十月六日
十月六日
もう私が自分でいられるジカンはほとんどない。自分のイシキを保てているときでも、体の自由さえ効かない。
培ヨウには五シュウカンかかるはずだった。が、キンはキョウイ的なスピードでもって私の体で成チョウした。
キンをうえつけた左ウデはもうほとんどカンカクがない。さいぼうブンレツのスピードに、私という器がたえられなくなっているのだろう。
両アシのカンカクもあやしいものだ。歩くタビにひざをつきそうになり、ヘヤから外に出られなくなってしまった。
休むようになった私をシンパイして、Sコウシはでんわをくれた。つうわボタンを押し、スピーカーモードでハナシをする。スマホさえもつかんでいられないのだ。
ビョウインは? ショクジは?
Sコウシの問いに、私はあいまいな返ジしかできなかった。大丈夫、大丈夫……とくりかえす。
私はヨコになりながら、半ばイジになってキロクを続けている。さいわい、ペンをにぎる右手は一ばんソンショウが少ない。
むずかしいカンジをかくことはもうできない。カタカナとひらがなと、カンタンなカンジまじりの文しか。
君はよく耐えたと思う。私の愛に応えるために、全て投げ打って。
愛しい君の体。崩れかけ、爛れてもなお美しい。
あぁ、左腕が落ちてしまった。
床に落ちた腕は、ずぶ……と地面にめり込むように直立した。赤茶けた体液がフローリングの床に広がる。
まるで、椿だ。
根元からぼとりと落ちた、満開の花。
君の体内で十分成長した子供達は、君の血に乗って外界へと運ばれていくだろう。
乾いた体液からふわりと空に舞い上がり、また新たな配偶者を探す。
命の連鎖は止まらない。
君と私の愛の結晶は、この世界をぐるりと覆い尽くし、新たな歴史を築いていくはず。
私は君と出会えて、本当に幸せだった。




