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オーバーセンス  作者: 茜雲
一章 雨夜、灼きつく想い
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過ぎたる力

「なるほど、な。これで色々と腑に落ちた」


 ティオがルミナ・ロードのことを話し終えると、納得したようにガルドが呟いた。


「気付いていたのか?」


「まぁ何かがあるってのはな。戦った時、特別な何か(・・)がないと説明できない事がいくつかあったからな」


 例えば、とガルドはあの不可視の風刃を空に向かって放つ。それは空気を薙いだだけだが、ティオには確かに風刃に宿る魔素が見えていた。


「本来、見えもしないこれを避けられるはずはないんだ。勘で咄嗟に避けられるのならまだしも、途中から完全に見切ってたろう? あと俺を視界にも入れていないのに動きを読んだり、他にも――」


「いや、もういい……」


 ティオは頭を抱えながら制止する。センスを隠し通すためには多少戦い方を考えた方がいいかもしれない。


 ティオは息を吐いて頭を振る。とりあえず、問題は先送りにして話を進めることにした。


「まぁとにかく、俺はルミナ・ロードの恩恵で六感(・・)が鋭い。魔素の制御能力も、正直並みの傭兵や狩人とは比べ物にならないと思う。……体が変質してからは特に」


「……ふむ。魔素を体外に出せるほどの制御能力は十中八九それの影響だろうな。魔素の視認も、おそらくそれが関係しているのだろう」


 顎に手を当てながら、ガルドは考察する。ティオもそれに同意する。


「俺もそう思う。けどやっぱり、不確定要素が多くて確信は――ッ!」


 再びティオを頭痛が襲い、言葉が途切れる。それを見ていたガルドが目を細め、しばし何かを考えた後、問いかけた。


「……ティオ、お前のルミナ・ロードに副作用か、力の代償のようなものはあるのか?」


「……無い、と思う。俺自身、この力を使いこなしているわけじゃないから正確なことはわからないけど……」


 ティオは頭痛で痛む頭を押さえながら答える。ガルドはティオの答えに一つ頷くと、続けざまに質問を投げかけた。


「そうか。ならもう一つ。一昨日の戦いで途中から急にお前の動きが鋭くなったが、あれもルミナ・ロードの力か?」


「いや、分からない。急に、感覚が鋭くなって、体も……ちょっと待て。今、一昨日(・・・)って……」


 ガルドはティオの答えを聞き、眉間に眉を寄せる。そして目を瞑り、ティオに言い聞かせるようにゆっくりと告げた。


「ああ、そうだ。俺達が戦ったのは2日前。お前は……丸2日以上、意識を失っていた」


 ティオは驚愕に顔を歪める。そして、その存在を誇示する様に、再び頭痛がティオを責め立てた。


「大丈夫か?」


 ガルドが心配そうにティオに声を掛ける。ティオは一言、大丈夫だと呟いて話を続けるよう促した。


「……お前は戦いの後、ずっと眠っていた。流石に日が変わってから何度か起こそうとしたんだがな。うなされるばかりで、起きる様子はなかった。正直、あと1日目を覚ますのが遅ければ見捨てていたかもしれん」


「いや、今まで見張ってくれていただけで十分だ。ありがとう」


 申し訳なさそうに話すガルドに、ティオは首を振る。それから話を逸らすように疑問を口にした。


「それにしても、丸2日以上……。体力を使い切ったにしても……」


 確かに戦いの中、ティオは多くの傷を負ったが、都度ヒールを使っていたために最終的な負傷は大したことないはずだった。むしろ傷で言うならガルドの方が深かっただろう。


 少なくとも丸2日も意識を失うほどの傷ではなかったことは間違いない。


 他に原因として思い浮かぶのは魔素の生成で体力を使い切ったことぐらいであったが、それでも少々過分に思える。


「さっきの、副作用や代償の話だがな……」


 ガルドは前置きを入れ、真剣な表情でティオに向き直る。


「ティオの動きが鋭くなったあの時、確かに、その瞳が紅く灯っていた」


「……それって」


 呻くようなティオの呟きに、ガルドは首肯する。


「そうだな。同じだったよ、魔物とな」


「――そう、か」


 告げられた言葉を、ティオは諦めたように受け止める。


 瞳の色が赤く染まった時点で、その可能性は考えた。


 魔素を生み出したことで、疑いは増した。


 そしてガルドの話を聞いて、確信した。自分はもう、人間ではないと。


 しかしそれももう、受け入れた。納得した訳ではない。ただ、目的の為に受け入れ、もう、捨てたのだ。


 それなのに、今更それがなんだと言うのか。ティオは疑問と、嫌なことを思い出させた非難を込めた視線をガルドにぶつけた。


 ガルドはそれを黙って受け止め、話を続ける。


「俺たちのそれは、体内の魔素が活性化した時に起こりうる。きっかけは感情が昂ぶった時だったり、危険を感じた時だったりと様々だが」


「さっき言っていたやつか」


 ティオの言葉に、ガルドは頷く。


「ああ。俺たちが生成する魔素は精神的な影響を強く受ける。一番分かりやすいのは感情の昂ぶりによる活性化だ。技能の威力が上がり、瞳が僅かに紅く灯る」


「ああ確かに、あの時、魔術の威力や効果が強く…………!」


 ティオが頷き、ガルドの言葉を肯定する。そして何かに気付いたようにはっと顔を上げた。


「――お前のそれ(・・)も、魔術の一種だろう?」


 そう、ルミナ・ロードも他の魔術と同様に強化されている。それが、魔素の活性化によって更に強化されたとしたら……。


 その答えをティオは持っている。何せ実感したのだから。あの戦いの場で、空間の全てを知覚するような感覚や、魔術を思いのままに操る力を。


「直接やり合った俺だから言えるんだろうが、正直、あれは異常だ。魔素を視認していることもそうだが、人間の限界を超えていると言ってもいい。巨大な力には相応の反動、リスクがある」


「力の代償……。丸2日も意識を失ったのは、それが原因……か?」


 ――ツキン


 再び頭痛が襲う。まるで肯定する様に。


「過ぎた力は身を滅ぼす……。言うなれば、“オーバーセンス”だ。お前はまずこれを制御出来るようにしなくてはならん。でなけば、次は2日では済まんかも知れんぞ」


「…………」


 ティオは表情を曇らせる。魔素の活性化は、感情に左右される為に制御は難しい。


 かといって、ルミナ・ロードの制御は、昔からティオの目標の一つでもある。つまり、5年の歳月を費やしても、制御し切れていないということだ。


 沈黙が流れる。そしてそれを破ったのは焚き火の燃料にしている木材が折れ、崩れる音だった。


 気付けば、火はもうほとんど消えていた。


「……もう夜も深い。悩むのは明日にして、今日は寝るとしよう。明日は案外あっさり良案を考えつくかもしれんしな」


 ガルドは努めて明るく話す。その隣に座るフィアも、限界が近いらしく、うとうとと夢心地の様だ。


「そう、だな」


 ガルドに合わせ、力なくも笑みを浮かべながら頷く。


 膝の上のアルミラージを起こさないよう脇へどけ、倒れこむように仰向けに寝転がる。


 消えかけの焚き火が供する灯りは、眠るにはちょうど良かった。



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