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オーバーセンス  作者: 茜雲
二章 真実を求めて
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ティオ VS ダラン -魔術と剣-



「次は……ティオ様です。前へどうぞ」


 ジルバの後の数人が試験を終え、待ちに待ったティオの番だ。


 名を呼ばれたティオは意気揚々と前へと出る。


「頑張ってこいよ、ティオ」


「無様な結果は許さないのです」


「くぴー……」


 それぞれの応援の言葉をティオにかける。ちなみに白いのは寝ている。


「――行ってくる」


 それだけ言うと、ティオはダランの前へと進み出た。


「よう、ようやくお前さんか」


「悪いな、フィア(本命)の前に、俺の相手してもらうよ」


 ティオの口調が素に戻る。昂ぶっている影響か。


「いや、お前さんも本命だ。楽しませてもらうぜ」


 そして、2人は構える。その表情は同じ、獰猛な笑みだ。


「……始めっ!」


 合図。それと同時にティオはまず己を強化する。


「フィジカルエンチャント! インパルス!」


 自身にそれが効果を示すと同時にティオは斬り掛かった。


 そして、ダランはそれを受け止める。ジルバの時と同じ構図だ。


「ほう! 呪文無しで身体強化を使いこなすか! いいぞ、その時点でEランクは確定だっ!」


「まだまだ! あんたと同じBランクぐらいには行きたいねっ!」


 キィンキィンッ、と甲高い金属音が連続で響き渡る。


 次から次へと迫るティオの斬撃を、ダランは捌ききる。


 ここもジルバと同じ構図。だが、その速度は段違いだ。


「はっはあ! それこそ、俺に“降参”させなきゃならんな!」


「もちろんそのつもりだよ!」


 唐竹に切り込んだティオの剣をダランが受け止める。そのまま鍔迫り合いへと持ち込んだ。


「膂力も俺と競るか! 大したもんだ!」


「俺としては身体強化しても競るのが精一杯なことに驚くよ……!」


 ギリギリと擦れる音を立てながら、2人は剣を押し合う。


 それは2人の中間で拮抗し、鬩ぎ合う。


 ダランは自身の膂力だけで身体強化を施したティオと競っていた。控えめに言っても、人間離れしている。


「大した力だ。だが、そんなもんじゃないんだろう?」


「当然」


 これからだ、とティオは笑って見せる。


「ディスチャージッ!」


「――ぐっ!」


 かつて、森の中でも使った放電魔術。


 放たれた電撃は剣を伝ってダランへと流れ込む。だが信じがたいことに、ダランはそれを受けても力を緩めず、耐えきった。


「……あんた、ほんとに人間かよ?」


「当然だろ? むしろ他の何に見えるってんだ」


 ティオとしては身近に人間の姿をした魔物がいる故に、有り得ないと分かっていても、どうしても魔物ではないかと疑ってしまう。


 それほど、ダランの身体能力は圧倒的だった。


「次はこっちからいくぜ? 滾れ! フィジカルエンチャント!」


「――ッ!」


 ダランがその魔術を唱えた瞬間、ティオは距離を取る。


 だがそう簡単にはいかない。


「逃がすかっ!」


 足元の土を爆ぜさせながら、ダランが地を蹴った。


 その速度はティオが距離を取るよりも速く、ティオとダランの距離が瞬時に縮まっていく。


 ティオはその非常識な身体能力に頬を引き攣らせながら、あくまで冷静に対処する。


「――ッ……エアリアルバースト!」


 ダランがティオを捕える直前、ティオの正面に風が集まり、炸裂した。


 それにより、ティオには追い風、ダランには逆風が襲い、2人の距離が十数メートル離れる。


「……悉く無詠唱で使いこなすか。魔術師タイプ……それもかなりのもんだな」


「そういうあんたはこれでもかっていうくらい近接タイプだな……」


 ティオ本来の才能が魔術師タイプなのは事実だ。


 だが、今では魔物化で変質した身体能力やルミナ・ロードを利用しての体術も相当の域に達している。


 それがほとんど通用しないのは少しばかりショックだった。


「ははは! 一応遠距離魔術も使えるぜ? 屁みてぇなもんだけどな!」


「……なら、見せてやるよ。遠距離魔術をな」


 ティオの呟きに、ダランが構える。


 ダランに、ティオの邪魔をする気はない。これはあくまで力を見る試験なのだから。


「――ライトニングスピアッ!」


 瞬間、ティオの周囲に顕現する4つもの雷球。


「中級魔術まで無詠唱かよ……! お前こそ、ほんとに子供か?」


 生み出された雷球は紫電を発して存在を誇示する。それに呆気を取られたのは何も相対するダランだけではない。


「おいおいおい……! ティオの奴、あんなにとんでもなかったのかよ!?」


「……!」


 冷や汗を流すジルバに、言葉を失うフェリス。他の傭兵達も、目を見開いて戦いの行方を見守っていた。


「往けっ!」


 雷槍は4つの光線を引きながら、ダランに向かって奔る。


 その全てが直線的な軌道ではない。逃げ道を塞ぐように左右からもダランに迫る。


「――っはあああ!!」


 ダランの発する裂帛の気合。


 それは離れたティオにもびりびりと響く。


 そして、ダランは迎え撃つでなく、真っ向から雷槍を受け止め、貫かれた。


「…………!」


 雷鳴と共に貫かれたダランは一瞬体をぐらつかせるが、すぐに大地を踏みしめて持ち直した。


「……ぷっはあ! 今のは効いたぜ! あー、いってぇ……」


 それだけなのか、とティオは内心で文句をつける。


 だがダメージを与えているのは確かだ。


 ならば、今攻めずしていつ攻めるのか。


「アイシクルランス!」


 宙空に氷の槍を十数本形成する。もちろん、切っ先はダランに向けている。


 その氷槍の数に、異様に、ダランは目を細める。


 構わず、ティオは手を振るった。それと同時に、氷槍はダランに向けて飛び立った。


「――ふんっ!」


 気合一つで振るわれた大剣によって、氷槍が打ち砕かれる。


 そう甘い速度や強度ではなかった。が、ダランは迫る数多の氷槍を次々と打ち砕いていく。


 あっさりと破られたこともティオは気にせず、次の魔術を放つ。


「エア……ストラッシュッ!」


 ティオの剣先から放たれる鋭い斬撃。


 魔術自体は下級レベルだが、地面を抉りながら進む姿は下級とは言い難い威力だ。


「っらあ!」


 だがそれを、ダランは魔術すら使わずただの剣圧で弾き飛ばした。


 ライトニングスピアで確かにダメージは与えたはずなのに、とその常識はずれ具合に笑みを零しながら、ティオはさらに魔素を練る。


「ならこれだ……フロストイロード!」


 剣を地面に突き刺して両手で構える。そうすれば手の中に生まれるのは青い輝きを放つ小さな光。


 出力はかなり抑えられているが、イワン・クルーガーを氷の世界に閉じ込めたあの魔術だ。


 あの時は自身の魔素を最大限利用した、桁違いの出力だった。故に、ティオがオリジナルの名を冠したのだ。


 確かに一瞬で全てを凍結させるあの威力は、ティオにしか放てない、オリジナル魔術と称するには十分だった。


 そして今ティオの手中にある光も本質は同じ、触れたものを氷で侵食する魔術。威力はかなり落ちるが、ダランの剣と腕を凍らせるぐらいは出来るだろう。


 ティオの手から飛び立った光は、ダランに迫る。


 流石に力ばかりではどうにもならないと判断したのか、呪文を唱えた。


「――燃え上がれッ! フレイムエッジ!」


 ダランの大剣が炎を纏う。それをそのまま光に向けて振るった。


「うおおりゃあああっ!」


 氷と炎、極低温と極高温。相反する2つは一瞬鬩ぎ合う様に光を発し、お互いに消し飛んだ。


「……とことん近接タイプだな」


 空中に散った青い光の残滓を眺めながら、ティオが呟く。


「はははっ! 魔術(飛び道具)も嫌いじゃないぜ? だがやっぱり俺には(これ)が合うんでな!」


 ダランが笑いながら火の消えた大剣を翳す。


 フロストイロードを完璧に相殺し、その刀身は一切凍っていない。


 次はどうするか、ティオは眼が熱くなる(・・・・・・)のを感じながら考える。


 自分の全力をぶつけることが出来るのが、素直に愉しかった。


「…………――ティオさん」


「――っ!?」


 風に乗って小さな声が届く。


 不意に聞こえた声に、驚いたティオはその声の主へと視線を向ける。そこには何やら厳しい表情を浮かべるフィアがいた。


 そこで、ようやくティオは自覚した。眼に熱を感じるほど、感情が、魔素が昂ぶっていることに。


(……魔素が活性化するほど高揚してたか。フィア以外誰も反応していないってことは、まだあの状態になってはいない、か?)


 咄嗟に眼を隠しつつ、考える。フィアのおかげで少し頭が冷えた。


 魔物と同様の身体を持つティオは、感情の高ぶりによって体内の魔素が活性化する。


 そしてその際、瞳が紅く灯る。ガルドの時の様に。


 流石に、そんなところを見られれば、要らぬ邪推をされることは目に見えている。


 いくらなんでもティオが魔物だという発想はそうそうされないだろうが、面倒なことになるのは容易に想像できた。


「おいどうした。大丈夫か?」


 突然眼を抑えて動きを止めたティオに、心配そうな声が掛かる。


「ああ、悪い。大丈夫だ」


 目を隠した手をどけながら、答える。


(さて、どうしたもんか……いや、考えるまでもないか)


 ティオは頭を掻き、納得のいかなさそうな、不満そうな表情を浮かべながらそれを口にした。


「――降参だ」


「……いいのか?」


「ああ、見せるもんはだいたい見せた」


 言いながら、審査員に目配せする。


 半ば茫然としていた審査員はハッとして宣言する。


「そ、そこまで!」


 試験終了の合図を受け、ティオは剣を収めながらダランの方へと向かう。


「ありがとう、色々と参考になったよ。辛いなら回復魔術をかけようか?」


「へっ、あの程度、大した問題じゃねぇよ」


 言いながらダランは首をポキポキと鳴らす。


 本当に問題はないようだ。全くもって化け物である。


「しかし、回復魔術まで使えるのか。本当に子供とは思えんな」


 探るような目で見てくるダランに、ティオは肩を竦めて返す。


「ふん、まぁいいさ。いずれ機会があるだろ。ところでお前、そっち(・・・)が素か?」


 一瞬何のことを言っているのか解からず、首を傾げる。


 が、すぐに口調の事だと思い至った。


「……すいません。戦いとなるとつい」


「めんどくせぇ、普段も素で話せ! 素で!」


 初対面の相手や明らかに目上の人間に対しては、ティオは基本的に敬語で話す。


 だが、ダランの様な人間には鬱陶しいだけだろう。


 ティオとしても素で話す方が楽なので言葉に甘えることにする。


「ああ、わかったよ。次は、フィアの相手か……死ぬなよ?」


 試験のエリアから立ち去りながら、最後にポソッと呟く。


 しっかり聞こえたのだろう、楽しそうに表情を歪めていた。


「……無様ですね。それともやっぱりぼけ(・・)てるです?」


 次の受験者として、すでに前に出てきたフィアとすれ違う。


 その際、フィアの吐いた毒が耳に届いた。


「……悪かったよ」


 負けたことを言っているのか、危うく秘密を晒しそうになったことを言っているのか。おそらく両方だろう。


「あいつ、マジで化け物だぞ。打たれ強さならガルドとタメをはりそうだ」


「そうですか。どれほど父様に近付けたか、それを測るいい機会なのです」


 そんなことを呟いてフィアはダランの前へと進み出た。


 ティオはそんなフィアに頼もしさを抱きつつ、待機エリアに戻った。






「……ティオ様、色々と無礼なことを言いました。どうかお許し下さい」


 待機エリアに戻ってすぐ、フェリスがティオに頭を下げる。


 ティオの実力を見誤り、遠回しに棄権させようとしたり、少々キツめに言ったことに対してだろう。


「フェリスさん……いえ、フェリスさんは気を遣ってくれたのでしょう? 謝る必要なんてありませんよ」


「ティオ様……」


 ティオの言う通り、全てはフェリスの気遣いからのもの。それを責めるほど、ティオは傲慢ではない。


「……ありがとうございます」


 フェリスはもう一度頭を下げる。


 次に顔を上げた時には、珍しく笑みを浮かべていた。


「ようティオッ! お前さんやるじゃねえか! あの旦那をあそこまで追い詰めるなんてよお!」


「ジルバさん……今回は運が良かっただけですよ」


「変な謙遜すんな、あれが運なんてもんじゃないことくらい、ここにいる全員が分かってるよ」


 ジルバの言葉に触発されて周りを見れば、ティオを見る視線にもう非難や侮りはない。


 それでもティオは、ジルバの言葉に内心では異を唱えた。


(追い詰めた……まさか。まだまだ余裕と、何か知らないけど隠し玉があった。まぁ……お互いに、だけど)


 振り向き、ダランを見る。そして思う。全力(・・)で戦るとどうなるだろうかと。自身の魔素も、無言発動の魔術もすべて駆使して戦ると、どうなるだろうかと。


 あり得ない空想に、自嘲気味な笑みを浮かべながら視線を戻した。そこでちょうどジルバの呟きが耳に届く。


「まぁそれはさておいてだ。次はあの嬢ちゃんか。見ものだな」


「……案外、僕以上に見応えあるかも知れませんよ?」


 そんなことを呟けば、ジルバとフェリスは目を剥いた。


「……あれ以上が見られるのか」


「…………」


 2人は緊張した面持ちで、睨み合ったフィアとダランを眺める。


見応え(それだけ)で済めばいいけど。……まぁ、俺が言えたことじゃないな)


 ティオは己の失態を思い出し、小さくため息を吐いた。



ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

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