表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴクラク+ジョウド  作者: 棕絽-syuro-
ゴクラクジョウド
2/3

獄落鎖土

「ほぉ……『ニワマサト』、死因はひき逃げ後に気が動転、運転を誤り崖から車両ごと転落……なるほど、とんだ間抜けだな」

『___……_……』

「ふっ……焦るな」


『……___』

「当然だ、(がく)。任せろ」


スマートフォンに酷似した携帯型端末の画面をタップする細長い指。コキッと首を鳴らし立ち上がると、伸びをしてから携帯型端末をポケットに押し込む。


黒の軍服は着崩されることなく、青年は男らしくもどこか背徳的で、扇情的な色香を漂わす。


「さァて、仕事だ」


ぺろりと舌なめずり___覗く歯は、妙に鋭い。






男は狂気に晒されていた。それは狂気であり、瘴気であり、あるいは凶気___とりあえず、逃げ専ニワは『2度目の死』を目の前にしていた。


薄暗い、鉄塔の並ぶ廃れた街。目つきの鋭い鴉が頭上で鳴き、また別の鴉は野良犬の腐敗した死体を漁っている。


一本の鉄塔の根元に両のこめかみを握るように掴まれ押し付けられているニワに、逃げる術も余力も、残ってはいない。


「逃げるんならもっとちゃんと逃げろよ……興が醒めただろ、ワニ」

「わ、ワニ……?」


細いため息。軍服の内ポケットから取り出した文庫本サイズの本の表紙には『獄落帳』の文字が記され、片手で器用にバララッと捲る。留めた頁をまじまじと見つめてから、軍服の『彼』はふぅん、と大して興味もなさげにまた本を仕舞った。


「ニワマサト。違いないな?」

「お……おう」

「ひき逃げとはアンタもいい趣味してる」


ニワは罰の悪そうな顔で視線を背ける。が、もちろん頭を動かすことはできず、乱れた金髪と細く大きな手の隙間から見える相手の顔から視線を外すだけに留まる。


「……なに、恐ることはない。むしろ喜べ、ワニ」

「いや、だからニワって……」

「閻魔の判決を逃れ、煉獄にも逝かず、“こちらのゴクラク”の扉を開いて来たアンタに逃げる場所なんかねぇ。だから俺の仕事は……」


ニワは確かに、軍服の目が冷酷且つとろけるように細められたのを見た。


「___アンタに、『ご褒美』をやることだ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ