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オーバーセンス  作者: 茜雲
二章 真実を求めて
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傭兵登録

「傭兵、ですか?」


 ティオの話に対して、フィアが聞き返す。


「ああそうだ。傭兵、雇われ兵。まぁ簡単に言えば雇い主と金銭で契約を結んで、その依頼を果たす仕事だ」


 各街に点在する“ギルド”。そこで傭兵への登録や、契約が結ばれる。契約と言っても、傭兵が依頼主と直接どうこうする訳ではない。


 依頼主はギルドに依頼を出し、それをギルドが貼りだす。傭兵はその中から好きな依頼を選んで依頼を完遂、または依頼された品をギルドに納品する、といった流れだ。


 ちなみに、依頼と関係なく個人で魔物などの獲物を倒し、その素材をギルドに売却することも出来る。それを生業とする者たちは狩人と呼ばれている。傭兵も、余った素材等を売却することも多いので、言ってしまえば傭兵は狩人でもある。そこらの基準はあいまいだ。


「いやなら断ってくれていい。3人分の生活費なら俺一人で十分稼げる」


「…………」


 フィアも、実力的には傭兵で容易に稼げるだろう。だが、母親を狩人に殺されている。それを思えば、傭兵として登録させるのは気が引けた。


「――やるです」


 フィアの応えは、正直、ティオとしては予想外だった。


「……いいのか?」


「父様も言ってたです。恨むべきはあの人達であって、人間そのものじゃないと。傭兵だって同じことです。あの人達が傭兵や狩人だったとしても、私が傭兵にならない理由にはならないのです」


 そうは言うが、簡単に言うほど納得は出来ていないはずだ。少なくとも、思うところがないとは、とても思えない。


 そんなティオの不安を叩き斬るかのように、フィアは不敵な笑みを浮かべて告げた。


「何より、傭兵になればあの人達の尻尾を掴めるかもしれないのです。むしろ望むところなのです」


「……そこまで言うのなら、俺が止めるのも野暮か」


 そう、苦笑しながらティオは頷いた。


「きゅい~!」


 そんな二人にミラが割って入る。


「なんだ? お前も参加するって?」


「きゅいっ!」


 ティオの言葉に、ミラが頷く。


 実力的には、問題ないだろう。だが、何よりの問題はその姿だ。


「お前はなぁ……せめてエグジスタを安定させてから――」


 ティオが苦言を呈そうとしたところでミラが光に包まれた。


「ミラだって出来るよ!」


 光の中から出てきた人化したミラは、ティオに迫って訴える。


 その遠慮の無さに、服を着せて貰っていて良かったと、ティオは心底安堵した。


「いやお前ついさっき制御失敗したばっかりだろ」


「出来るもんっ!」


 子供の様に言って聞かないミラに、ティオはどうしたものかと考えていると、意外な言葉が割って入った。


「大丈夫だと思うですよ」


「フィア?」


 ミラとティオのやり取りに割って入ったフィアはそのまま続ける。


「さっきはミラの不注意で魔術が解けましたが、魔術そのものは安定していたのです。注意しておけば、そうそう解けはしないはずなのです」


「そうなのか?」


 フィアの言葉を確認するように、ミラに視線を投げる。ミラはそれを肯定するように、大きく頷いた。


「不安なら、行く前にティオさんの魔素を貰えばより安定すると思うのです」


「……俺の魔素ってそんなに影響あるのか?」


「何を今更言っているのです。でなければこれほど早く、エグジスタを習得出来はしません」


 言われればそうなのだが、自分で実感できない為に、未だにそれについては半信半疑だった。


「まぁ、いいか。ほら」


 言いながら、手に魔素を生み出して差し出した。


「わーいっ!」


 真っ先に反応したミラは、勢いそのままに、ティオの手にしゃぶりついた。


「――っておい待てっ!」


 ミラを無理やり引きはがす。食事を中断させられたミラは大層不満そうな表情だ。


「やーっ」


「あー、そうなるのか……」


 奇しくも、ガルドの時の不安が今実現した。幸いなのは相手がおっさんの姿でなかったことか。


「人の姿の時は、ガルドみたいに手から受け取ってくれ」


「細かいことを気にし過ぎなのです」


 言いながら、フィアがティオの手に自分のそれを添える。ティオは安堵を浮かべながらそこに魔素を生み出した。


「こう?」


 それを真似する形でミラももう一方の手に添える。ティオは返事の代わりに魔素を生み出した。


(これから先も、こういうので苦労と言うか、てんやわんやさせられるんだろうなぁ……)


 そう遠くない未来、この2人に振り回されている自分を想像して頬を引き攣らせ、少しだけ笑みを浮かべた。










「傭兵登録ですか。少々お待ちください」


 ところ変わって、ここはギルド。傭兵登録するにはまずここで手続きを済まさなければならない。


「お待たせしました。登録は……貴方達、ですか?」


 準備を終えた受付嬢がティオ達を訝しそうに眺める。武芸達者には見えない女子供、唯一の男も屈強とは言い難い出で立ちだ。そんな者達が魔物や盗賊を相手にする命がけの仕事を始めようというのだ。疑うのも当然ではある。


「ええ、そうです。3人分、登録をお願いします」


 だが素性を問わない特性上、珍しいがありえない事ではない。故に、受付嬢も気にはしながらも、登録を受諾した。


「わかりました。ではこちらに必要事項を記入してください。名前以外、書きたくなければ書かなくても結構です」


 必要事項と言いつつ名前だけとは、とことん(・・・・)である。他の項目も、申し訳程度の居住地記載欄を除けばアンケートの様なものばかりだった。


「……はい。これでお願いします」


「……ティオ様に、フィア様、ミラ様ですね。パーティ申請はよろしいのですか?」


 パーティ申請、要はチームだ。確かに、書類にはパーティ申請の記入欄もあった。受付嬢としては、3人一緒に登録に来ておいてパーティ申請はしないというのが意外だったのだろう。


「パーティですか……特に優遇というか、メリットなんかはないのですよね?」


 ティオが疑問で返す。これも、ラステナから聞いたことだ。


 実際、ラステナも誰かとパーティは組んでいなかった。その方が自由だからだそうだ。


「そうですね。特にありません。ただの名義の様なものなので、むしろ仲が割れた時なんかは邪魔になったりするものですが……」


 受付嬢の言葉に、ギルド内にいる一部の傭兵達がピクリと反応した。随分と歯に衣を着せない受付嬢である。


「逆に、パーティメンバーへの粉かけを防止できることもあります。まぁそれでも寄って来る馬鹿はいますけどね」


 一言多い。過去に何か男関係でのトラブルでもあったのだろうか。それを聞く勇気はティオにはない。


「そ、そうですか……。なら……そうですね。パーティ申請、お願いします。この3人で」


「そうですか、パーティ名はどうなさいますか? それは後日、ということも可能ですが」


 突発的に決まったからかそんな提案をする。ありがたい申し入れだ。


「はい、それでお願いします」


「承りました」


 仕事には真面目なようで、すぐに書類を書き始める。この分なら直ぐに手続きは終わりそうだ。ついでとばかりに、ティオはいくつか質問を投げかける。


ランク(・・・)は、Fからですか?」


「そうですね。例外なく、新規登録の方はランクFから登録させていただいています」


 ランク。傭兵としての練度や強さは、魔物と同じように、ランクで表される。


 基本はFからAまで。そして、特例的な、例えば戦争で敵将の首を挙げたり、上位の悪魔種等といった天災級の魔物を退ける際に活躍したりと、大きな戦果を上げた際にSランクが与えられる。


 強さを例えるのは難しいが、敢えて例えるなら、ガルドのようなランク6の魔物を1人で相手出来るのはBかAランクだ。それも、相手出来る、と言うだけで勝てるという意味ではない。今更ではあるが、それほど、ストームタイガーは高位の魔物なのである。


 ティオはある意味、ガルドに勝ったと言えるかもしれない。つまり、ランクBかAに近い強さを既に持っているということになる。しかし、ガルドとの一戦は、運やガルドの性格といった不確定要素が多分に出ている。


 もし、ミラが割って入らずガルドがティオに興味を抱かなければ……もし、ティオの最後の挑発をガルドが受けたりしなければ、結果は全く異なっていただろう。それでもティオが年齢にそぐわない、()を持っていることは確かだが。


「昇格の方法は?」


基本的には(・・・・・)、各々のランクで受注できる依頼をある程度こなしていただき、こちらで昇格可能な能力ありと認めた場合に、昇格の通知を送らせていただきます」


 含みのある言い方だ。ティオは薄く笑みを浮かべながら追及する。


「それ以外だと?」


「……定期的に開催される昇格試験を受け、それで相応の実力が認められれば、試験官が適当と判断したランクまで昇格となります。」


「次の試験はいつです?」


「……明日、ですね」


 ティオは受付嬢に見えない位置でガッツポーズをする。


 ランクが異なれば、受けられる依頼の難度、報酬も相応に変わる。ティオとしてはちまちまと低報酬の薬草採集任務や雑用に甘んじるつもりは無い。ガルド級とは言わないが、もっと大きな魔物を相手に一気に稼ぎたいところだった。


「おすすめはしません。あれは相応の実力を持つ試験官と、実戦形式で闘うものです。もちろん試験官側が手加減はしますが、中途半端な力を持って挑めば命の危険もあります」


 受付嬢は強い口調と裏腹に、心配そうな表情を浮かべてティオを見る。ティオは少し意外に思いながらも、安心させるように笑みを浮かべた。


「大丈夫です。そこらのCランクよりは強いですから」


 そう、自信を込めて言ってやれば、受付嬢は目を見開き、周囲の空気は僅かに張り詰めた。


「……そうですか。とにかく、登録の方は完了しました。明日の昇格試験をお望みであれば、明日の朝10時に、ギルドの方へいらしてください」


 受付嬢はそれだけを言うと奥へと引っ込んだ。怒らせてしまったのだろうか。


(嘘でもないし、むしろ謙遜したつもりなんだけどな)


 ティオは苦笑しながら踵を返す。自分の言葉に信憑性が無いことなど重々承知している。だからこそ(・・・・・)、言葉にしたのだ。


(何人か反応(・・)してたし、活きがいいのが釣れるか)


 ティオの目的の為には、ある程度目立った方が良い。それが悪名だとしても。というか、それが一番手っ取り早い。とは言え悪事を行うつもりはない。


「おい兄ちゃん。随分と自信があるみてぇだな?」


(ほら来た)


 ティオの正面に厳つい大男が立つ。まだ夕刻前だと言うのに既に頬が赤い。昼間から飲んだくれていたのだろうか。


 その眼には怒りが感じられる。先ほどのティオの発言に触発されたのだろう。


 実際に実力があるとも思えない者から、“Cランクなんて相手にならない”なんてことを言われたら、Cランクかその下の者なら怒りくらい覚える。ましてやここは素性を問わない傭兵達の巣窟、荒くれ者や拳の振るい先を探している奴など腐るほどいる。


「おぉい。なんか言ったらどうなんだ? え?」


 ティオは目の前の大男を眺める。そして内心でがっかりしていた。


(……弱いな、Eぐらいか。まぁあの程度の挑発にあっさりと乗るんならこんなもんか)


 男をまるっと無視しながら、ティオはどうするか考える。


 突っかかってきた奴を適当にいなして周囲に名前を覚えさせるつもりだったが、この程度の相手をどうこうしても大した意味はなさそうだ。


(もっとこう……周囲に恐れを与えるくらいの相手が良かったんだけど。うまくはいなかいもんだなぁ……)


 うーん、と考えふけるティオを、ビビって声も出ないとでも判断したのか。男はティオの横を素通りしてミラ達の方へと向かった。


「おい嬢ちゃん達、こんな腑抜けより、俺のとこへ来ないか? 俺のとこなら、嬢ちゃん達に戦わせたりしねぇからよぉ?」


粉かけ(そっち)かよッ!? パーティ申請したのに何の役目も果たしてないな……。 つーか見た目10歳前後のフィアに声かけるとかこいつ正気か?)


 面倒ごとを避ける為にパーティ申請をしたというのに、登録して10秒経たない間にその意義を打ち破られた。それに、2メートル近い男が見た目幼いフィアに声をかけるなど、犯罪にしか見えない。


(いや、とりあえず、いい加減黙らせるか)


 自分相手ならどうとでもなるが、フィア達に手を出すとどうなるか読めない。なにがって、フィア達がどう反応するかがだ。悪名でも構わないが、殺人は拙いのだ。


 だが、ティオの行動は一足遅かった。ちょうど振り向いたタイミングで、男がフィアの左腕を掴んだ。


「まぁいいや、とにかく来――ッ!?」


 強引に連れて行こうとした男の言葉が途切れる。フィアの眼を見ての反応だ。侮蔑、軽蔑、拒絶、その全てを内包したフィアの視線と、発せられる気配に。


 まるで巨大な虎を相手にしているかのようなその迫力に、男は何を思っただろう。後悔か、絶望か、或いは死にたくないという本能か。それは本人にしか判らないが、おそらくそう大きく外れてはいないだろう。


 そして、フィアが右手を構えた。男越しにそれを視た(・・)ティオは頬を引き攣らせる。


「――薄汚い手で触るな。です」


 ただの掌底。他の者にはそう見えただろう。だがその実は手のひらに極小の風の爆弾を伴っての掌底だ。掌底の衝撃と共に爆発した風が大男を吹き飛ばす程の威力を生み出した。


「ぐぼあっ!?」


 男は咄嗟に避けたティオの横を通り過ぎ、ギルドの入り口まで吹き飛ぶ。そしてそのまま扉を激しく開けながら表通りへと飛び出した。同時に外から叫び声が聞こえる。声を聞く限り、巻き添えになった人はいなかったようだ。不幸中の幸いである。


「「「…………なッ!?」」」


 ギルド内にいる傭兵達が驚きを露わにする。まさか10歳前後にしか見えない小柄な少女が、2メートル近い大男を吹き飛ばすとは思わなかったのだろう。


 ティオは、多少経緯は違えど思惑通りのそんな周囲を認めながら、フィアにしか聞こえない声で囁いた。


「お前、今技能使ったろ……」


「気持ち悪すぎて言葉遊び(・・・・)をしている暇は無かったのです。それに、見られないようにしたので問題ないのです。もちろん殺してませんよ」


 ティオはここに来る前に、フィア達にあることを指示していた。すなわち、技能の使用禁止だ。


 技能を含めた、ティオ達の無詠唱での魔術は一般的にはありえないものだ。それが公にバレれば、もはや目立つ目立たないの問題ではない。その技術を欲した連中が、それは虫のように群がってくるだろう。流石にそれは問題だ。


 故に、ティオは2人に技能の使用禁止、或いは(・・・)呪文を唱えることを指示していた。呪文の内容はどうでもいい。世の中にオリジナルの魔術などいくらでもある。詠唱して魔術名と唱えて、魔術の体を成してさえいればいくらでも言い訳はきく。


 フィアはそれを言葉遊びと称したが、彼女らにしてみれば、その無駄は確かに遊びなのだろう。だが人間社会で生きるということはそういうことだ。


 それをわかっているのだろう、落ち着いたフィアは少しばかり不機嫌さを出しながら謝罪を口にした。


「……すいませんでした。次からは気を付けるのです」


「いや、わかってるならいいよ。つか、さっきのは俺が止めなきゃならなかった、すまん」


「腕、大丈夫?」


 いろんな意味で空気を読めないミラがフィアの腕をとって見る。フィアはミラを安心させるように、笑みを浮かべて言葉を返した。


「大丈夫ですよ。あの程度、何でも無いのです」


 その言葉を聞き、ミラも安堵して笑みを浮かべた。


「おい、お前ら大丈夫か?」


 声に反応してそちらを見れば、吹き飛ばされた男とそう変わらない程の大男が立っていた。見ればギルドの受付側から出てきたので、ギルド側の人間なのだろう。


「あなたは?」


「俺はギルドの王都本部で働いてるダランってもんだ。お前さんが不穏当なことを言ったらしいからトラブルに巻き込まれないようにって頼まれたんだが……遅かったか?」


 ダランと名乗った大男は店先で意識を失っている男を見ながら言った。そして、ダランの向こう側、受付の奥から心配そうに見ている女性に見覚えがあった。


「……(ありがとうございます)」


 ギルド職員が特定の傭兵を優遇するのは褒められたことではない。今回のは優遇とまでは言えないだろうが、念のために声に出さず、口だけで感謝を伝える。その女性はそっぽを向いてしまったが、頬を軽く染めている辺り、ティオの言葉は伝わったようだ。


「んで、お前さんらに怪我は無かったのか?」


「……ええ、何も」


 ダランがティオに声を掛ける。結果的に一方的に被害を与えた形である為、加害者として扱われるのかと一瞬警戒したが、すぐに無用な心配だったとわかる。


「なら良い。アレはこっちで対処しとくから、お前さんらはもういいぞ」


 あまりにもあっさりな扱いに、ティオは思わず口に出してしまった。


「……それだけですか」


 言って、すぐに口を噤む。わざわざ掘り下げる必要も無いだろうと自分を叱咤した。


「ん? ああ、俺らは傭兵同士の諍いには手を出さないことにしてるんだ。理由は色々とあるが、まず何よりも、キリが無いからな!」


 ダランはそういって笑い飛ばした。ふざけた言い分だが、事実、そうするしかないというのが現状だろう。


「もちろん、目に余るものや、怪我人が出そうなら止めに入るがな。まぁそれは置いといてだ、誰がやったんだ? アレ」


「私ですが」


 後ろで伸びている奴を差しながら、ダランが問いかけ、フィアが答える。それを聞いてダランが意外そうに声を上げた。


「嬢ちゃんが? へぇ……。お前さん達、明日の昇格試験受けるんだってな」


「ええ、そのつもりです」


「そうか。ちなみに、ギルド側の試験官は俺だ。明日、手合わせするのを楽しみにしておくぜ。ああ、知った顔だからって、甘くはしねぇからそのつもりでな!」


 ダランは再び笑い声を上げながら、気絶した男を担いでギルドの奥へと引っ込んだ。あれほどの大男を軽々と担ぐ辺り、体格は似ていても、先ほどの男とダランはモノが違う。


「……通過儀礼みたいなもんだと思ってたけど、案外楽しめるかもな」


 呟くように言うと、フィアが疑いの目をティオに向ける。


「わかってるよ。お前らに言った手前、下手な手は打たないって」


「それなら良いのですが。ティオさんはたまにボケてますからね」


 どうやらティオはフィアから時たまボケと思われていたらしい。ティオとしては心外だ。


「あははっ、ティオのぼけー」


「やかましいっ」


「あいたっ」


 意味が分かっているのかいないのか、ミラが笑い転げる。ティオは適当な拳骨をおとして黙らせた。


「ったく。ほら、帰るぞ」


「はいです」


「う~……」


 そう言って出口に向かって歩き出せば、2人はすぐに追従する。1人は頭を抑えて呻いているが。


 そして、周囲からは様々な視線を感じる。興味の視線、警戒の視線、奇異の視線。予定通りの結果と手応えに、ティオは満足してギルドを出た。


「そういえばフィア。馬鹿を吹っ飛ばした時、随分機嫌悪かったな? そんなに触られるのが嫌だったのか?」


「…………別に。あの男が気持ち悪かっただけです」


 素っ気なくそう言い放つフィアだったが、予想外の裏切りを受けた。


「違うよー。あのおじさんに、ティオが馬鹿にされてたから怒ったんだよ?」


「ミラッ!?」


「へ?」


 ティオが思わず変な声を上げる。まず馬鹿にされていたと言う自覚も無かった。ほぼほぼ無視していたからであるが。


「か、勘違いすんなですッ! ただただあの男が気持ち悪かっただけなのです!」


「ミラも怒ってたよ~♪」


 どこまでも空気を読まないミラがティオに抱きつく。ここぞとばかりにフィアは話を終わらせかかった。


「ほら、早く帰るですよ! ティオさんのせいであんな目にあったのですから、お詫びとしてまた魔素を貰うのです!」


「あ、ミラもほしーっ」


 ぴょんこぴょんこと飛び回るミラは見ていて楽しいが、同時に疲れも感じるティオだった。そこで、とあることに思い至る。


(俺が魔素を渡す時も直接触れるんだけど…………それほど嫌われてないってことか)


 ティオは薄く笑みを作る。それを敏感に察知したフィアはむっとした表情を浮かべた後、なにやらを思いついたようで、表情を意地悪そうな笑みに変えた。


「ところでティオさん、明日の約束、覚えていますか?」


「やくそくー」


「え? ……あ」


 言われて、思い出す。フィア達と王都見学の約束をしていたことに。


 ティオの反応を見て、形だけのため息を吐きながらフィアが助け船を出した。


「まぁいいです、試験の日取りは仕方の無いことですし。退屈はしそうにないですしね」


「ねー♪」


 フィアとミラが笑い合う。随分と仲が良くなったようだ。2人きりで部屋に籠らされていたからだと思うと複雑だが。


「明日はいいとしても、後日ゆっくりとお願いするですよ?」


「観光~!」


「……仰せのままに」


 ため息を吐いてティオが頷く。気のせいか、2人も随分人間らしくなったような気がする。2人にとって褒め言葉になるかどうかはわからないが。


 人への興味がそうさせるのだろうか。或いはティオやミネアと接してきたからか。どちらにしても良い傾向だが、ミネアのアレ(・・)なところだけは、影響を受けないで欲しいとティオは切実に思った。




ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


傭兵ギルドについて、色々と書いてはいますが、一般的な(?)冒険者ギルドと同じに考えていただいて結構です。

さて、次回は昇格試験です。久々の戦闘シーンですね。傭兵となればその手のシーンも増えていくとは思いますが。


では、『オーバーセンス』、次回もよろしくお願いします^^ノ

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