五月三日
五月三日
世間はゴールデンウィークだが、研究者に休みなどというものはない。
菌だって生きているのだ。毎日欠かさずに様子を見てやらねば、何が起こるか分からない。
私の場合、休みがないことはさして苦痛ではなかった。一人暮らしの人間にとって、休みほど退屈なものはない。熱中できる趣味でもあれば別だが、結局休日は家でダラダラするのがオチなのだ。……あぁ、研究が趣味と言われればそうなのかもしれない。
資料の整理中、私はふと妙なことに気がついた。
研究ノートの見出しには、その研究に携わった者の名前が書かれてあるのだが……その人数がやけに多いのである。
どうやら、皆、長続きしなかったようだ。早い者では二ヶ月ほどで、この研究から離れてしまっていた。二ヶ月で一体何ができるだろう。私はその研究者の忍耐の無さに憤慨した。
研究というものは時間がかかるものなのだ。一朝一夕で結果を出そうなどというのは愚かで浅はかな考えだ。一生かかっても、結果を出せない場合だってある。死後に後継者によって日の目を見たという研究は数え切れない。逃げ出すのなら、最初から研究者になろうと思わぬことだ。
一方で、何故、このように研究員の入れ替わりが激しいのか、と疑問にも思った。
菌から抽出した成分を分離し、分析する作業。ただそれだけの繰り返しではある。
カラムクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、それから核磁気共鳴スペクトル分析……時折細胞活性試験を挟み、より有用となり得るであろう成分を探索し、絞っていく。
ノートの記載を見る限り、研究は順調なように思える。研究を続けていれば、もしかしたら……何らかの発見ができたかもしれない。
けれども、彼らは皆、この研究を放棄し、去っていった。
……まぁ、いい。他の誰でもなく、この私が新たな化合物を発見できる可能性があるということなのだから。
再来週、菌の培養が終了する予定。その後の作業が楽しみだ。