美しきは月、照らすは残骸
~序章~
冷たい...あの日もこんな寒い夜だった...。
そう...わたしが殺されたあの日もーーー
「ンー!ンー!ンー!」
「五月蝿いですねぇ...静かにしなさい。でないと彼みたいになりますよ。
そう、言い放った男の傍らには血だらけの男性と口を封じられた子供がいた。
「大人しく私に協力しなさい。君は選ばれたのですかぁら!」
男は子供を壁に叩きつけた。
「いいですねぇ...出来れば私が選ばれたかった?いや欲っされたかった?どちらにせよ君は実に幸運だ...。」
男はじっとりと目の前の子供を眺めた。
ニィ。
無表情な男の口角が不意につり上がる。
「さぁ、そろそろ始めましょうか。君を捧げる時間です。」
そう言うと男は子供を抱きあげ生暖かな祭壇にのせた。
「この祭壇を手に入れるのは苦労しました。なにせ、高名な血筋の者でないとあのお方に通ずる媒体になり得ませんから。まだ息のあるうちに済ましてしましょう...冷たいとあなたの体がひえてしまうでしょう?」
もはや目の前の子供に恐怖を越えて抗う術はなく、その眼からは光を失っていた。
「そう、それでいい。大人しくしていれば一瞬でおわります。その先に待つのは幸せなのです。」
男は立ち上がり身の丈ほどの大刀を取り出した。
「いざ、来たもう、降りたもう。この男児にささやかなる祝福を。」
ズンッ。
刀は子供の腹を祭壇ごと貫いた。
「さぁ、その御身を私に見してくれ!」
その声に反応するかのようにゆっくりと子供の体が持ち上がる。
「あぁ...どれだけこの日を待ち焦がれたかxxx樣!寄り代を用意致しました私めに是非慈悲を下さいまし。」
男は感極まるように地に伏した。
しかし、男は気付いていなかった。否、数百年もの悲願を達成したと思い込みながら感極まる男に気付けるはずもなかった。
儀式が失敗したことに...目の前にいるものが男が崇拝するものとはまったくの別物であることに。
「ーーーーーーーーーー」
子供の口から幾ばくかの言の葉がつむがれた。
それを聞き男は顔あげる。
「な、まさか。お前は、そんな!?...儀式は正しいはずだ!我が一族500年の悲願が...アガァー!」
男は胸を押さえながら倒れた。
部屋に響くは静寂...この日、この部屋には2つの屍と白髪の子供が1人。
そして月の写る大刀が一本...
これが全ての始まりだった。