射場所を求めて
弓手で弓を執り、妻手で矢を持ち、呼吸を整える。
射位に移り、足踏みをした。
胴造りをして、矢をつがえる。
息を吸い、ゆっくりと吐いた。
もの見をする。
白と黒の円い的を見るのも、いつぶりだろうか。
気持ちが昂ってくるけど、それを優しくなだめ、心のなかにしずめていった。
打起しをする。
線香の煙が立つように、ゆっくりと、
それでいてふつふつとこみ上げる情熱をたたえながら、
和弓を天高くつきあげる。
大三、
そして、引分ける。
呼吸で拍をとりつつ、
左右の均衡を乱さぬまま、
なめらかに弓をおろしていく。
肋骨を拡げ、両の肩甲骨を合わせる。
会の状態に入った。
じっと離れが来るのを待つ。
妻手の肘は落ちていない。
外すときはいつも肘が落ちるんだ。
恩師の言葉が蘇り、そして消えた。
狙いの位置なんて忘れてしまったけど、体は覚えている。
だからそれに託す。
自ずと弦と弓掛は離れた。
矢は一直線に飛んだ。
外れた。
しばらくそのままの姿でいる。
矢の行方を見届けると、
肺にたまった空気をはきだし、弓をおろした。
終わった。
あてられなかった。
五年のブランクがあって、
道具も全部借り物の一射目なんだから、
仕方がないのかもしれない。
でも、やっぱり、学のためにあてたかった。
学の前でだけは
「あの日の私」のままでいたかったのだ。
視界がうるみだした。
こんな感覚、関東大会本戦ぶりだ。
こらえろ。
自分に語りかける。
世間はそんな甘いもんじゃないぞ。
「美苗さん!」
学が呼んでいる。
振り返る。
いいたいことも、
流したいものも、
叫びたいことも
全部呑み込んで、
振り返った。
学の目は輝いていた。
「俺、関東行って、美苗さんを越えてやりますから!」
髭の剃られた学の顔を見て、
小六時代の学を思い出した。
悔しさをこらえてるはずなのに、
そんなことを思い出してる自分が、ちょっぴりおかしかった。
2012年6月10日起稿