
「...」
「お前ら、何やってんだよ」
「陸こそ、何やってんだよ」
「俺は...。それよりも、もう十時半だろ?早く戻れ」
「だから陸を迎えに来たんじゃん」
「俺のことはどうでもいい。さっさと帰るんだ」
「て言うか、警察まだこないの?」
「なんか忙しいらしいよ。最近強盗事件多いからね」
「いいか、お前ら。すぐにここから出ていけ。ここは俺のすんでいるマンションだ。お前らは向こう。わかったな?」
「陸のお兄ちゃんに頼まれて来た。そのまま帰る訳にはいかない」
「じゃぁ伝えておいてくれ。俺を探すのをやめろって」
「ていうか...」
「...なんで自殺しようとしてんの?」
「君たちには関係無い。さっさと帰るんだ」
「上から目線だな」
「ねぇ、日記読ませて」
「いいけど、いくら説得しようとしても、俺は決めたことは最後までやりとげるからな」
「何々...」
「..."振られた。
とられた。もうチャンスはないのか。
受験落ちた。他にいいところは受からなかった。二年生からあんなに塾に通っていたのに。他のやつらも受かってんのに。紀明だって受かった。近藤も。
嫌になってきた。俺の塾代のせいで赤字だし。私立の年間100万の学校に通うことになったし。もううんざりだ。俺がいなければ、赤字にはならないだろう"」
「そんなこと思ってたの?」
「思ってて悪いか」
「命を無駄遣いにして...。私の姉ちゃんだって...」
「お前の姉さんのことは思い出すな。俺らだって恋しくなる」
「陸が死んだらどんだけみんなが悲しむか分かってるの?」
「分かってるさ。お前らは別に生きれるだろ。悲しむのは親ぐらいだ」
「お前なんにも分かってねぇんだな」
「俺ははっきりいって、お前より頭がいい。お前が俺にアドバイスするのは無駄だ」
「陸、ただ強がってるだけなんでしょ?」
「...」陸が飛び降りた。
「ちょっ...」
「なんとかつかんだよ」
「離せ、近藤」
「私一緒に落ちそうなんだけど...。ノリ、ちょっと手伝って」
「お前体重なんキロ?」
「前量ったときは28キロ」
「そんなんじゃ全然足りねぇ」
「とにかく、お前らは引っ込んでろ」
「その前に、強盗をどうにかしないとね」
「強盗...?」
「知らないの?さっき私たちが縄で縛っといたけど、いつ切れるか分かんないからさ」
「警察がくるまで、一緒させてもらうぜ」
「はぁ」陸は深くため息をついた。その時だ。
「お前ら、覚悟しておけよ...」背後から声がした。あの強盗だ。
「な、縄が切れたか」
「甘いぜ、お前ら。覚悟しておけよ」襲ってきた。また同じように転ばせたい...が、今俺は手を離せない。
「近藤、お前だけでなんとかできるな?」
「やってみる」
「かかってこい!」
「ん?」
「どうした!早くかかれ!」
「俺から先にかかってでもほしいのか?」男がかかってきた。
「お前なにやってんだよ、近藤!」
「ちょ、こいつ、凶器持ってる!」
「は?!」
それでも近藤はかかった。頭をなんとか蹴り、男を倒した。ちょっと見直した。俺だったら、凶器持ちの男にはかからないと思う。
「な、なんとかやったけど、これからどうすんの?」
「さ、さぁ」
「ねぇ、ノリなんか考えてよ!」
「そんなこと言われても...」
「紀明、お前は俺と近藤、どっちが大事なんだ。大事な方を助けるんだ」
「お前だって、そんなに近藤が好きなら、俺が引き上げてあげるから、少しでも手伝ったらどうだ!」
「...」
「ほら、行くぞ」
「おぅ...」やっと陸がその気になったか。
「え、陸、やめたの?」
「最後だけ助けてやる。そしたらお前は俺のこと、一生忘れないだろ?」
「そんな、忘れるわけないじゃん」
「ほら、行くよ」
「三人か。どうでもいい、かかってこい!」
「ど、どうするんだ」
「とりあえず転ばす。警察が来るまでは」
「で、警察が来たら、俺は飛び降りるからな」
「...」
「...」
「なにやってんだ、早く行こうぜ」
「かかってこい!」
そのあとはあんまり覚えてない。確か、何回か転ばして、一応セーフだった。でも、最後ははっきり覚えている。
「まいったか?」
「そんなはずねーじゃねぇか」
「まだやる気か?」男がナイフを取り出す。殺す気だ。
「...」
「勿論だぜ」男は俺と近藤を追いかけた。逃げきろう...と思ったが、屋上は狭い...。もう逃げる場所はない。もう、終わったのか?
「へへ、もう終わりだぜ」
「ノリ...」
「もう、俺もどうすればいいのか分かんないぜ...」
「な、なんかあるはず。なにかある...」
「お、おい!」突然強盗が叫んだ。
「なんだ?」
「なに?」
「は、離せ、お前!」陸だ。陸が強盗の足を掴んだ。そして飛び降りた。俺と近藤は強盗の手を掴む。なんとか大丈夫だ。でも、さすがに俺と28キロでは強盗と陸を一生おさえることはできない。
「は、離せ、ノリ、近藤!」
「あ、手すりに掴まれば、なんとかなるかも」
「あっ!」俺が強盗に引っ張られ、ぶら下がった状態になってしまった。
「近藤!お前、一人で三人も持てるのか?」
「無理に決まってるじゃん!」
「が、頑張れ!」
「手、手が...」
「もう少しだ」その時だ。屋上のドアが開いた。やった、警官だ!
「強盗はどこだー!」
「警察だ!手を挙げろ!」警官が来て、強盗は俺まで振り落とそうとした。そしたら、なんとか助かるだろうと思ったのだろう。
「さいなら、近藤、紀明」陸が呟いた
後ろを振り返る。俺の足が少し引っ張られたような気がした。そして、鋭い痛みを感じた。もう、俺の足は誰にも引っ張られてなかった。