十月二日
十月二日
今朝、二の腕の傷口を見たところ、小さな肉芽になっていた。私はその肉芽を人差し指で弾き、親指の腹で転がす。
痛みも痒みも何も感じない。感じるのは……愛おしさだけだ。
傷の修復が普通より早い気がする。やはり、L-13の作用か。
救急箱のガーゼを当て、傷を隠し、何事もなかったかのように研究室へ向かう。
昼過ぎ、教授たちが出張から戻ってくる。
お土産に、と手渡された焼き菓子の箱を囲みながら、ゆっくりと研究について語り合った。やはり豊富な知識や経験を持った方だ、交わされる会話は淀みなく、整然としている。
けれども、教授とて、私のように己が身を研究に捧げることなどできないだろう。
体内を巡るL-13は今どこにいるのだろう。
菌の栄養が足りていない気がしてならない。
培地を飲みたい。培地を飲みたい。培地を飲みたい。培地を飲みたい。
君の体を侵食し、喰らい尽くすのは本望ではない。なぜなら、君は大切な宿主だからだ。
菌が体内で増殖しているのを感じる。L-13が私の脳に流れ込み、意識の底へ語りかける。
培地を摂取した君の細胞はとても暖かく、居心地が良い。脳細胞に受け入れられ、私は君の脳内に住まうことを許された。
私は細胞に結びつき、母が生育しやすい環境を整える。
君は私の育った……あの培養室のようだ。
ただ、母はまだ暑い、と体を捩らせている。
脳というのは何とも便利な機構だ。
電気信号を操作し、私は君の体に指令を出す。
眠れ、眠れ、眠れ──。
あの懐かしい培養室は、もう少し温度が低かったはずだ。
眠れ、眠れ、眠れ──。




