五月十六日
五月十六日
菌の培養が終了した。培養室からガロン瓶を運び出し、吸引ろ過で水層と菌を分離する作業に入る。
ガロン瓶の中から、菌の塊がぬるりと出てくる様は、ある種の快感を覚える。ここまでよく育ってくれた、と親のような心持ちだ。
ろ紙に張り付いた塊は、キクラゲに似ている。巨大なキクラゲからポタポタと培地の雫が落ち、ろ過瓶の中に溜まっていった。
培地に酢酸エチルを混ぜ、分液漏斗で有機溶媒層を分離する。培地に溶け込んだ菌の成分はこれで採取可能だ。
漏斗に残った菌塊は、別に取り分け、メタノールに浸しておく。これで、菌自体から採れる成分も余すことなく抽出できるのだ。
エバポレーターを用い、酢酸エチルを除去する。ナス型フラスコの底に成分が凝縮されていく様子を、私は飽くことなく眺め続けた。何時間とかかる作業であるが、エバポレーターがグゥングゥンと回る音をBGMに、その傍らで資料整理をするのは、私にとって最高の贅沢だった。
黙々と作業を進める私に、教授が嬉しい一言をくれた。
研究員の入れ替わりが激しく、あまり研究が進んでいなかったとのこと。私が研究に参加することで、この研究が飛躍的に進むのを期待している、と。
私は天に舞い上がりそうだった。必ずや成果を残そう。私は決意を新たにした。
明日、使用するカラムにシリカゲル粉末を充填。カラム内にクロロホルムを満たし、シリカゲルから空気を抜く。
一晩置き、今回抽出した成分を分離する予定。