十月四日
十月四日
また、眠ってしまっていたようだ。
携帯電話にS講師からの着信履歴が残っている。私は急いで電話をかけ、体調不良で休む旨を伝えた。
L-13が、私の体を支配する時間が増えてきている。菌体を体に植え付けたあの日から……意識が飛んでしまうことがあるのだ。
日誌を見ても分かるほど、L-13の意識は表在化していた。
二の腕の肉芽ははち切れんばかりに膨らんできていた。無理に抑えようとガーゼを押し付けると、ぶしゅり、と腐ったトマトのように嫌な音を立てて潰れた。
赤い血と、黄白色の膿。そして……黒い、菌体。
怖い。怖い。
だが、同時に体内での菌の培養に成功した、と心が喝采を上げる。
どうやら、私の意識が眠っている間は、私の体温はぐんと下げられているようだ。
培養室の温度が二十八度。L-13は私の生命活動を抑えることで、体温を低下させることに成功したらしい。
私は生きた培養室となったのだ。
部屋の冷蔵庫を覗くと、ほとんど食料は入っていなかった。L-13が食べてしまったのだろう。
とりあえず、今日は必要最低限の食料を買い込み、明日、研究室で人工海水培地を作ることに決めた。Y教授とS講師は明日の午後から学生実習の監督員を務めるため、二時間ほど研究室を空けるはずだ。
君から離れたくない。血の一滴も、細胞の一片たりとも。
私は君の体の傷口に指を這わせ、そこから溢れる蜜を全て、残らず、舐めとった。




